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一話

平常運転作です。人を選ぶと思います。

一話が合わなければ推奨しません。


 ──白鳥しらとり 柊也しゅうやには関わるな。


 これは僕の通う高校における不文律である。

 それは中学の頃から存在していて、高校へ進学しても無くなることはなかった。恐らく、同じ中学の同級生が広めたのだろう。


 そして、くだんの人物は僕であり、悲しいことに覆しようのない事実だったから、受け入れざるを得なかった。


 そんな訳で、僕には友達がいない。誰も話しかけてなんてこない。それはそうだ。関わってはいけないから。実際、下手に関わったらどうなるか知っているから。


 君子危うきに近寄らず。

 それが正しい。


 僕としても、そうして欲しかった。寂しいけれど、僕のせいで誰かが不幸になるよりはずっとマシなのだから。


 残念ながら被害者は出てしまっている。高校に入ったばかりで不文律が広まる前だった。


 明るく誰にでも優しい女の子だった。

 優しい彼女は、どうやら周囲に壁を作っている僕が気になったらしく、その優しさ故に()()の同級生に接するように気さくに話しかけて──翌日から学校に来なくなった。


 僕はそうなった理由を知らされた。僕に話しかけたという、ただそれだけで彼女が巻き込まれた悲劇に嘔吐して、元凶たる僕自身を憎んだ。

 結局、彼女はそのまま姿を見せることなく、ひっそりと転校していった。まだ高校入学から二週間も経っていなかった。


 皆の煌びやかな高校生活のスタートは、僕のせいで陰鬱としたものとなってしまった。


 その頃には、もう不文律は形成されていた。慌てて広めてくれたであろう同級生には感謝しかない。



 ──そして、あいつは。



 あいつは平然と、当たり前のように、僕の隣の席に座っている。

 肩下まで伸ばした黒髪の毛先を指先で回しながら、にこにこと笑みを浮かべてこちらを見ている。


 十人いれば確実に九人は振り向く美少女。平均よりやや高い身長、すらりとしながらも女性的な丸みも持ち、人形のように整い何処か高貴ささを感じさせる顔立ちをしながらも、笑顔は柔らかで人懐っこさを感じさせる。

 

 けれど、それは見た目だけ。そのうちには善意など欠片も存在していない。

 存在するのは、悪意。底無しの、悪意。他者の不幸でしか悦びを感じられない破綻者。


 ──それが、雪下ゆきした 瑞穂みずほという名の、人のカタチをした邪悪。


「ねぇ、シュウ」


 瑞穂に愛称を呼ばれる。この愛称を付けたのは彼女であれば、それを使うのも彼女しかいない。そもそも、僕の名を呼ぶものが他にいないのだから。


 僕に関わるなというのは、結局のところ、この女に関わってはいけないということを示している。


 僕の人生は、こいつの所為で終わった(始まった)


「聞いてるの? シュウ」

「…………なに」


 僅かに苛立ちの混じった声に、僕はそれ以上の不機嫌さと憎悪を滲ませて返答した。


「今日の夜、空けといてね?」


 花の咲くような笑顔。

 そのじつ、腐臭がする程に腐りきった笑顔。

 瑞穂の言葉が示す意味は一つだった。


「…………わかった」


 本当は、返答に意味などない。拒否権など元より持ち合わせていないのだから。


 昼休みの終了を告げる予鈴が鳴り、僕は席を立った。


「何処行くの?」

「トイレ」


 嘘だ。

 少しでも瑞穂と一緒にいる時間を減らしたいが為の理由付け。何の意味もない抵抗。



 昼休みが終わる直前に教室へ戻ると、僕の机の上にはバラバラに引き裂かれた何かが散乱していた。


 それは次の授業で使う数学の教科書だった。ついでに、ノートも。僕は無言のままそれを片付けて、ゴミ箱へと放り捨てる。


 席へ戻ると同時、チャイムが鳴って数学の先生が教室へと入ってくる。


 当然、僕の机上には何も置かれていない。


「教科書もノートも忘れちゃったの? 相変わらずバカね。ほら、ノートあげる。あと教科書も見せてあげるから」


 そう言って瑞穂は自分の机を僕の机へとくっ付け、教科書を中央に広げると共に新品の大学ノートを目の前に置いた。


 瑞穂が近づき、淡くほのかに甘い花の香りがした。


 その香りに、どうしようもなく吐き気を覚えた。

ずっとこの雰囲気の予定です。

修也くん曇らせ作品。


「姫たる福音」の更新を優先するので、こちらは気ままに書きます。

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