第十二話 またね
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私達三人は全身に戦慄が走った。
何故影の逢沢桃が長谷部優と連絡を取っているのか。
しかし、あの電話の内容からすると恐らくわ…。
「離せよッ!クソがッ!」
お淑やかな性格が台無しになるほどに、逢沢桃は終始暴れていた。
日光があればすぐに退治出来る。曇天とほ皮肉なものだ。
私はポケットからある物を取り出した。
「…美月?それ何?」
「それは…塩飴!?」
曇天ではあるが、気温は32度と蒸している。
つまり、熱中症対策で塩飴を常備していたのだが。
「天川君、美希。影の口を開けられる?」
二人は訳も分からないまま、身体を押さえつつ髪を引っ張りながら頬を潰すように開口させた。
「ひゃっひゃめろぉッ!」
私は塩飴を影の口に入れ、そのまま押さえた。
身体の下で悶え苦しむ影は常時抵抗していた。
次第に動きは静かになり、逢沢桃の影は蒸発して消えていった。
「桜井さん。これはどういう…」
私は、自身の影を倒した日に気づいた事があった。
あの日、テーブルにあったカレー皿。何故一つだけ手を付けていなかったのかを考えていた。そう、手を付けていなかったのではない、付けられないのだ。あのカレーは影の分。影は日光だけじゃなく、塩分も苦手なのではと考えた。
もちろん確証は無かった。云わば、ぶっつけ本番であった。
「…へぇ、よく気づいたね!日光だけじゃなく塩分も苦手なんだ。」
「何はともあれ、これで影は消えましたよ。」
私達三人はこの数日で長い冒険に出ていた気がする。
しかし、まだ分からない事は多々ある。
「…でも、何で私の影じゃなくて桃の影だったのかな。」
「…分からない。これは推測に過ぎないけど、時間は遡っても影を倒した事実は変わらないのかも知れない。」
これまで出会った影は三人。残っている影は長谷部優のみ。
優…あなたは一体、何をしているの。
その頃。
「…もう、避けられないな。説明したら分かってくれるかな。」
俺は、消えなければいけないのだろうか…。
ドッペルゲンガーの事も気になるが、ハルカナ伝説についても解明しなければいけない。
【ハルカナ伝説】一九九五年 七月一日から七月六日に起こった事件。当時六歳の双子、佐藤遥ちゃんと彼方ちゃんは交通事故で亡くなった。
当時幼稚園では七夕飾りの準備を進めていたのだが、担任の死を望む短冊を発見する。その短冊を書いたのが遥と彼方と決めつけられ、当時の担任は大人気もなく遥と彼方の死を望む短冊で仕返しをした。両親にも信じて貰えなかったそうだ。
その後、父親と担任の不倫が発覚。両親は離婚し、母親は精神的に崩れ始めていた。母親の鬱状態により、子供達に虐待と思わせる事をしていた。
それに耐え切れなくなった子供達は、夜に家を抜け出して森へと行った。木の枝に、逆さまに吊るされた短冊を発見する。それは【みんなしんじゃえばいいのに 。ハルカ、カナタ】と書かれていた。
そして、七月七日。不倫騒動により幼稚園は臨時休園となった。新たな担任へと変わり、園児達の教室に行くと、笹竹には大量の短冊が掛けてあった。それは、生前双子が最後に書いた短冊と同じものであった。
「…そして、短冊を逆さまにしていた行為については当時流行したおまじないの文庫より判明。原理としてはてるてる坊主と似たようなものであった。叶えたい願いを逆さまにすると、その人へ不幸の呪いを掛けるというもの。ただし、代償は本人の命と記述されていた。当時六歳の双子には分かるはずもなく、噂を真に受けた可能性が高い。」
私はネットに掲載された【ハルカナ伝説】の記事について詳細を読み上げた。
「結局事件は未解決のまま。更には記事を見た人達が面白可笑しく【ハルカナ伝説】と命名したんでしょうね。」
天川君は切ない表情を浮かべ話す中、美希は浮かない顔をしていた。
「美希?」
心配になった私は声を掛ける。
「ハルカとカナタの望みはなんなのかな。あの時、助けてほしいって言ってたじゃない?」
「…復讐なのか和解なのか。」
天川君の言葉で一気に空気は重くなった、
「…影を倒す事も大事だけど、この事件の当事者に話聞いてみない?もしかしたら何かわかるかもしれない。」
「…そうですね。この事件を把握しないことには、僕達のループも終わらないですしね。」
「でも、宛はあるの?」
私は頷いた。【ハルカナ伝説】を調べる内に分かった情報が幾つかある。
一つ目、当時担任だった女性。本名は芹沢亜由美というらしい。存命であれば現在五十五歳。
二つ目、芹沢 亜由美の通っていた大学が【北海道国際大学 保育科】と判明。私達の担任の富士見円先生も【北海道国際大学】の教員科であった。富士見先生に聞けば当時の事が何かわかるかもしれない。
三つ目、芹沢亜由美の後任、富士見愛菜。これは憶測だが、苗字が同じの富士見円先生と何か関係があるかもしれない。だが確証はない、富士見円先生に聞くこととしよう。
「…油断はできません。常に警戒しつつ、後日三人で富士見先生の所に行きましょう。」
こうして私達三人は、誰一人として死者を出すことなく、七月二日の壁を無事に突破したのだった。
久しぶりに発した「またね」。
何故だかノスタルジーを感じた。
次回
第十三話 ハルカナ伝説




