第37話 大逆転
ローレンはミセルをちらっと見た。ミセルは剣の柄をさりげなくポンと叩いた。
「お前たち、どうしてここにいる?いつ俺たちを追い越した?」
「そんなの簡単だぜ。ここいらは俺たちの庭のようなものだ。近道なんぞいくらでも知ってるさ。」
頭の男が薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「お前たちの目的は何だ?」
「金と荷馬車だ!そこにおいてどこかへ行っちまえ。そしたら、このガキは返してやる。」
「金かぁ……残念だが、金はない。行商人は現金を持ち歩かないからな。それに荷馬車に載せている商品は、素人が売りさばくには難しい代物ばかりだぜ。町で売っても二束三文で買いたたかれるぞ。」
「なに?」頭の男は驚いた。しばらく考え込んだが、嫌らしい笑みを浮かべて新しい要求をした。
「じゃあ、そこの赤い服の娘をよこせ。どこかのお屋敷に使用人として売ってやる。」
ローレンはミセルの方をまた振り返った。ミセルもまた剣の柄を一回たたいた。
「そんなことはできない。リーナは大切な仲間だ。」
「おやおや、このガキは大切でないと?」不良たちはいっせいに笑った。
ローレンは渋い顔をしながら、静かに言った。
「……わかった。リーナ、お前を渡そう。」
リーナは無表情でローレンを見つめた。だが、彼女の目の奥には何かが光っていた。
不良たちは満足げに笑い、頭の男が顎をしゃくった。
「ははっ、わかりゃいいんだよ。さあ、お嬢ちゃん、大人しくこっちに来な。おっと、武器はそこに置いていけよ。女騎士さんは動くなよ。」
リーナは大人しく従った。愛用の両手小刀を地面に置き、一歩一歩、不良たちの方へ歩いて行った。不良たちはやいやいとはやし立てる。
……と、その時、サトリが叫んだ。
「その男の子は闇の王の手の者だ!手を出すと恐ろしいことになるぞ!」
「なに?」不良たちが動揺した。その一瞬の隙を、ローレンは逃さなかった。
「リーナ!これを!」
彼が放った投げナイフが、リーナの足元に転がる。
リーナの表情が変わった。目が鋭く光る。次の瞬間、電光石火の速さでナイフを拾い上げると、頭の男の背後に回り込み、その喉元にナイフを突きつけた。
「……動くな。」
冷たい声が響いた。恐怖で顔を歪めた頭の男を助けようと仲間たちがリーナに近寄ろうとした、その刹那――
「やあやあ、我こそはミセル・ド・ラウドルップ!誇り高きラウドルップ家の娘だ!」と言うや否や長剣を抜き不良たちに向かっていった。
突如響いた怒号と煌めく剣に、不良たちの顔色が変わった。
一瞬の沈黙。だが、次の瞬間――
「ひぃっ!」
誰かが悲鳴を上げた。それを皮切りに、不良たちは一目散に逃げ出した。
しばらく不良たちの背中を見送った後、ミセルはローレンとリーナを見回し、会心の笑みを浮かべた。
「みんな、よくやったな。大逆転だ!」
※二束三文:売ってもほとんど金にならないような安値をつけられること




