第10話 賢者の試練
夜明け——。
まだ朝もやの残るこの時間の大通りは、都会とはいえ人影はまばらだった。石畳の道を三人は大門に向かって黙々と歩いていた。
ローレンは、若い二人を死地に追いやったかもしれないという慚愧の念に苛まれていた。サトリは、これから挑む試練に対する恐怖に足を重くしていた。一方、リーナだけはなぜかウキウキとした様子だった。
大門の下で、一人の大人と二人の子供は別れを迎える。
「じゃあね、ローレン。必ず賢者に知恵を授かってくるわ!あなたを破産の危機から救ってあげる。」
リーナは元気よく言い、ローレンに手を振った。
「ああ。でも、絶対に無理はするな。危ないと思ったらすぐに引き返せ。必ず帰って来いよ。」
ローレンは重々しい口調でリーナに念を押した。
サトリは何も言わず、ただローレンに深く頭を下げると、静かに歩き出した。
遠ざかる二人の背中を見送りながら、ローレンは低くつぶやいた。
「神は与えたもう、奪いたもう……」
———
ローレンから受け取った地図によれば、賢者の住処は街道を外れた脇道を半日ほど進んだ先にある。この時間に出発すれば、日が暮れる前には到着できるはずだった。
街道をしばらく進み、地図に示された脇道へ入ると、想像以上に険しい道が続いていた。山道に慣れている二人ですら、相当な難儀を強いられるほどだった。
しかし、ようやく視界が開けたその瞬間——
二人の目に、不吉な影が飛び込んできた。
物陰に身を潜め、そっと様子をうかがうと、それは巨大な灰色狼だった。
———
「なにあれ……立ち上がったら小さな家なら跨げるんじゃない?」
「しっ、リーナ、静かに!気づかれたらまずい。引き返そう。あんな怪物に敵うわけがない。」
「もう遅いみたいよ。警戒し始めたわ。見つかるのは時間の問題ね。」
「なに悠長なこと言ってるんだ!早く逃げよう!」
「逃げるのはちょっと待って。何か方法を考えましょうよ。」
「方法って……」
二人はさらに息を潜め、気配を消す努力をした。やがて灰色狼は地面に寝そべり、ゆっくりと居眠りを始めた。
「今なら気づかれないんじゃない?」
リーナがささやく。
「いや……さっきの様子を見る限り、ちょっとした物音や匂いでも目を覚ますはずだ。」
サトリは死を覚悟し始めていた。
小鳥のさえずりと、風のざわめき以外は何も聞こえない静寂の中、二人には永遠のように思える時間が過ぎていく。
その時——
リーナがふと何かを思いついた。
「そうだ、サトリ、笛よ、笛!笛を吹いて!」




