第43話 災厄との戦い
その日から、ミセル、ローレン、サトリ、リーナはそれぞれ別行動を取った。ミセルは現場を視察した後、自ら作業しながら指揮を執り始めた。ローレンは放置されていた書類の整理に取りかかり、サトリとリーナはネズミ捕りの作成を開始した。
町で使われていたネズミ捕りは、餌でおびき寄せ、バネの力で一匹ずつ捕らえる方式だった。しかし、これでは駆除がはかどらないと考えたサトリは、村で昔から使われている方法を採用することにした。それは、桶の上にシーソーの原理を利用した蓋を設置し、ネズミが蓋の上に乗ると自動的に桶の中へ落ちる仕組みだった。餌ではなくネズミの好奇心を利用し、一度に多くのネズミを捕らえられるのが特徴だった。
一晩、診療所の食糧庫に仕掛けて効果を確認したところ、大成功だった。二人はタカナミに相談し、人手を割いてもらい量産を進めた。ネズミ捕りの仕掛けだけでなく、設置場所の選定も重要である。町での経験はなかったが、サトリとリーナは村や森で培った知識を活かし、的確にネズミの巣や餌場に罠を仕掛けていった。
タカナミは不眠不休で患者にあたっていた――サトリとリーナにはそう見えた。ある日、二人は心配してタカナミを呼び止めた。
「先生、いつ眠っているんですか? いつ食事をしているんですか?」サトリが尋ねた。
タカナミはニヤリと笑い、「医者は寝なくても食べなくても死なないんだぜ!」と冗談めかして言った。そして、口調を改めて続けた。
「心配ありがとな。ちゃんと合間に睡眠も食事も取ってるさ。俺は医者だぜ。自分を管理できずに、患者を治療できるわけがないだろ?」
サトリとリーナは目を見合わせ、静かに頷いた。医者とは、かくあるべきものなのかもしれない。
またある日、タカナミはローレンが詰めている事務室にねぎらいに来た。ローレンは忙しく書類に向かっていたが、タカナミの姿を認めると手を休めた。
「よう! ローレン! 仕事はどうだ。お前のおかげで物資の流れが良くなった。みんな感謝してる。ありがとう。」
「ああ、俺は行商人だからな。こういう仕事も実は得意なんだ。」ローレンは少し気恥ずかしそうに答えた。
「ところで先生、あんたの診療所では看護婦だけでなく魔法使いたちも働いてるな。普通、医術と魔術は相容れないものだが、どう考えているんだ?」
タカナミは豪快に笑った。
「ローレン、患者の苦痛を和らげるのに、医術だ魔術だとこだわる必要があるか? 俺は役に立つものは何でも使う主義だ。」
ローレンはタカナミをじっと見つめ、ふっと笑った。「なるほどな」と、胸の奥で何かが腑に落ちるのを感じた。
そのまたある日、ミセルはタカナミに報告に来た。
「先生、近頃、運ばれてくる死体の数が減ってきたように思うのだが。」
タカナミは目を閉じ、深く考え込みながら答えた。
「ああ、こちらでもそれは把握している。光明が見え始めたな。お前たちと、みんなのおかげだ。」
その時だった。診療所の扉が勢いよく開き、ナギが駆け込んできた。顔は青ざめ、息が荒い。
「先生――ローレンさんが、大変なんです!」




