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ミナと雲をつくる少女~くもひこうきに乗ってくもドラゴンと飛んだ夜~

作者: 夏芽みかん

 学校の休み時間。

 ミナは教室の席にすわって、ひとり、空を見上げています。


 校庭からは、クラスメイトがドッヂボールで遊ぶ声が聞こえてきます。

先生もお母さんも、1人で空を見ているミナを心配するけれど、ミナは平気です。

空を流れる雲を見ていると、さびしくはありません。


 みんなが知らない空の秘密を、ミナは知っているのです。

 この町の空の雲は、いろんな形をしていることを。

雲を見ながら「こんな形の雲が見たいな」って願うと、思った通りの形の雲が流れてくることを。


 たとえば今日の空には、ゾウの形の雲が流れています。

ミナは「ゾウのおはなで滑り台をするウサギさんが見たいな」と思いました。

すると――本当に、そんな雲が流れてきたのです。


ミナはうれしくなって、にこにこと笑いました。

 

 (雲のむこうにいるだれかと、お話してるみたい。でも、このことは、わたしだけのひみつ)


 ミナは一度、お母さんに「思ったとおりの形の雲ができるんだよ!」と話したことがあります。

でも、お母さんは信じてくれませんでした。

それが悲しくて、このことは自分だけのひみつにすることにしたのです。


 けれど、ある日から、いろいろな形の雲が流れてこなくなってしまいました。

ミナは首をかしげて、「ケーキの形の雲が見たいな」と思いましたが、ただのふわふわ雲のまま。


代わりに空には、動かない丸い雲のかたまりが現れ、日に日に大きくなっていきました。

それに気づいているのも、ミナだけでした。


(あの大きな雲、なんだかこわいな)


 授業中のことです。その大きな雲をじっと見ていたミナは、空にひとすじの雲の道ができていることに気がつきました。


 授業中。

その大きな雲をじっと見ていたミナは、空に一本の雲の道ができていることに気がつきました。

ひこうき雲のようでした。けれど――ひこうきは、とんでいません。


ミナはずっと空を見ていたのです。

それに、雲のなかにいっしゅん、だれかの目が見えた気がしました。


家に帰ったミナは、お母さんに聞きました。


「お母さん、今日ね。ひこうき雲があったのに、ひこうきはいなかったの」


お母さんは首をかしげました。


「そんなこと、あるはずないわ。ミナが見のがしただけよ」


ミナは、だまりました。

ひこうきなんて、絶対にいなかったのです。




 その日の夜、ミナはなかなかねむれませんでした。


(ぜったいに、ひこうきはいなかった。それに、あのひこうき雲のなかから、だれかがわたしを見ていた気がした)


 眠れないミナはたちあがって、まどをあけてみました。

 つめたい夜風がカーテンをゆらして、部屋のなかに入ってきます。


 そのとき――風といっしょに白いふわふわが飛びこんできて、ミナの前にふわりと着地しました。

よく見ると、それは飛行機のような形をした白い雲。

先は丸く、まんなかに羽があり、後ろは三角になっています。

 

「雲の……ひこうき?」


 そうつぶやくと、声がひびきました。


「そう! ぼくは、雲ひこうき!」


「しゃべった!」


 ミナはびっくりしてジャンプしました。

丸い先に大きな目があらわれ、ふわふわがぱくぱく動きます。そこが口のようです。

でも、こわくはありません。


「おどろかせてごめんね、ミナ! ぼくは、雲ひこうきのピュル!」


「わたしの名前、知ってるの?」


「もちろん! ぼくたちは空を飛んで旅してるんだ。今日、ぼくたちが飛んでるのを見てたでしょ?」


 ミナは学校のまどから見たひこうき雲を思い出しました。


「やっぱり、ただのひこうき雲じゃなかったんだ!」


「うん。よく間違えられるけど、ぼくたちは雲ひこうき!」


 それから、ピュルは目の上のふわふわを八の字にして言いました。


「ミナ、ぼく、きみにお願いがあって来たんだ」

「お願い?」

「“雲さっか”のモクーナさまが、みんなをとじこめてしまったんだ」


 ピュルの色が黒くなりました。

 体から、しとしとと雨がふりはじめます。

 雲ひこうきは悲しくなると、雨雲ひこうきになってしまうのです。 

 

