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04:番人と死神と……仲間は家族。

「私に何の用?」

「えっと……」


 歌空中部駅前にある”歌空公園”。

 公園の隅っこにポツリと置かれたベンチに二人の男女が腰を下ろしていた。


 少女の方は加藤藍華。腰まで届く長い黒髪に黒い瞳。

 可愛いより美しいが似合う美少女だったりするのだが。

 誰もが彼女の表情から「気分は最悪」と読み取れるほどに不機嫌なのだ。

 

 隣で座る少年は、そんな彼女を視て冷や汗をかく。

 加藤さん俺と一緒に居てから不機嫌度アップしてる……。怒ってるよ、これは……。

 泉条一、通称ジョウ。自分から視線を逸らす藍華を見る。

 このままじゃダメだ。だから少年は言う、


「加藤さん、ごめんなさい!」


 その場から立ち上がり、勢いに任せて頭を下げた。

 好きな人には笑っていて貰いたい。


 思い出すのは二つの事。

 一つは、心が揺れた程の、負に満ちた顔。

 一つ、胸に刻まれた、憧れだった人の言葉。


「周りを見ずに独断専行ばかりしちゃって、皆に、加藤さんに迷惑をかけてばかりで」


 部屋の片隅で膝を抱えていた自分。

 他人が怖くて。

 自分が怖くて。

 全てを拒絶して、何もしないでいた日々。


「この間のエキセン、もう一人の俺、ガゼ師匠の事……そしてさ、ギルドの事とか」


 そんな自分に明るい声をかけたのは、リチと名乗った不思議な少女。

 笑うこと、楽しいことを教えてくれた。

 そして、”宝物”の素晴らしさを。


「でもさ……仲間には、家族には笑顔でいて欲しいんだ」


 自他を怖いと思う事はあたりまえ。

 でもね、本当にその人が怖いかどうかなんて話てみないと分からない。

 色々な人と触れ合って自分だけのネットワークを……築いていくんだ。

 稀にあるんだ。そのネットワークの中に、宝という絆が。

 もし君が宝物を見つけたら、それを誰よりも眩しく明るく輝かせてね。


「藍華さんも大事な宝物なんです。だから、これを……!」


 コートのポケットから取り出した綺麗にラッピングされた手の平サイズの箱を渡す、


「お、美味しいかどうか分からないけど……バレンタインデーのチョコ!」

「……泉君が? 私に?」

「俺は勉強もスポーツも料理もダメだから……一人でって訳じゃないけど」

「有り難く頂くわ」


 条一から箱を受け取ると、器用にリボンとラッピングを外す。

 中から現れたのは――穴が空いてない5円玉のような沢山の丸いチョコレート。


「ほ、本当はリンゴのチョコレートがけにしようと思ったんだけど、リンゴが無かったから」

「……」


 藍華はチョコを一つ掴み、ゆっくりと口に入れる。


「どうかな?」

「うまいわ」

「やった! ってアレ……加藤さんどうしたの……?」


 微笑みながら美味しいと自分のチョコを評価した直後。

 直ぐ様、先ほどみたいな不機嫌になる。

 ええー何でまだ不機嫌なんだ……俺、何もしてないよな……。

 頭を抱えて唸る条一に藍華は言った、


「……私の方が謝らないとダメみたい」

「え?」


 条一はきょとんとする。予想外の言葉だからだ。

 自分が彼女に謝ることなら何千回くらいあるが。その逆など……思い当たる節はない。


「泉君が言ったガゼさんの事とか、気にしてないと言えば嘘になる」

「……うっ」

「けれどアレは君のせいじゃないわよね。寧ろ君の独断専行の活躍で家族皆で戻ることが出来た」


 藍華は、ここで初めて条一に視線を向ける。

 目と目が合う――。


「ありがと」

「っ!」


 刹那、条一の頭がフリーズした。それもそのはず。

 加藤さんが笑った……? 俺に? しかもありがとって。

 好きな人の笑顔は破壊力抜群。


「そして……ごめんなさい」

「え?」

「私って直ぐ顔に出るから……怒っていたのはコレのせい」


 藍華が見せたのは赤い包みでラッピングされた、手のひらサイズの箱。

 あ、もしかして……。


「バレンタインデーのチョコ?」

