第一話 織姫と彦星
ゆるの最新小説【ハルカナ】!
本日は第一話を投稿させて頂きました!
ご愛読よろしくお願いします!
これは遥か彼方、私が遠くの世界で体験したお話です。
最後に笑ったのはいつだっただろう。
君がいなくなったあの日から、もう七年が経過する。
七月七日…忘れもしない。
満天の星空を眺めて、あれが天の川だねって。
それが最後に笑った日。
私と貴方は、まるで織姫と彦星だ。
会いたいのに会えない。
私と貴方は、一年に一度さえ会っていない。
寂しい。
悲しい。
虚しい。
私は待っていても良いの?
羽衣を付けて良いのは貴方じゃない。
貴方は遥か彼方へと昇ったまま帰って来ない。
少しずつ小さくなる貴方を見ているように。
私の心も締め付けられて行く。
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二〇二五年 七月一日 曇り
キーンコーンカーンコーンッ
六時限目終了のお知らせが校内に響き渡る。
放課後になり、周りの生徒の雑談がザワザワと聴こえてくる。
そんな中顔を伏せたままの私は、暗闇の中で唾液を流し深い眠りに入っている。
先生が生徒に何かを言っているのは聞こえていた。
耳が遠くなったのか…いや、眠気で意識が朦朧としているのか。
そんな事を考えていると時間感覚が狂い始める。
「…さん…さ…いさん…桜井さん!」
「先生無理だよ、美月は一度寝たら中々起きない。」
先生は溜息を吐きながらその場を去って行く。
聴こえているのに無視を続けるのは罪だろうか。
だが、眠いのは間違っていない。執行猶予である。
「…寝たふりの常習犯め、今日こそ逮捕してやるぅ!」
小声で私を擽るのは、隣の席で親友の渡辺美希。
茶髪のロングヘアにウェーブのかかっている髪が特徴的だ。
私は耐え切れず大きい声を上げてしまう。
「も、もう、やめてよぉ!擽ったいって美希!」
すると、美希は「なんの事〜?」という表情で私とは真逆の方向を向いていた。
逆にクラスメイトや先生の視線を痛く感じとった。
「…す、すみません。」
「…後で職員室に来なさい。」
クラスメイトは皆笑ってくれているが、いい加減この昼寝癖を治さなければいけないと感じている。
今はもう高校三年の夏、あと半年もすれば卒業だ。
高校最後の夏、甘酸っぱい青春の日々を過ごしたいと思っているこだが…
笑えない程の成績表を目の当たりにして現実を見始めているのも事実。
帰りのホームルームが終わり、先生が教室から出て行く。
「…最悪だぁ。」
「寝坊助は重罪なり♪」
「このこのこのこの」と再び美希とじゃれ合っていると、一人の男の子がやって来た。
「お前ら毎日同じ事しててよく飽きねぇな。」
黒髪の好青年、頭脳明晰の爽やかイケメン王子。その中身は、とんでもないアニメオタク。彼の名は、長谷部 優。
「うるせぇぞ、アニオタ星人。」
「…ほんと顔は良いのに性格に難ありなんだよな。」
私と優は額を強く押し付け、睨み合う。
「君達こそ、毎日同じ事をしているのではないですか?」
「おっ竜生じゃん!おっつ〜。」
美希と幼なじみの阿久津竜生、通称ロン毛眼鏡。普段顔は隠れているけど、実は隠れイケメン。そしてお金持ちの息子みたいな口調は…そう、お金持ちなのである。
「ほんと仲良いですね〜♪」
逢沢桃、名前の通りの髪色をしている。いつも明るい天然お嬢様。
「ちょっと妬いちまうよな。」
芹沢涼太、名前だけ見るとイケメンなサッカー部に見えるでしょ?実はクソ坊主で野球部なんです。しかも、ポジションは右翼手。地味〜。
この六人で一緒にいる事が多いんだけど、中々予定が合わない。
だが、ダメ元で聞くのが私のルーティンでもある。
「皆様!本日のご予定はいかがで御座いましょう!」
「なんだそれ。」
当然のように全員パスと答えた。
美希と涼太は部活。
桃と竜生は習い事。
優はオフだが、貯まったアニメを一気見するそうだ。
「はい残念。皆そろそろ行かないとなの。そんな事よりあんたも早く職員室行った方がいいんじゃないのー?」
美希が時計を見ながら私に問い掛ける。
時刻は十五時半を指している。
「あ!ヤバいじゃん!」
急いで机の上と中の物をまとめて鞄に詰め込む。
「皆ばいばーい!」
私は職員室へと急いだ。
「全く、忙しないんだから。」
美希は呆れた口調で話し、他の皆も笑っていた。
〜職員室(二階)〜
職員室で説教をされてから既に十五分が経過していた。
「だから、今が一番大事なの!分かる?先生はあなたの為に言っているの!」
「はーい…。」
呆れたかのように溜息を吐くと、机の上の重なった紙から一枚だけ取り出した。
高校に入ってから何度見せられたか分からない、進路希望の用紙だ。
それを三年間、現在進行形で白紙で出し続けている強者は私だけであろう。
「貴方、三年間白紙で提出してるわよね?将来の夢とか無いの?」
「そんな事言われてもなぁ。将来の…夢…か。」
ふと職員室の入口を見ると、見た事ないイケメンが通り過ぎた。
「…私のお婿さん。」
「…え、なんて?」
私は通り過ぎたイケメンを追い掛けた。
先生が大声で呼び止めているのも聴こえていたが、私は聞く耳を持たなかった。
職員室を出て、イケメンの向かった方向へ走った。
イケメンは三階…そして屋上へと上がって行った。
階段を駆け上り、屋上の扉を開けると、イケメンが空に手を翳していた。
私はゆっくりとイケメンに近づいた。
「あの、どうかしたんですか?」
イケメンはこちらを見て微笑んだ。
そよ風が彼のイケメン度を底上げしてくれていた。
「なんでもないよ。」
そう一言だけ言い、イケメンはその場を立ち去ってしまった。
「…結局名前、聞けなかったな。」
そして、十七時の予鈴が鳴り響いた。
次回
第二話 謎多き男