「なかないで」


 ミナがティッシュで雨の涙をふいてあげると、ピュルは白い雲にもどりました。


「“雲さっか”ってなあに?」


「いろんな形の雲をつくる雲の芸術家だよ。人間の子どもが想像した雲をつくってくれるんだ」


 ミナは、自分の思ったとおりの雲が空に流れてきたことを思い出しました。


「あれは、モクーナってひとがつくってたの?」


「うん。ミナが空を見てたの、ぼくたちもモクーナさまも知ってる。だから、モクーナさまがミナをつれてきてって言ったんだ」


「どうして、わたしを?」


「モクーナさまは、見せたいものがあるんだって」


ピュルは、また困った顔で言いました。


「モクーナさまは大きな雲をつくって、その中にみんなを閉じこめちゃったんだ」


ミナは、町の空にあった大きくなる雲を思い出しました。


「ミナ、お願い。一緒に来て、モクーナさまに会って話を聞いてあげて」


「どこへ?」


「空の国!」


「でも……わたし、とべないよ?」


「大丈夫。ぼくに乗っていけばいいんだよ。ぼくは雲ひこうきだから」


(どうしよう)


ミナは悩みました。

空の国なんて、こわい――でも。


毎日空を楽しくしてくれた、あの雲たちを思い出します。


(モクーナさんは、悪い人じゃなさそう)


あの雲をつくってくれていたのだから。


ミナは、ゆうきを出して、ピュルの背中に乗りました。



 ピュルの背中は、あたたかくてふわふわ。まるで毛布にくるまれているようでした。


「しゅっぱつ!」


ピュルはそう言うと、まどからビューンと夜空に飛び立ちました。

ミナの家は、あっというまにはるか下。ピュルはぐんぐんと空たかくとんでいきます。

やがてスピードがゆるくなり、ミナはまわりを見まわしました。

白いふわふわの雲がたくさん浮かび、上には星の光をうけた水たまりがキラキラしています。


「うわあ きれい」


「空の国にとうちゃく! あれは星の水たまり! このままモクーナさまのアトリエに行くね!」


キラキラをくぐりぬけて、ピュルはまっすぐ進みました。

やがて雲のお城のようなアトリエが見えてきます。


(あそこにモクーナさまがいるのね)


 ミナは背中をぴしっとのばしました。

ピュルはお城のてっぺんの塔へ向かい、ホールに飛び込みます。

 思わず目をつむったミナに、鈴のようなきれいな声がよびかけました。


「ミナさん、ようこそ!雲さっかのモクーナともうします」


目をあけると、白いホールに、白いクリームのようなドレスを着た女の子が立っていました。

白銀のふわふわした髪。まるで雲の国のお姫さまのようです。


「こんにちは」


 ミナはびっくりしながらあいさつをしました。

 モクーナはこわい魔女のような人かと思っていたのに、ぜんぜんちがいます。

 

