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第32話 嵐の日

私の小説に目を留めていただきありがとうございます。この話から第53話までが”旅の道中編”です。色々エピソードを工夫してみました。どうぞ楽しんでください!

―――その日は朝から風が強かった。空を見上げると雲が激しく流れ、木々の枝から無数の葉が千切れ、風に乗って舞っていた。


街道沿いの小さな空き地では、五人が武芸の稽古に励んでいた。言うまでもなく、それはサトリ、リーナ、ローレン、ミセル、そしてアモンの一行だった。


ミセルが悠然と剣を構え、それにリーナが得意の両手小刀で果敢に挑みかかる。そのリーナを横で応援するアモン。サトリは矢をつがえずに構える動作を繰り返し、ローレンはナイフを地面に突き立てる練習をしていた。


ふと、ローレンが空を見上げ、険しい顔で言った。


「ミセル、訓練はここまでだ。嵐が来る、早く避難しよう。」


いつもなら皮肉を交えて返すミセルも、今回はすぐに「ああ」と頷き、撤収を指示した。


荷馬車に幌をかぶせ、急いで準備を進めるうちに、ポツポツと小雨が降り出した。


「急ごう!本降りになる前に人里にたどり着かないと!」


一行は駆け足で街道を進んだ。


幸いなことに、風雨が激しくなる前に、小さな集落にたどり着いた。ローレンが交渉し、古びてはいるがしっかりした作りの納屋を借りることができた。荷馬車を中へ入れ、一行が人心地つくのを待っていたかのように、風は唸りを増し、雨は滝のように降り注いだ。


「私たち、ついてるわね。」


リーナが微笑むと、アモンが元気よく答えた。


「そうだね、リーナ姉ちゃん!」


アモンは一行に加わってから、なぜかリーナにだけ懐き、大人やサトリにはどこか反抗的な態度を取っていた。だが、リーナが目を光らせているせいか、ちょっとしたいたずらを除いては、悪童らしい素振りを見せることはなかった。


嵐が去るのを待つ間、大人たちは子供たちに様々な話を聞かせてくれた。冒険譚、不思議な噂話、昔話――外で唸る風音や雨音を聞きながら、暗いランプの前で耳を傾けると、どんな話もおとぎ話のように感じられた。サトリは次第にまぶたが重くなり、やがて静かに眠りに落ちた。


サトリは夢を見た。


長い冒険の末、サトリたちは闇の王を討ち倒し、人々から歓声と祝福を受けた。王侯貴族たちも彼らを称え、サトリはいつしか王として玉座に座っていた。


リーナは優雅な王妃として彼の隣に寄り添い、ローレンは賢臣として国を支え、ミセルは忠実な将軍として剣を握っていた。アモンは彼を捨てた両親と再会し、穏やかで幸せな生活を送っていた。


輝かしい栄光の日々が、まるで永遠に続くかのように思えた。


しかし、ふと気づくと、人々の姿が次々と消えていった。


「どうして……?」


叫ぼうとするが、声が出ない。


宮殿は音もなく崩れ、黄金の床は砂となり、壁は朽ちて闇に飲まれた。


最後に残ったのは、ただの荒野。


その荒野に、彼は一人立ち尽くしていた。


そして、遠くで声が聞こえた。


「サトリ、起きろ!」


―――目を覚ますと、そこには納屋の天井があった。


ランプの灯が揺れ、雨音が激しく響いている。


リーナが心配そうに覗き込んでいた。


「大丈夫? すごくうなされてたわ。」


サトリはぼんやりと彼女を見つめ、そして、静かに微笑んだ。


「……夢だったんだね。」


そう呟くと、まるで何かがふっと消えていくような気がした。


彼が見た世界は、未来の幻か、それともただの夢か――


それを知る者は、誰もいなかった。

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