第14話 胸の宝珠
リーナの胸の光は、やがて八つの小さな宝珠に収れんした。
「ほう、お主は幼いころに家族を亡くしたのう。だから、孝と悌が過剰じゃな。気を付けるが良い。」
光る宝珠たちをしばらく観察していたロトは、楽しそうに言った。
「お主の年のころの娘にしては、よく磨かれておる。精進したのう。」
意味はよく分からなかったが、リーナはなぜか涙ぐんでしまった。ロトが再び静かに詠唱すると、宝珠は輝きを失いながらリーナの胸に収まった。
「さて、次はお主の番じゃ、サトリ。」
サトリは緊張して体が硬くなった。リーナのときと同じようにロトが詠唱する。サトリの胸から光る宝珠が取り出された。ロトは一目見るなり感嘆の声を上げた。
「これはこれは……すべての徳が均等に成長しておる。稀に見る、まさに平凡中の平凡じゃな! はっはっはっ。」
それを聞いたサトリは気分を害した。自分が平凡であることは自覚している。だが、こんな魔法を使ってそれを突きつけなくても……。
「いや、気分を悪くするでないぞ、サトリ。これはな、中庸といって、人の子の理想の形の一つだ。大切にするが良い。」
優しくロトはなだめたが、サトリは釈然としなかった。
サトリの宝珠を元に戻すと、ロトが言った。
「それでは、儂の宝具を見せてやろうかの。」
そう言うなり、ロトの胸のあたりから、サトリやリーナの光とは比べ物にならないまばゆい光が放たれた。まぶしくて目を細めていた二人がようやく目を慣らすと、そこに見えたのは一冊の本だった。
「これはの、光の書という。儂は見者となるために、長い年月をかけてひたすらに智の徳を磨いたのじゃ。その結晶がこれじゃ。」
サトリとリーナは驚愕してその光の書を見つめた。ロトが続けた。
「光の書が顕現するとな、そうさな、賢くなれるとでも言っておこう。人には個性があるからのぉ、一概には言えんがの、はっはっはっ!」
ロトは心底、愉快そうに笑った。
「さて、お主らの旅は、ニンフを助け、グラトスを倒すことが目的じゃがの、それは実はどうでもよい。お主たちはこの旅で己の徳を磨くのじゃ。それが真の旅の目的であり、世界を救う方法じゃ。」
ロトは諭すように優しく笑った。サトリとリーナは驚いたが、この不思議な見者がすべてを見通していることは十分理解しているので、黙ってうなずいた。
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「よし、ではもう一つの問題を片付けよう。サトリ、お主は『誠実の行商人』から毛皮を預かっているのう。それを出してみよ。」
サトリはローレンに一枚だけ託された毛皮を差し出した。
「ではの、これに『嘘を見破る力』の魔法をかけてしんぜよう。ただし、それをどう使うかはお主ら次第じゃ。」
「ローレンのことを知っているの?」と思わずリーナは口にしかけたが、愚問であることに気づき、口を押えた。その間にロトは毛皮に手をかざし、何か念を込めるようなしぐさをした。ロトが魔法をかけると、一瞬だけ毛皮は閃光を放ったが、その後は元の毛皮に戻った。
「ありがとうございます、ロト様。」
二人は声を揃えて礼を言った。ロトは快活に答えた。
「なに、礼には及ばぬ。何百年ぶりに人と話せて愉快であった。その礼じゃ、とっておくが良い。」
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ロトの家の客用の寝室には、大きなベッドがしつらえてあった。そのベッドに並んで寝ころび、二人は今日の出来事を小声で反芻していた。
「まったく、なんて一日だったのかしら。」
「そうだね、驚くことばっかりだったね……。」
「一番驚いたのは、あなたがノーマンズランド行きを決めたことかしらね。」
「うん、いろいろ考えたさ……でもね、後悔はしないよ。しちゃいけない気がするんだ。」
いつになくきっぱりと話すサトリに、リーナは少し戸惑いを見せたが、やがて、
「もう寝ましょう。疲れてるでしょ。」
「ああ、そうだね。」
ロトの心づくしのベッドは、優しく二人を包み込み、やがて深い眠りへといざなった……。