「わたしを知ってるの?」


 モクーナはにっこりと笑いました。


「もちろん。ミナさんはいつも空を見上げて、わたくしにすてきなインスピレーションをくれますもの」


 モクーナはミナをホールの奥へと手招きしました。


「わたくしは、町の人が空を見て想像したことを、雲で表現する雲さっかですの」


ピュルに乗ったそちらへ行くと、そこには大きな窓がありました。

窓の外には、たくさんの星の水たまりが浮かんでいます。


「町の人の想像はここに映るのです。それをすくって、作品をつくるのよ」


「私の想像した雲を、モクーナ様がつくっていたんですね」


 誰かとつながっていた気がしたのは、まちがいではなかったんだ。

ミナはうれしくなりました。


「ええ」


 モクーナはさびしそうに微笑みました。


「けれど最近は、空を見て想像してくれる人がいなくなりました。わたしの作品を見てくれているのは、ミナさんくらいですわ」


「そんな……」


 ミナは「いつも素敵な雲をつくってくれて、ありがとう」と言おうとしましたが、はずかしくて、言葉にできませんでした。


「せっかく来てくださったんだもの。作品をひとつプレゼントしたいですわ。どんな雲がいいですか?」


ミナはうーんと考えました。

そのとき、窓の外の水たまりのひとつがきらりと光り、ソフトクリームの姿が浮かびました。


「おいしそうな ソフトクリームですわね」


 モクーナがゆうがに微笑んだので、ミナははずかしくなって顔をおさえました。

 モクーナのふわふわしたかみのけをみていたら、ソフトクリームが食べたくなってしまったのです。


「おまちになって」


 モクーナはさっと右手を上げました。

 するとモクーナのまえにもくもくと白い雲がうかびあがって、小さなソフトクリームのような形になりました。モクーナは形をととのえると、ミナにわたしました。


「どうぞ。いつもなら地上から見えるよう、大きくつくるのだけれど」


「ありがとうございます!」


 ミナはうれしくてピュルの背中でとびはねました。


「めしあがってみて」


「たべられるんですか?」


「ええ」


 ミナはおそるおそる口にすると、とってもクリーミィでおいしい味がしました。

あっというまに食べてしまいました。

 そんなミナをモクーナは、うれしそうにみつめています。


(こわいひとには見えないけど)


 ミナはふしぎにおもいました。

するとピュルが泣きそうなこえでいいました。


「モクーナさま、みんなを大きな雲からだしてあげてください」


 そうでした。 

 モクーナは雲ひこうきたちを大きな雲に入れてしまっていたのでした。


「雲ひこうきたちには、あと少し、手伝ってもらわなければいけません」


 モクーナはきっぱりと言いました。


「ミナさんに、ぜひ見ていただきたいものがあります。わたくしの最高傑作を、どうぞご覧になって」


 モクーナはミナを反対側の窓へと手招きしました。

 その窓の外には、大きな雲のかたまり。


それは、まるで恐竜のような形でした。

大きな体に、二つの翼。

とがったキバを持つ、大きな口。


「雲ドラゴンですわ。かっこいいでしょう!」


モクーナは、得意そうにドレスをひるがえして言いました。



 町の空にあらわれた、とても大きなぶきみな雲。


(あれは、この雲ドラゴンだったんだ!)


「雲ひこうきたちは、あの中にいるんですか?」


 そうきくと、モクーナは「ええ」とうなづきました。


「雲ひこうきたちのおかげで、雲ドラゴンは自由自在に動けますの」


 モクーナが右手を上げると、雲ドラゴンは、ばさばさとはばたきました。

 そして空中をぐるぐるとまわりました。


「すごい」


 けれど、なんだか……。


「そうでしょう! 大きくてかっこよくて、すごいでしょう!」


 モクーナは嬉しそうに言うと、ひとりごとのようにつけたしました。


「あの雲ドラゴンがまちの上をとびまわったら、みなさんきっとまた、空を見上げるはずですわ」


 ミナは、言いづらかったけれど言いました。


「かっこいいけど、こわいです」


雲がふわふわと空を流れていくのを見ると、のんびりした気持ちになります。

けれど、あんな大きな雲が動き回ったら、すこし怖いと思うのです。

モクーナは気にする様子もなく得意げに笑いました。


「空を見上げたくなるでしょう?」


「モクーナさま! ぼくたち雲ひこうきは、まちの人たちを笑顔にするモクーナさまが大好きだから、お手伝いしてるんです。けれど “怖い”じゃ町の人たちはにこにこになりません!」


 ピュルはうったえるように言いました。


「みんなを外に出してあげてください。雲ひこうきは風に乗って飛ぶのが大好きなんです。雲ドラゴンの中で好きにとべないと、みんな悲しくなってしまいます」


 モクーナは顔を曇らせました。


「あれなら……! 町のみなさんもきっと、空を見上げてくださるはずですわ! わたくし、もっとみなさんに私の作品を見ていただきたいの!」

 

 その叫びにミナは大きなアトリエで一人作品をつくるモクーナを思い浮かべました。

 だれかがきっと見てくれる。

 そう思って作った作品を誰も見てくれなかったら、きっと寂しい。


(モクーナ様は寂しいの?)

