02:死神と吸血
もちろん……今回も練習練習。
唯希のキャラが、特に変態面というのが難しい(笑
「ねえ、ママー」
「なに?」
多数の人が往き来する歌空市の商店街を、二人の女も人混みに混じり歩いていた。
片方は、肩よりちょい長いくらいの茶髪を右に結び垂らしサイドポニーテールとしている、小柄な小さな少女。
もう片方は、腰まで届くストレートヘアーの黒い髪を持つ、高身長な……と言っても160cmくらいの女の子。
「もう一回、演奏やらない? あれだけじゃ凄く足りないんだよね~」
「却下」
ストレートヘアーの加藤藍華は、隣の少女に言う、
「唯希は演奏中にアレンジを加えて弾くから。貴方の音に、私の音を合わせるのが大変。一度ならず何度もするのは疲れるのよ」
「っ! ええ~、いいじゃん、いいじゃん! 今度はアタシさ、凄くママに合わせるからさ!」
サイドポニーテールの長瀬唯希は、藍華の腕に自分の腕を絡める。
実は先ほどまで二人は公園で楽器を弾いていた。
――藍華はフルートを、唯希はバイオリンを。
二人で一つの音を奏でていたのだ。
「離れて歩きづらい」
「やーだー」
「まったく唯希って、いつまで経っても成長しないわよね?」
「てへへ~、それほどでも~♪」
「褒めてない」
唯希は体を更に藍華と密着させながら、考える。
自分が所属している、超能力集団の林檎家族の事を、だ。
正確には、今ここにいないリーダーの泉条一と、目の前にいる藍華。
今日はこうして藍華と一緒に行動しているのは、条一に頼まれたからである。
何故だか一週間ほど前から、何か悩みでも抱えているのか藍華は暗い顔をしている。
「で、で? ママやる?」
「一度ならず嫌と答えさせてもらうわ」
公園で演奏をした時に分かったが、藍華は本当にいつもの調子ではない。
というのも先ほどの台詞だ。
――『貴方の音に、私の音を合わせるのが大変』。
普段の藍華なら、絶対に言わない。
"他人と何かを合わせる行為"を苦手として、"無意志的"に避けているからだ。
まぁ、悪気があった敢えてそうしているのではない。
過去のトラウマのせいだ……という話を唯希は"もう一人の条一"から聞いた。
「ママ……凄くケチ。なら、アタシにも考えがあるんだな~」
「ん?」
不意にすっ、と藍華から離れた唯希はそのまま藍華の背後へと歩いていく。
急にどうしたのだろうか、藍華が振り向こうとした瞬間、
「あったか~~~~~い♪」
「うっ――ちょ、あ」
抱きついた。
それだけでは、ない、
「うむむ……やはりママのおっぱいはおっきい……」
「ひゃ! や、やめて、唯希、くすぐったい」
唯希の細くて小さな指が、藍華のカーブを描いている胸をなぞるように触る。
それが次に、包み込み……上、下、右、左……に動かし。
――発動。
「!」
刹那、唯希は危険を直感的に感じ取り、瞬間的にその場から離れる。
その行動は正解だった。
唯希が立っていた、場所に"何かの斬撃が落ちた"からだ。
何故に"何か"という曖昧な表現かと言うと、一言で表せば不可視。
藍華が得意とする、"不可視の大鎌"。
これはとても厄介で、超能力を使い第六感を活性化させなければ目視できない。
唯希が知る人物で"不可視の大鎌"を肉眼で見れるのは条一だけだったりする。
「ゆーきーちゃーん……覚悟は出来てるわね?」
物凄く低い声で、そう訪ねる。
まぁ、どういう意味かは分かっているので、
「うひゅっひゃっひゃ~、何のことかな♪」
「オマエモコロスゾ」
「凄くにげろ~♪」
「待ちなさい、一度ならず叩きの目してあげるから」
林檎家族の女性陣。
加藤藍華、高校二年生。
長瀬唯希、中学一年生。
――勿論、二人は"本当の母娘"ではありません。