第29話 港町
・・・それから一行の旅はとても平穏だった。早朝に訓練をし、朝に出発して村や町で行商し、夜は翌日の準備をする。そんな毎日を淡々と過ごしていた。しかし進めば目的地が近づくのは道理である。一行はとうとう港町に着いた。
関所を抜け、高台に出ると、サトリとリーナはその光景に息をのんだ。湾曲した海岸線に沿って、色とりどりの建物がぎっしりと並び合い、その隙間を縫うように細い路地が迷路のように走っている。山肌にそって家々が立ち並び、まるで箱庭のような美しさだった。
そして海!
海は深い青をたたえ、穏やかな波がキラキラと夏の太陽を反射して、まるで宝石を散りばめたように輝いていた。港には大小さまざまな船が停泊し、白い帆を広げた漁船や、威厳ある帆船が静かに浮かんでいる。
「海よ!海だわ!」
リーナがはしゃいでサトリに言った。
「そうだ!海だね!」
サトリも興奮して叫ぶ。
二人の様子を、ローレンとミセルは微笑ましく見守っていた。
リーナが「早く海に入ってみたい」と言うので、ローレンは宿に入るのは後回しにして、噴水広場に荷馬車を止めた。リーナは駆け出すように砂浜の方向へ走っていく。ミセルも笑いながら後を追った。
サトリもそれに続こうとしたが、ローレンの無慈悲な声が飛ぶ。
「サトリ、すまんが荷馬車の番を頼む。俺はお得意さんのところに顔を出さないといけないんだ。」
「・・・」
サトリは思いっきり膨れたが、いろいろと世話になっているローレンの頼みを断るわけにはいかない。
「わかったよ、ローレン。」
サトリはしぶしぶ荷物番を引き受けた。
噴水広場には市が立ち、大層な賑わいだった。涼を求めてやって来るのだろう、子供の姿も少なからずある。夏の強い日差しがサトリを照りつけ、じわりと汗がにじんだ。
頭がぼーっとしてきた、そのとき——。
「ねえ、お兄ちゃん!」
幼い男の子の声が、サトリに届いた……。




