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第30話 悪童

我に返ったサトリが声の方を向いた。そこには、少しすすけてはいるがきちんとした身なりの少年が立っていた。


「おにいちゃん、旅の人でしょ?今日は宿に泊まる?」


「うん、二、三日は泊まると思うけど…どうしたの?」


「ねぇ、お願いがあるんだ」


少年はにっこり笑い、道端を指さした。そこには、痩せ細った五人の乞食が並んで物乞いをしていた。


「ボク、あの人たちに銀貨をあげたいんだけど、今日のお小遣い、もう使っちゃったんだ。坂の上のお屋敷に住んでるんだけど、明日ちゃんと返すから、五枚だけ貸してくれない?」


サトリは、目の前の光景に胸が締めつけられるような気持ちになった。都会には乞食がいるものだと知識では知っていたが、実際に見るのは初めてだった。城塞都市では貧民院や孤児院が整備され、そうした光景は目にしなかった。しかし港町では、そうした施設がなく、物乞いや片足を失った軍人たちが至る所にいた。


サトリは思わず、村の人々が持たせてくれたなけなしの路銀から銀貨を取り出そうとした。


その瞬間——


「サトリ、やめろ!」


鋭い声が飛んだ。驚いたサトリが手を引っ込める。声の主は、得意先から戻ってきたローレンだった。


「そいつはこの辺りで有名なアモンって悪童だ。善意に付け込んで旅人から金を騙し取るのさ。銀貨を渡したら、そのまま逃げる手口だ。ちょうど俺が戻ってきてよかったな。お前、危うく騙されるところだったぞ」


アモンと呼ばれた少年はそろりと後ずさりし、次の瞬間——脱兎のごとく駆け出した。


しかし、目の前に光る剣が突きつけられた。


「話は聞いていたぞ、行商人。護民兵に突き出すか?」


剣を構えていたのはミセルだった。リーナが目を丸くし、彼女の隣に立っていた。


「勘弁してくれ!」


アモンは途端に泣きそうな声で懇願する。


「おいら、赤ん坊の時に両親を亡くしてさ…こうするしか生きる方法がないんだよ…!」


「それもどうせ嘘だろう」


ローレンは冷ややかに言い放った。「まあ、すぐに釈放されるだろうが、ちょっとは懲らしめられた方がいいだろう。護民兵に——」


「待って!」


ローレンの言葉をリーナの声が遮った。


「お願い、放してあげて!嘘か本当かなんて、誰にも分からないじゃない。見逃してあげようよ」


リーナの顔は真剣だった。自分と同じく両親を失った境遇の少年が、片や幸せに成長し、片や過酷な運命に翻弄されている——その不平等さが、彼女の心を締めつけた。


サトリはそんなリーナの様子を、まるで他人事のように眺めていた。だが、ふとアモンの胸元に光る何かを認めた。


「アモン、それ…何?」


「これ?」


アモンは、自分の首にかかる小さなペンダントを手に取る。


「おいらが赤ん坊の時から身につけてるんだって。拾ってくれたばあちゃんが言ってたよ」


それを見た瞬間、ミセルの表情が変わった。


——サッと血の気が引き、まるで凍りついたように目を見開く。


「黒曜石に…蠍の意匠…?」


ミセルの声は震えていた。


「それは——闇の王の紋章!」


鋭く突きつけられた剣の切っ先が、さらにアモンの喉元に近づく。


「貴様…何者だ!」


アモンの顔が青ざめた。


「や、やめてくれ…おいら、何も知らないよ!」

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