 

 そのとき、窓の外が急に暗くなりました。

 ゴロゴロゴロと太鼓の鳴るような音がします。


「雲ドラゴンがまっ黒に!」


 ミナはびっくりして 大きな声を出しました。

 さっきまで白かった雲ドラゴンはまっ黒になっています。

 そして黒い体のところどころにピカッピカッと光が走っているのです。


「みんなが泣いて、雨雲になっちゃったんだ!」


 ピュルが叫びました。


(ピュルが泣いた時も、黒くなってた)


 ミナは思い出しました。

 雲ひこうきは悲しくなると、雨雲になってしまうのです。


「モクーナさま、みんなを出してあげて! あのままじゃ……」


 モクーナはあわてたように 右手を上げました。

 ――けれど雲ドラゴンは、大きな口をモクーナに向けたのです。


 ピカピカピカ! と視界が光りました。

 ゴロゴロゴロ ドーン!!!!

 雲ドラゴンは、かみなりブレスをはきだしました!


「あぶない!」


 ミナは思わずピュルから飛び出すと、モクーナをかばいました。

 かみなりブレスはまどをつきぬけ、アトリエの床をきりさきました。

 ふわふわの床は、散ってきえました。

 モクーナとミナの体は、そのまま空へまっさかさま!


「「きゃあああああ」」 


 二人の声が重なります。

 

「大丈夫!?」


 けれどピュルがかけつけてくれて、二人をキャッチしました。


「ありがとう! ピュル!」


「どうしましょう、どうしましょう」


 モクーナは 青い顔で ぶるぶると震えて 泣きそうな声で言いました。


「みんな、わたくしの言うことを、きいてくれないの」


 ピュルは困ったように呟きました。


「ぼくら雨雲から雷雲になっちゃうと、わけがわからなくなってしまうんだ」


そぁぃ


「どうしたら、雲ひこうきのみんなは、元の白い雲に戻ってくれるの? ピュルは、泣き止んだら戻ったよね」


 ミナはピュルの涙を拭いたら、白い雲に戻ったことを思い出しました。


「楽しい気持ちになれば、みんな元に戻ると思うんだけど」


 ピュルがつぶやいたその時です!

 

 またゴロゴロゴロと雷鳴が鳴り響きました。見ると、雲ドラゴンがまた大きく口を開いて、かみなりブレスを吐きだそうとしています!


「どうしよう!」


 叫んだミナは、頭におかあさんのフライパンを思い浮かべました。

料理で使っていた、大きなフライパン。

 あれがあれば雷も防げるかもしれない。

 ――そのとき、モクーナが叫びました。


「ミナさん、それよ!」


 ぴかーっと星のみずたまりの1つが光って、フライパンの姿を映し出します。

 それを見たモクーナが右手を上げると……もくもく!

 周囲の雲が、なんとフライパンの形になったのです!

 そして、バリバリバリバリ!!!

 大きな音と共に吐き出された、雷ブレスを、受け止めました!


「モクーナさん、すごい!」


 ミナの感心した声に、モクーナは笑いました。


「ミナさんの想像力が、すごいんですわ」


「安心してる場合じゃないよ!」


 ピュルはあわてたように叫びました。雲ドラゴンはまた、ブレスの準備をしています!


「逃げよう!」


 ピュルはびゅーんと走ります。

 けれど、そのあとを雲ドラゴンはすごいスピードでついてくるのです。


「うわあ、速い! 追いつかれちゃう!」


 ミナはひらめきました。


(モクーナさんは、私の想像を、雲の作品にできるみたい)


 それなら……、


「モクーナさん、ジェットを作れますか!?」


 ミナは叫びながら、速い速いジェットがついたピュルを想像しました。

 近くの星の水たまりが光って、その想像を映し出します。

 モクーナは右手を上げました。


 すると、どうでしょう!

 周囲の雲が集まって、ピュルの機体の左右に、ジェットができました。


「わぁい! カッコいい!」


 ピュルが声を弾ませると、ジェットがぶるるん! と音を出し、機体が加速しました。

 

 びゅーん、びゅんびゅん!


 超高速で雲の間を駆け抜けます!


 後ろを着いてくる雲ドラゴンも負けじと加速します。


 びゅんびゅんびゅーん!


 雲ドラゴンとピュルたちは 星の煌めく夜空を くるくると駆け抜けました。空のカーチェイスです。


「「「あははははははっ」」」」


 思わずミナもモクーナもピュルも笑ってしまいました。

 

「笑っている場合では、ないよね」


 ミナは反省して、後ろを振り返りました。

 ――すると。


「あれ? 雲ドラゴンが何だか白くなってきてる?」


 先ほどまで真っ黒だった雲ドラゴンの体はだんだんと白くなっていっていたのです。


「そうか!」


 ピュルがひらめきました!


