第13話 決断
サトリはその笑みを見つめながら、言葉にできない違和感を覚えていた。
『ロトは何かを知っているはずだ。なのに理由をはぐらかしている……』
サトリはうつむき、自分の心と向き合った。
『ロトは見者だ。もし僕が行くべきでないのなら、きっと止めるはず。でも、止めない……それどころか、行けと言う。』
ふと、サトリの脳裏に過ぎったのは、ガロの試練を乗り越えたときのことだった。自分は怖かった。だが、勇気を振り絞り、一歩を踏み出した――その瞬間、世界が変わった。
(もしかしたら……これも同じなのかもしれない)
サトリは静かに顔を上げた。
「わかりました。ノーマンズランドへ行きます」
言葉は震えていた。しかし、その瞳は真っ直ぐだった。
「僕が行くことが定めなら、それを確かめるには……行くしかない!」
平凡な少年がこの結論に至るまでに、どれほどの葛藤があっただろう。
だが、サトリは確かに「決断」したのだった。
ロトは静かに微笑み、言った。
「善哉、善哉……」
サトリとリーナは、その夜、ロトの饗応を受けた。
並べられた料理は、見たこともない食材ばかりだった。だが、一口食べると驚くほど美味い。
「これ、何の肉?」
リーナが興味津々に尋ねる。
「さあのう? ここにあるものはすべて、この地の恵みじゃ」
ロトは銀の杯を手に、楽しげに微笑んだ。
(なんだか……不思議な人だな)
サトリはそう思いながらも、空腹に抗えず、次々と料理を口に運んだ。
食事が終わると、ロトが言った。
「サトリ、リーナ。疲れているところすまんが、食後に話したいことがある。少し時間をくれんかのう?」
二人に拒む理由はなかった。
改めて居間に座ると、ロトが掌を軽く振った。
次の瞬間、燭台に乗ったロウソクの炎が揺れ、不思議な光に変わった。
「この灯り、普通の火じゃない……?」
サトリが訝しげに尋ねると、ロトは笑った。
「ふふ、魔法の灯りじゃよ」
サトリは思わず息をのんだ。
「さて――」
ロトは、二人を見つめながら口を開いた。
「お主らは『八徳』という言葉を知っておるかの?」
リーナが即座に答える。
「もちろんよ! 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌! 村の大人たちに、うるさく教えられたわよ」
ロトは満足げに頷いた。
「さすが皇帝家の末裔じゃな。良い教育を施されておる」
サトリとリーナは顔を見合わせる。
「人の子は、この八徳を宿して生まれてくる。じゃがの――」
ロトはゆっくりと指を動かした。
「その徳は、最初から発現するものではない。研鑽を積むことで、初めて顕現するものなのじゃ」
サトリとリーナは息をのんだ。
「どれ、見てやろうか」
ロトはリーナの胸の前に手をかざし、小さく呪文を詠唱した。
次の瞬間――
リーナの胸が、まばゆい光に包まれた。
「な、何!?」
リーナが驚きの声を上げる。
サトリもまた、息を詰まらせた。
(これは……一体!?)
仁…やさしさと思いやりをもって人に接すること。
義…正しいことを選んで行う勇気をもつこと。
礼…あいさつやマナーで相手を大事にすること。
智…よく考えて正しい判断ができる知恵をもつこと。
忠…うそをつかず、約束や役目を最後まで守ること。
信…相手を信じ、自分も信じてもらえるように正直でいること。
孝…お父さんやお母さん、年上の人を大切にすること。
悌…兄弟や友だちと仲良くし、思いやること。




