第36話 追っ手
街道を全速力で駆け抜ける荷馬車と騎馬。村がみるみる遠ざかっていく。
サトリとアモンは振り落とされまいと必死に荷台にしがみついた。リーナも馬を駆るミセルの背中にしがみつく。ローレンは必死で馬を操りながら、後方を警戒した。
「追っ手を振り切らなきゃ……!」
しかし、その時だった。
エイミーが苦しそうに鼻を鳴らし、口から白い泡を吹き始めた。
「エイミー……!」
ローレンの顔が歪む。もうこれ以上は走らせられない。仕方なく、彼は馬を止める決断を下した。
――
荷馬車を停め、ローレンは無念そうに馬具を外しながらため息をついた。
「エイミーをこれ以上走らせるのは無理だ。ここで少し休もう。」
ルドルフの手綱を引いていたミセルも頷く。
「仕方ないな。だが、長居はできないぞ。」
「わかってる……」
ローレンは弱々しく答えた。
サトリとリーナは荷台から飛び降り、アモンも地面に降り立った。追っ手の気配はまだ感じられなかったが、油断はできない。
(「水が欲しいな。近くに小川があるみたいだ。」)
アモンは耳を澄ませ、遠くから流れる水音を聞き取った。
「水を汲んでくるよ。」
水袋を肩に引っ掛けると、アモンは小走りで茂みの奥へと消えていった。
――
小川にたどり着き、水を汲もうとしゃがみ込んだ。冷たい水が指先を撫でる。
(ちゃんと逃げ切れるかな……)
そう思った瞬間、背後でカサリと草を踏む音がした。
「……!」
反射的に振り向いた時にはもう遅かった。何者かの腕がアモンの口を覆った。
「……んぐっ!」
必死に暴れようとしたが、相手の腕力は強く、さらに背中に膝を押し当てられ、呼吸すらままならない。
「静かにしろ、小僧。」
耳元で低い声が囁く。声の主は、あの不良共の頭の男だった。
「騒ぐな。騒げば、命はないぞ。」
短剣がアモンの首元に押し当てられる。
アモンは歯を食いしばった。
(くそっ……まずい!)
逃げたくても、自由に動けない。男がアモンの体を乱暴に持ち上げ、手足をロープで縛ると、肩に担ぎ上げた。
「大人しくしてろよ、ガキ。」
そう言うと、男はアモンを抱えたまま、茂みの奥へと消えていった……。
――
ローレンは馬具の点検を終え、水袋を肩にかけた。
「よし、そろそろ出発しよう。」
「あれ?アモンは?」
リーナが声を上げた。一同は辺りを見回し、「おーい」と声をかけて探し始める。
そのときだった。
林の奥から、鋭い声が響いた。
「おい、お前ら!」
皆がそちらを見ると、薄暗い林の中に十数人の影が立っていた。そして、その中央には縄で縛られたアモンの姿。
「アモン!」
「こいつの命が惜しけりゃ、大人しくしな!」
頭が、アモンの首元に短剣を押し当てた。
ローレンたちは武器を握る手に力を込めたが、下手に動けばアモンが危ない……。
緊張が張り詰める中、ローレンは息を呑んだ。
(どうする……?)
※馬具:人が馬を自在に操ったり、安全に乗ったりするために馬に装着する道具の総称
※水袋:水を入れるための袋のこと




