第三話 さよなら
ハルカナ 第三話 をご覧頂きありがとうございます!
物語は急展開を迎えます。
急展開大好きな作者ですねぇ、はいそうです。
続きが気になる方は、今後ともご愛読よろしくお願いします!
七月二日 正午前
三年二組
四時間目 現代文の授業。
私は保健室を後にし、自席へと戻っていた。
現代文教師の内村は、いつものつまらない自慢話を間に挟みながら授業を進めている。
「筆者は何を訴えたくてこの文章を書いたのか。ぶっちゃけさぁ、考えたって完璧には分からないんすよ。だって本人じゃねぇんもん。」
どこで笑えば良いのか分からないが、笑っておかないと機嫌が悪くなるのでここは苦笑いで誤魔化しておく。
これを毎回繰り返した結果、悪気の無い引き笑いが不快に感じ始めていた。
キーンコーンカーンコーンッ
「では、号令お願いします。」
『起立〜礼〜ありがとうございました〜。』
と活気の無い挨拶だが、約三十名の声が重なる事で色々悪い点をかき消していた。
内村は何もツッコむことなく教室を去って行った。
私は大きな溜息を吐き、顔を伏せた。
「あんたやっぱ調子悪いんでしょ?帰りなよ。」
前の席の美希が心配の声を掛けてくれた。
「…帰ろうかなぁ。」
今日ばかりは優も喧嘩を売ってこない。むしろ心配そうな表情でこちらを見つめていた。
「なんだよぉ、大丈夫だって。」
優は無言で私の腕を支えるように立たせた。
決して強引さはなく、痛くも無い。
些細な行動だが、その行為には優しさしか感じなかった。
「…辛いなら…手貸すよ。」
顔を真っ赤にして人差し指で頬を掻く仕草。
こんなに分かりやすい男が世の中にはいるのだ。
「…あ、ありがと。」
私は優に支えられながら鞄を抱え、職員室へと向かった。
「…あの二人付き合ってないんですよね?」
桃が心配そうな眼で美希に確認する。
「…付き合ってないよ。そもそも美月にその気がないからねぇ。」
「…じゃあ優君は美月さんを。」
落ち込む桃を美希は頭を撫でる。
近くにいた竜生も桃の肩に手を置いた。
「無理にとは言いませんが、好きなら伝えないと後悔しますよ。桃も…優も…。」
竜生の言葉に桃はコクリと頷いた。
一方、涼太は何も言わずに二人が教室を出ていく背中を見送っていた。
優に連れられながら職員室に来た私は、富士見先生に体調が悪いので早退したいと伝えた。
富士見先生は終始心配そうに見つめていた。
それもそのはず、どんなに体調が悪くとも休む事は今まで一度もなかった私だ。
まったく、馬鹿は風邪を引かないとはよく言ったものだ。
「優、ありがとう。もうここで大丈夫、あとはゆっくり帰るから。」
「…気を付けろよ。」
優に背中を向けたまま手を上げて階段を降りて行った。
この学校は門の前にバス停がある。
生徒玄関を出てバス停に行こうとするも、たった今バスが発車してしまった。
「…ついてな。」
溜息を吐いた私は、無言で道を歩き出す。
少し歩くと赤い橋が見えてくる。
この赤い橋には言い伝えがあり、両想いの男女が二人で歩くと結ばれるとかなんとか。
どの時代でもその類いの伝説はあるのかもしれない。
父と母の時代は、校内一大きい木の下で告白すると結ばれるという伝説だったらしい。
話を脱線して申し訳ないが、父と母は元々高校時代の同級生である。
私の父が母にゾッコンで猛アタックしたらしい。
まあ、確かに大人しいだけで話せば明るいからなぁ。
赤い橋を渡りきろうとしたその時。
ドンッ!!!!!
「…へ?」
一瞬の出来事だった。
何が起こったのか分からなかった。
分かったのは、誰かが私の背中を思い切り押したという事。
誰かに恨まれるような事をした記憶はなかった。
犯人の顔は見えなかった。
見えていたのは、一瞬見えた曇りがかった空。
そして、橋から落下した時の橋の色や濁った川の色。
早退しなければ…こんな事には…。
怖くて声も出なかった。
死ぬ事がこんなに怖いなんて思わなかった。
大好きな両親、沢山の友達、そして好きな人…。
結局…私は…ひとりぼっちだ…。
川からは大きい物が落下したと分かる程の水しぶきが上がった。
橋の高さは80メートル程で、川は浅い。
そして、落下した一人の女性は橋の色と同じ色になった。
しかし、川の濁りで全てを土色と変えてしまっていた。
浮かんできた顔の形は、原型を留めていなかった。
「嫌アァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
女性は通行人の通報によって助けられ、病院に搬送された。
制服のおかげで学校にはすぐに連絡がいき、全教員が青ざめたのだった。
それは両親も然り。
それを聞いた友人達は病院へと急いだ。
案内されたのは霊安室だった。
原型の留めていない顔や身体は、高校生の精神を崩壊させた。
美希や優は大号泣した。
涼太は静かに悲しみ、竜生は桃の近くにいた。
大切な友人は、何者かに殺されたとこの時知らされた。
「…んで…なんで…さっきまで…。」
「…体調悪くて帰っただけだぜ。おかしいだろ…おかしいだろォッ!」
壁を殴る優、手の痛みを感じる事はなかった。
その日の霊安室は、悲しみと怒りで押し潰されながらも、憎しみに溢れていた。
次回
第四話 犯人だぁれだ♪