異世界に召喚されたけど、言葉がまったくわからないので、それっぽい行動をしてたら、世界を救っちゃいました
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
俺の名前は葉梨ワカル。どこにでもいる平凡な高校生──だったのだが、ある日、授業中に突然光に包まれ、気がついたら謎の大広間に立っていた。
豪華なシャンデリア、ずらりと並んだ鎧、でっかい玉座。そして、目の前には王様っぽいおじさんと、ツンとすました美女。その美女が口を開いた。
「グラァ=タァン・プァンツィ・プアウマア!!」
……何言ってんの?
まったくわからん。しかも、俺がポカンとしていると、周囲の人たちが「おお〜っ」とか何か色々言いながらざわついてる。いや、お前らの言葉、ぜんぶ異世界語で何言ってるかわからないって……。こういうのって、普通は分かるようになるんじゃないの?
それからというもの、俺は訳の分からぬまま歓迎され、飯を出され、なんか魔法陣とかで祝福された。わからないながらも、俺は推理した。
たぶん、俺、すっごい強い存在として期待されてるっぽい。
でも、俺には特別な力なんてないし、異世界語もさっぱり。とりあえず、何言われても「うむ」とか言っておくか……。
そんな感じで俺の異世界生活が始まった。
◇
ある日、訓練場に連れて行かれた。筋骨隆々の戦士たちが木剣を持って並んでいる。どうやら、俺に戦闘技術を見せてくれるらしい。
「ムァンズィ=ユウ・プォイントデコー=カーン!」
「ウム……?」
よくわからんが、たぶん「どれ、我が技を見せよう!」みたいなノリだ。とりあえず、俺は剣を持ってみた。うん、持ち方はなんとなくわかる。
戦士が襲いかかってくる。ヤバい、どうしよう!
その瞬間、俺はよけた。偶然つまずいてこけたせいで、相手の攻撃が空振り。そして、勢い余って戦士が自爆して転倒。周囲は大歓声。
「ホォォォーーーーッ!!」
「ムァンズィ・ユウ・アマァアアアイ!!」
……たぶん、「すげぇ!」とか言ってる。いやいや、ただこけただけだって。
◇
さらに次の日。今度は魔導士たちの塔に連れて行かれた。長老みたいな爺さんが、魔法陣を描きながら語り出す。
「アンクォ=ファィルト=アマクナル・ゲン=エン・シロヨ!」
「……ウム」
とりあえず、神妙な顔でうなずいておいた。
すると、魔法陣の中心に立つよう促された。まわりは期待の眼差し。たぶん、俺に魔法を見せてほしいってことだろう。
仕方なく、俺は適当に手を上げて「マンズィユー!」と叫んでみた。なぜかは知らん。なんとなくだ。そしたら──
天井が落ちた。
……どうやら、上の階でドラゴンが飼われていて、俺の声でびっくりして暴れたらしい。天井を突き破って落下してきたドラゴンは、偶然にも隠された邪神の像を破壊。それが封印の鍵だったとかで、邪神復活阻止に成功したらしい。
俺は神と崇められた。
◇
その後も、俺は見よう見まねでテキトーにやってただけなのに、すべてが奇跡的に上手くいってしまった。
農民に囲まれて畑を指差されたときも、なんか「耕せ」って感じかな?と思ってスコップを振り回したら、地面から聖なる泉が湧き出して干ばつ解消。
貴族の屋敷に招かれ、トイレを探して迷子に。なんとなく押した壁が「ガコン」と開いて──隠し倉庫を発見。中から金銀財宝が。
そして、ついには、世界を苦しめていた魔王との最終決戦にも同行させられたのだが、俺はそのとき腹が痛くて、戦いの前にトイレを探してウロウロしていた。途中、転んで階段を転げ落ち、その先にあった魔力の増幅装置をうっかり破壊してしまい、魔王の力が弱体化。アリのように小さくなりプチッと踏み潰す。結果、世界は救われた。
◇
そして今。
俺は玉座の間で王様と姫に囲まれていた。周囲は盛大な拍手。王が言う。
「ウムァーイ・ワカル! ムァンジュウ・ウマィーナ・アマィ・ガナ!!」
……え、婚約? いやいや、意味わからんし!
だが、姫が俺の腕にそっと手を添えて、頬を赤らめた。
……やっぱり姫と結婚するっぽい!
かくして俺は、異世界の言葉が一言もわからぬまま、なぜか世界を救い、姫と婚約し、英雄として国に名を刻まれることになったのだった。
ま、いっか。困ったら「うむ」って言っておけば、だいたい何とかなる。
饅頭~が、食べた~い!
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