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ハルカナ  作者: ゆる
21/25

二十一話 再出発

いつもハルカナを読んで頂きありがとうございます!

今後ともよろしくお願いします!

二〇二五年 七月一日 曇り


「…さん…さ…いさん…桜井さん!」

「先生無理だよ、美月は一度寝たら中々起きない。」


頭の中に聞いた事のある会話が響く。


確かこの時、寝たふりをしていたんだ。

そして、先生は溜息を吐きながらその場を去って行った。


聴こえている?いや、聞こえてなどいない。

無視を続けるのは罪、私は目を覚ました。

「…寝たふりの常習犯め、今日こそ逮捕してやるぅ!」

私は美希の手を止めた。

「おっっと…美月〜起きてんじゃ…ってあんた。」

私は、涙が止まらなかった。

「ど、ど、どうした?そんなに嫌ないじりだった?ごめん!そんなつもりなくて!」

「…違うの…こんなにもやり直せた事が…嬉しいと思える日が来るなんて。」

美希は困惑していた。

そんな美希を見送るように私は勢いよく立ち上がった。

「富士見先生!」

先生はビクッと驚きながら振り返る。

「…寝不足で寝てしまい申し訳ありません。ですが、ここで一つ宣言させて頂きます。」


「…何、美月どしたん?」

引き続き美希は心配しながら私の袖を引っ張る。

この後私は職員室に呼ばれる。

分かっている未来があるのなら、先に手を打っておかなければいけない。

…まあ、ただ呼び出しはされたくないだけなのだが。


「先生。将来の夢…私は人の役に立つ仕事がしたい!」

不真面目な生徒からの言葉に、富士見先生は口を開けたまま棒立ち状態だった。

いや、唐突過ぎて訳が分からないという方が勝っているのだろうか。


結局、職員室に呼ばれた私だった。



悩み事をいざ聞かれると、普段悩んでいることが全て消えてしまうのは何故だろうか。

何故あんな事で悩んでいたのだろうと、小さい事であると気付くのは意外と早かった。

これが大人と子供の差なのだろうか。

果たしてそれに気づけば大人になれたと言えるのであろうか。

怒られている内は有難く思え…そう教えられて生きてきた。

理解は出来る、だがそればかりとは言えない。

進路指導で注意を受けていても、有難いとは思えるはずもない。

でも今の私ならその有難みがわかる。

平和である事、何も無い日常がどれだけ幸せかと。


「…ちょっと桜井さん!聞いてるの?」

「…先生。私の本当の名前って…何なんですかね?」

先生は何も言えなくなっていた。

「どうしたの?何か嫌なことでもあったの?」

「…私は桜井美月じゃないって言われたんです。」

「誰に?」

「…友達に。」

先生は咳払いと同時に姿勢を直した。

「じゃあ、誰だって言われたの?」

「…天川逢瀬と。」

「天川逢瀬…どこかで聞いたような名前。」

先生の言葉と同時に私は勢いよく立ち上がった。

「先生!天川君は何処にいるんですか!」

私の声は職員室中に響き渡り、他の教師や生徒もこちらを驚いた表情で見ていた。

先生は「落ち着いて!」と私の肩を軽く押し返した。

「…先生もよく知らないの。ただ懐かしい感じがするというか。上手く言えないんだけど…。」

「先生!天川君はクラスメイトだったの!過去に一度だけ!」

先生は驚きを隠せないでいた。しかし、その驚きとは内容にではなかった。

「…桜井さん、今日は帰りなさい。疲れているのよ。」

「…先生も見捨てるんですね。」

私はそう言い残し職員室を後にした。心配そうに見つめる先生の表情を見る事はなかった。


職員室を出ると美希が壁にもたれかかって待っていた。

「…美希。」

「…戻ってきた。」

美希の言葉と同時に私は後退りした。

「…待って、敵意はないの。色々と説明をしないとと思って戻ってきたの。何故あの時、天川逢瀬はあなた自身と言ったのか。」

私は目を合わせる事が出来ないままだったが、美希は話をゆっくりと進めた。

「…美月には分からなかったかもしれないけど、見た目が明らかに変わっていたの。それは影でもなく、怪物でもなく、まるで別の姿で。皆もすぐに気付いたけど、あえて見て見ぬふりをした。結局私は、耐えられなくなってしまったけど。」

「…ちょっと待ってよ。」

私は話を遮った。

言っている意味が全く分からなかったからだ。

「…私の意識はあったし、私自身が天川君だって言われた意味が分からないよ!」

「…あなたの姿は徐々に天川君そのものになっていった。私も詳しくは分からないけど、本物の天川君が立ち去った時にあなたに何かをしたのかもしれない。」

「…もう話についていけないよ。」

「…美月。なんで皆が涙を堪えながら貴方に敵意を向けたかわかる?」

私は背を向けて立ち去ろうとした。

すると、美希が私の腕を強く掴んだ。

「…あなたが大事な友達だからよ!同情したら死んでしまう世界なの!皆、それを分かっていたから!」

「うるさいッうるさいッうるさいッ!!!」

私は涙を流して、その場で蹲った。

職員室から富士見先生も出て来ていた。

「…渡辺さん。桜井さんは。」

美希は富士見先生へ頷きだけで答えた。

そして、美希は私に少しずつ歩み寄ってきた。

「…美月。今のあなたは間違いなく、桜井美月。私の大切な大好きな美月だよ。」

そう言うと美希は私を背中から包み込むように抱き締めた。美希の思いは暖かった。

「…もうあんな思いはしたくない。」

「…うん。もう終わらせよ。」

私達は本心で語り合い、再び友情に芽が生えたのであった。



七月一日 午後十六時

私と美希は学校を出て、赤い橋へと向かった。

暫く待っていると、逢沢桃が現れた。

「…美月ちゃん。」

桃は私を正面から抱き締めた。

「…ごめんね。怖い思いさせて…守って上げられなくて…。」

どうやら私の事情は美希から皆に伝わっていたらしい。

逸早く桃が私の前に現れたのだ。

私は桃に「ありがとう」と伝え、赤い橋を見る。

「…この橋も何度見たかな。なんか此処での闘いが凄い多かった気がするよ。」

美希や桃は私から目を逸らしていた。

この二人の様子を見て、まだ何かあるのだと感じた。

だが、まずは天川逢瀬を探す。

真実は後から付いてくると信じて…。

私は終わらない七月の物語への再出発を決心した。


「何かあったら連絡してねー!」

桃に手を振り、私と美希は若砂公園へと向かった。


次回

第二十二話 大好き。

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