第12話 南の賢者
笑みを含んではいるが、どこか厳格な雰囲気のする声色が続けた。
「いい見物をさせてもらった。ガロは神獣の生き残りでの、善人と悪人を嗅ぎ分ける賢狼じゃ。善人は通し、悪人は通さないようしつけておる。だから善人ならば必要なのは勇気だけなのじゃが、まったく、お主らは面白い子供じゃな。」
恐る恐るリーナが疑問を口にした。
「それなら百年間、街に帰ってきた人がいないのは何故かしら?」
含み笑いをしながら、室内の老人が答えた。
「簡単なことじゃよ、悪人しか来なかったんじゃよ。」
わはは、と老人が笑う。その悪人たちはどうなったんだろうと想像しようとしたリーナはブルっと震え、サトリは下を向いた。
「さあさあ、中へ入るが良い。大事な話があるのじゃろう?」
おっかなびっくり二人は中に入った。無数の本が並ぶ棚に囲まれた居間に老人は座っていた。
「さあ、座るが良い。飲み物用意させよう。」
老人が言うと、指をパチリと鳴らした。すると目には見えないが何かが動く気配がした。驚くべきことに見えない何かが飲み物の準備を始めた。その動きは、まるで透明な女中でもいるかのようであった。グラスが音もなく運ばれ、二人の前にそっと置かれる。見えないのに見えるような感覚に、二人はめまいを覚えた。
運ばれてきた飲み物は薄い黄色をしていて爽やかな香りがした。そして驚くことに氷が入っていた。しかし先ほどからの緊張と駆け足でのどがカラカラであった二人は、氷に気づかず、一気にその飲み物を飲み干した。老人は笑ってお代わりを見えない女中に命じた。
「さて、サトリとリーナ、ノーマンズランドへの旅は必然じゃ。行くがよい。」
サトリとリーナは二人とも飛び上がらんばかりに驚いた。まだ名乗ってもいないのに、用件まで先に言われたからだ。
「この方が南の賢者?」
「たぶんそうだよ。」
ひそひそと言葉を交し合う。
「ふぉふぉふぉ、驚いたかの?儂はロト、人は賢者と呼んでくれるがの。儂は自分の事を見者だと思うとる。世界を観想することがもっぱらじゃからのお。サトリヌスの血を引く者が動けば、見ぬふりはできんのじゃ。」
サトリは何とか衝撃を受けた心を持ち直しながら、おずおずと問いかけた。
「ロト様、なぜ私がそんな役目を引き受けなければならないのでしょうか?」
「ふむ、それはお主がお主だからじゃ。お主はニンフを助け出さなければならない、と思っているじゃろうが、お主がニンフを助ける必要はない。お主の歩みが、世界の流れを変えるのじゃ。」
サトリもリーナもまったく意味が分からなかった。
「よいよい、いまは分からずとも。そのうち分かるようになる。」
賢者、いや、見者ロトは朗らかに笑った・・・




