過去
回想あり。短いです。
父親同士の仲が良いこともあり、アルフレッドとエマーリィは幼い頃、よくドルシェンナ家の庭で、二人で遊んでいた。
エマーリィは勝ち気で活発な性格で、気弱なアルフレッドは彼女のペースに振り回されてばかりだった。アルフレッドとは真逆の性格であったが、二人はなんとなく気が合った。
その頃から、アルフレッドはエマーリィのことが好きだった。
十一歳になった頃、エマーリィが同じ年頃の貴族の少女たちとお茶会を開き交遊するようになると、徐々に屋敷に赴く足が遠ざかっていった。華やかな世界に身を置くエマーリィを遠い存在に感じた。
いつだったか、一人の令嬢がアルフレッドの話題を持ち出してエマーリィとの関係を勘繰り、揶揄したことがあった。父の都合でたまたま屋敷の茶会の場に通りがかったアルフレッドは思わず令嬢たちから距離を取り物陰に隠れた。それからエマーリィはどう答えるのかと落ち着かない気持ちで聞き耳を立てた。エマーリィの冷たい声がアルフレッドの耳を打つ。
「彼と私では住む世界が違います。好きになるはずがありませんわ」
周囲の令嬢たちもエマーリィに同調して笑いさざめいた。
アルフレッドは項垂れて、見つからないように静かにその場を離れた。それに唯一気付いたエマーリィがあとで謝罪してくれたが、沈んだ気分は晴れなかった。
課題をキリの良いところまで済ませて、ノートを閉じる。ひとつ息を吐いた。
いい加減、現実を直視しなければならない。ドルシェンナ家は跡継ぎがエマーリィしかいないため、アルフレッドは婿入りすることになっていた。ちなみにエマーリィが王太子の婚約者に選ばれた場合、親戚筋から養子を迎える予定であったという。アルフレッドのもとにはドルシェンナ家の次期当主として、早期に教育を開始したいという要望が届いていた。
エマーリィの行動に振り回されたり、その真意を追ってばかりもいられない。
事の発端がエマーリィの頼みとはいえ、アルフレッドが決めて行動した結果である。責任を果たさなければならない。椅子の背もたれに寄りかかって目を閉じる。遅くなってしまったが、覚悟はできた。
それでも気持ちにケリをつけるため、確認すべきことがある。
「本人に直接聞くしかないか……」
翌日は学園が休日のため、アルフレッドはドルシェンナ家に向かうことを決めた。