「うん。チームの皆にプレゼントしようと思って手作りに挑戦したんだけど。一度ならず何回も失敗して……結局、今日も上手に作れず、持ってきたけどね」

「……?」


 条一は思考する。

 今の話のどこに不機嫌かつ怒る要素が……。

 いや何回も失敗して不機嫌になるのは分かるが。

 流石にそれで怒るのは何かおかしいような……。


『忘れたぬか』

『何に?』


 深く思考すると自分の精神世界に潜ること出来る。

 一人で考えても埒が明かないので、もう一人の自分に要請を。


『彼女は負けず嫌いということを』

『確かに加藤さんは負けず嫌いだけど、今回は誰にも負けてないよ。まさか自分に負けたから怒るはないと思うけど』

『彼女ならあり得る』


 断言する裏番人、


『しかも彼女ぬ話を聞く限りだと、そぬチョコは美味しく出来ていない』

『うんうん』

『そこに不意打ちをかけるように、何をやってもダメダメ少年が仲間ぬ手伝いアリというハンデ付きだが美味しいチョコを持ってきた』

『うんうん……って、え?』

『今、彼女ぬ心ぬ中は負けという二文字で溢れている』

『待って待ってよ! バレンタインデーだからチョコ渡そうと提案したのは番人じゃん!』

『た、確かに提言したぬは僕だ。だけどな、実行と仲間に援助を頼んだぬはジョウだろ!』


 声を荒らげる二人。

 直感で感じたのだ。後が無いと。


『どうすんの? 加藤さん今スゲェカンカンという新事実じゃないの!?』

『変に刺激するな。ここはこぬまま適当にやり過ごそう』

『なら変わってよ! ニート番人! 俺は無理!』

『うるさいヘタレ! これはお前ぬ問題。僕はしらん』

『ほーらー、また心の中に戻って! いい加減ニート卒業してよ!』

『ヘタレにニート呼ばわれされたくない。何かあればそうやって泣きながら僕に頼るぬは止めて欲しい。

僕は未来からやって来たネコ型ロボットではないんだぞ?』


 しかし二人の言葉のぶつけ合いは、一言で遮られた。


「ねえ……」

「はい!」

「はい!……って何で僕まで出てるんだ?」


 一つの体に二つの心が同時。

 たまにある現象だ。


「私、負けないわ」


 それは少女からの宣戦布告。

 聞いて思い出す……冬の日のこと。

 エキセンの練習試合で藍華との勝負に、偶然にも勝利したら。


『次は、勝つわ』


 今と似てような言葉をかけられた。

 その次の日からが地獄だった。

 毎日が……戦い……戦い……そして。

 本人が思い出したくないので回想終了。


「番人……」

「ああジョウ……分かっている。僕は右」


 一つの体でもう一人の自分と話す。

 傍から見れば独り言を呟く怪しい少年。


「「180度回転ダッシュゥゥゥゥゥ!」」

「待ちなさい! 私のチョコ食べてないわよ!」

「はぁっ! そうだよ加藤さんのチョコ……」

「早まるなジョウ、それは罠だ」

「加藤さんのチョコが……って危ない!」


 後ろを振り向いた瞬間、鎌が目の前に……。


――具現。


 番人が能力を発動させて、右手の盾で間一発の所でそれを弾く。


「ジョウ……諦めろ」

「加藤さんのチョコぉぉぉぉぉ」

「何で逃げるのよ」


 少し離れたところで、逃げる条一を鎌で追いかける藍華を見ている唯希と悠太。


「あれ……止めた方がいいのかな」

「ラブラブムード出してるんだからさ、アタシ達は退散しよ、ね?」

「いやいや、何処からどう見ても殺人事件に繋がる光景だよね? 鎌振り回してるんだよ!」

「噂の夫婦漫才ってやつじゃん♪」

「あんな怖い夫婦漫才ねえよ! 旦那さん顔が恐怖で染まってるよ! 奥さん凄い形相だよ!」

「これがアタシ達のチーム・アップルファミリー♪」


――この物語は、林檎家族のとある日常。


 幽霊の、悠太。

 吸血の、唯希。

 死神の、藍華。

 そして番人の条一。

 周りを彼らをヘルチームと呼び恐れている。


 何故にそう呼ばれるのか。それは近日公開予定の本編で語ることにしましょう。

 それではまた会う日まで、ご機嫌よう。

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