第二話 これって死後裁判なんですか?
「この子はどの冥界行きなんだ?」
「彼女の魂には穢れがない。
そうなると天界が適正でしょうね。
しかし、彼女の場合は何処になるのでしょう?
高天原でしょうか?それとも、浄土ですか?または…天国ですかね?」
「いやはや……このような者が来るのはいつぶりでしょうなぁ」
…何だかとても賑やかな声が聞こえる。
これは無事に黄泉の国に着いたと考えてもいいのだろうか?
では、今話し合われている話の内容は私のことなのだろう。
なるほど、これが審判というやつなのだろう…。
そんなことを考えながら重い瞼を上げる。
……何だこれ?私の想像と違うぞ?
視界に飛び込んできたのは…おそらく審判の光景に違いない。
目の前には法壇があるし、私が座っている場所は証言台なのだから間違いない。
しかし、目の前に居る人々はどう考えても死後の裁判を担当する十王の方々じゃない。
明らかに天使みたいな人も居るし、仏様のような方までいる。
これ…私が想像してた審判じゃないね?
死後裁判じゃないですね?
あれ?確か、私の実家が信仰しているのは仏教のはずだから出てくるのは十王だと思ったんだけど…こんなメジャーな宗教のお偉いさんがオールスターで集まることってあるんですか?
そう一人で混乱していると、法壇に座っているお偉いさんの一人が私に気付いた。
「おや?気付きましたか?ふふ、皆さん。彼女が目を覚ましたようですよ」
私に気付いたのは頭にヘイローを浮かべた天使のような青年だった。
その青年が、法壇に座って話し合っていた人達に声をかける。
すると、話し合っていた人達はピタリと動きを止め、一斉にこちらを向いた。
いや、いきなりこっちを向くのはちょっと怖いのでやめていただきたい。
「おや、目覚めましたか。いきなりこのような場に連れてきてしまい申し訳ない。ですが、どうか許して欲しい。これは貴方にとって、とても大切な審判となります。貴方の今後を左右する…とても重要な審判なのです」
そう私に語り始めたのは、仏像としてよくお目にする仏様のような方。
貫禄?オーラ?が凄まじい方だから、おそらく如来様…。
ただ阿弥陀如来なのか釈迦如来なのか大日如来なのか、はたまた別の如来様なのかは知識がないのでわからない。
ともかく如来様だということはわかる。
「い、いえいえ…こちらこそ、私のような人間の為にこんな場を設けてもらえて有り難い限りです。ですが、その…皆様はどうしてこのように集まって協議をなさっているのでしょうか?私の行き先に何か問題が……?」
そう、私は今…何でここにいるのか自分自身でもわかっていない。
生前も大したことしてないし、こんな大勢の方々に審判してもらうようなことは無いとは思うのだが…。
「問題…と言えば問題ですね。いえ、別段貴方が何かをしたというわけではありません。ただ、貴方の向かうべき冥界が決められていなかった…いえ、決められなかったのです。貴方側の問題というよりは我々、冥界の審判官の問題でしょう」
天使のような青年は苦笑いを浮かべてそう答える。
彼の言い分から察するに、これは不測の事態だったようだ。
しかし、このままだと私は行き場のない魂になってしまうのではないのだろうか?
それは…嫌だなぁ。
そんなことを考えていると…。
「お集まりいただいたところ大変申し訳ないですが、すみませんね〜。彼女、うちの新入りです」
「ぅわ!」
突如、背後から声が聞こえた。
背後からいきなり声を出すのは心臓に悪いからやめていただきたい…。
私の背後から現れたのは端正な顔立ちの…何処となく掴みどころのない雰囲気を醸し出したお兄さんだった。
なんだ?この人…というかこの人さっきなんて言った?
新入り?私のことを新入りって言わなかった?どういうこと?
困惑する私を他所に、お兄さんは私の前に出て冥界の審判官と話し始める。
私のことのはずなのに、当の本人は置いてきぼり…誠に遺憾である。
「おや、珍しいこともあるものだ。君がこの場に現れたということはそういうことなのかい?影利くん?」
そう言ったのは、先ほどの青年だった。
そして、彼の言葉から察するに…このお兄さんは「かげり」と呼ばれる人であり、この審判の場にはあまり現れない人物なのだろう。
「はい。まぁ、そういうことですね。我々は万年人手不足ですし、少しでも人材が欲しいところなのですよ。それに、彼女には僕と同じ適性がある。その適性に影響され、皆様は彼女の行き先を決められずにいるわけです」
「ふむ、なるほど。影利殿と同じ適性持ちだったとは…通りで全ての冥界に行ける資格があるわけだ」
深々と頷きながら、閻魔大王のような人物が私を見つめる。
置いてきぼり過ぎてわからないのだが…どうやら私には適性があるようだ。
何の適性なのか、私には全く理解できないが…。
「…では、彼女を我々の組織に引き入れるということで、皆様異論はございませんね?」
「異論はない。
我々、冥界の審判官は彼女を影利が率いる"彷徨い人"の一員として認め…彼女をこの冥界の住人として歓迎しよう」
「ありがとうございます。では、僕は皆様の理解に敬意を表し、感謝の意を込め…ここに宣言致しましょう!我々"彷徨い人"は、『あの世』と呼ばれるこの世界の平和を守るために、これからも尽力致しましょう!」
そう高々と宣言したお兄さんはにこやかな笑みを浮かべてこちらに振り返り、私に向かってこう言い放った。
「てなわけで…君、今日から"彷徨い人"ね?」
……ん?怒涛の展開過ぎて何もわからなかったけど…今、さらっと私の今後が決まらなかった?
というか…………彷徨い人って何?