「ぼくたち、雲ひこうきは、飛ぶのが大好き! こんなに速く楽しく飛んだら、悲しい気持ちも忘れちゃうんだ!」


「じゃあ、もっと楽しく飛べば……!」


 ミナはどんな風に空を飛んだら楽しいか、想像しました。

 まず、大きな輪っかをくぐったら……?


「ミナさん、任せて!」


 モクーナがミナの想像する雲を製作します。

 あっという間に、たくさんの雲の輪っかが空中に現れました。


「いくぞ!びゅんびゅーん!」


 ピュルは大張り切りで、雲の輪っかをくぐっていきました。

 後ろから、雲ドラゴンも追いかけてきます。


「最後は、にこにこ!」


 ミナはニコニコの輪っかを想像しました。

モクーナが右手を上げると、輪っかの最後に、にこにこ笑顔の雲の輪っかができあがります。

ミナたちは、そこをくぐって振り返りました。

体がだいぶん白くなった 雲ドラゴンが追いかけてきます。


「お願い! にこにこになって!」


 ミナは叫びました。

 雲ドラゴンはにこにこ雲をくぐります!

 そして……


「白く、なりましたわ……」


 モクーナが声を震わせました。

 雲ドラゴンはすっかり白くなっていました。


「皆さん、ごめんなさい……」


 モクーナは泣き崩れると、右手を上げました。

 雲ドラゴンの姿がふわっと消えて、中からたくさんの雲ひこうきたちが外へと飛び出してきました。



「モクーナさま! 泣かないで!」

「ぼくたちこそ、お手伝いしようと思ったのに、ごめんなさい!」


 雲ひこうきたちは、慌てた様子でモクーナの周りを、ぐるぐると飛び回りました。


「ミナさんも、大変なことに巻き込んで、ごめんなさい。わたくし、みなさんを笑顔にするために作品を作っていたはずですのに、芸術家失格ですわ」


 うなだれるモクーナをミナはぎゅっと抱きしめました。


「わたしね、モクーナちゃんの作ってくれる雲にいつも、励まされてたの」


 言えなかった気持ちを、いま伝えようと思いました。


「空を見て、想像した雲が流れてくるのを見たとき、だれかとつながってるって思えたの。私は1人じゃないって」


 ミナはモクーナの手を取って笑いました。


「だから、ありがとう。これからも、いろんな雲を作ってくれると嬉しいな」


「ミナちゃん……」


 モクーナは、友だちの名前を呼ぶようにミナの名を口にし、涙をぬぐいました。


「ええ、これからも作るわ。空を見上げたくなるような雲を、作るわ」


「楽しみにしてる!」


 二人はつないだ手を、ぶんぶんと振り合いました。


「たいへん! もう朝になるよ!」


 ピュルが叫びました。

 気がつけば夜空は白んで、明るい日ざしが差し込んでいます。


「ミナは帰らなくちゃ!」


「そうですわね。ご両親がご心配になりますものね」


 モクーナはべつの雲ひこうきの背中にひらりと乗り、手を振りました。


「ミナちゃん、今日は、ありがとう! お会いできて嬉しかったですわ!」


「私も楽しかったよ! ありがとう!」


 ミナは大きく手を振りました。


「お家まで、僕が送っていくね!」


 帰りもピュルが部屋まで送ってくれました。


「ピュルも、ありがとう!」


 ミナは窓から飛び立っていくピュルにも、ぶんぶんと手を振りました。

 それからベッドに入ると、太陽が昇り切るまで、ゆっくりと眠りました。

 今日はお休みの日なので、早起きしなくていいのです。


 ◇


「ミナ! 起きなさい!」


 お母さんの声で目を覚ましたミナは、飛び起きて窓を開けました。

 空には、にこにこ笑顔の雲が浮かんでいて、昨日のことが夢じゃなかったとわかりました。


「今日もがんばろうね!」


 ミナは空の向こうにいるモクーナとピュルと、雲ひこうきたちに、笑顔で手を振りました。




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