第24話 白銀の騎士
ドドドドド――。
地響きのような馬蹄の音が闇夜に響き渡ったかと思うと、鋭い気合の声とともに突如として止んだ。
次の瞬間、白銀の鎧をまとった騎士が、ふわりと荷馬車を飛び越え、ヘドムの群れのど真ん中へと降り立った。月光を反射するその姿は、まるで銀の彗星のようだった。
騎士は一瞥するように三人の方を見やり、冷ややかに言い放つ。
「下がれ!」
言葉と同時に、長剣が鞘から滑るように抜き放たれる。その刹那、騎士の馬が弧を描くように跳ね回り、闇の怪物どもを蹴散らす。剣が閃くたびに、紫色のヘドムの身体が両断され、黒い霧が舞った。
その動きには無駄が一切なかった。騎士は馬の動きを完全に掌握し、人馬一体の舞を踊るように、優雅かつ冷徹にヘドムを屠っていく。その鮮やかさに、サトリたちはただ息を呑むしかなかった。
戦いは長引いた。だが、最後のヘドムが甲高い悲鳴を上げて溶け去ったとき、ようやく静寂が戻ってきた。
騎士は肩で息をしながらも、疲れの色を見せることなく、馬の首を軽く撫でる。そして、ゆっくりと荷馬車へ近づき、冷たい声で尋ねた。
「お前たち、怪我はないか?」
威圧感すら漂うその声音に、ローレンとリーナは言葉を失った。しかし、いち早く我に返ったサトリが、慌てて口を開く。
「ありがとうございます、騎士様。リーナが少し傷を負いましたが、僕たちは大丈夫です。」
「そうか。なら良い。……だが、あれほどの大群は私も初めて見た。運が悪かったな。」
騎士はそれだけ言うと、くるりと踵を返し、馬に手綱を引いた。
「ではな。」
まるで何事もなかったかのように立ち去ろうとする騎士に、ローレンが思わず叫ぶ。
「騎士さん! 待ってくれ! 俺たちだけじゃ不安だ。せめて今晩、一晩だけでも一緒にいてくれないか?」
騎士は立ち止まり、しばし沈黙する。長い間をおいた後、ようやく小さく息を吐いた。
「……そうか。それもそうだな。乗りかかった船だ。そこまで一緒に行こう。」
その言葉に、三人は安堵の息を漏らした。
騎士を迎えた一行は、ヘドムの巣から遠く離れた場所で野営の準備を始めた。
しかし、騎士は焚火のそばに寄ることなく、少し離れた場所に一人用の寝床を作り始めた。その異様な距離感に、サトリたちは思わず視線を交わす。
それに気づいた騎士は、一瞬ためらったのち、小さく苦笑した。
「……ああ、そうだな。」
騎士はゆっくりと兜を外した。
その瞬間、月明かりの下に、長く美しい栗色の髪がこぼれ落ちた。
「我が名はミセル。ミセル・ド・ラウドルップ――誇り高きラウドルップ家の娘だ。」
焚火の揺れる炎が、彼女の銀色の鎧を照らし出していた。




