第3話 ギルドにて①
「ここだよ」
少女に連れられて冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
併設された酒場には、筋骨隆々ないかにも戦士風な男や、魔女帽子を被りローブに身を包むザ・魔法使いって感じの子や、腰に短剣を携えた盗賊っぽい人など、ファンタジー小説の住人達が昼間から酒盛りをしていた。
目の前に広がる光景に圧倒されてキョロキョロしていると、少女に腹を肘で突かれる。
「うぐっ……何で」
「ここには柄が悪い人が多いから、ひ弱な素振りを見せてると痛い目に会うよ。だからキョロキョロしないで」
「分かった……」
少女はそう言って、物怖じせず堂々と酒場の方へと歩いていく。
俺は慌てて少女の背中を追う。
机に座る冒険者達は俺には目もくれず、楽しそうに酒を飲んで騒いでいる。
中には壁の隅で訝しげに俺を睨む奴も居たが、とにかく見ないようにして少女の影に隠れた。
そのまま酒場の奥に入っていくと、一人の男に声をかけられる。
「ランティ、こっちだこっち」
男がこちらに向かって手招きをしている。
やけにガタイのいい、穏やかそうな中年男性だ。
その後ろには白を基調とした修道服を着た女の子と、樽ジョッキ片手に机に突っ伏している金髪の男が座っている。
「あぁ、居た居た」
少女はそう呟いて、男の方へと歩いていく。
俺は変わらず、ただ少女の足跡を辿るだけだった。
「ごめんね、カートル。少し遅れた」
「大丈夫、気にするな。それで……」
男の目線が少女から俺へと移る。
後ろで水を飲んでいた少女も俺たちに気づいたのか、慌てて立ち上がって男の隣に立った。
もう片方の金髪の男は、机で潰れたままだった。
中年の男は振り返ってその様子を見ると、呆れた様子でため息ひとつ吐いて、無視して話を進める。
「身体の調子はどうだ? 何か違和感はないか?」
「あぁはい、もう大丈夫です。助けてくれてありがとうございました」
「敬語はやめてくれ、当たり前のことをしただけだから、礼はいいよ。立ち話もなんだから、座ってゆっくり話そう」
気さくに笑う男に言われるがまま、俺は席に着いた。
潰れた金髪の男と中年の男、それから修道服の女の子が並んで座り、俺と少女はその対面に座った。
「早速だが、まずは自己紹介をしよう。俺はカートル、このパーティーのリーダーをやっている。それで……この俺の隣で潰れてる奴はレクタスだ」
カートルはレクタスの頭を軽く叩きながら言う。
それに起こされて、レクタスがゆっくりと真っ赤な顔を上げる。
目元がキリッとしていて、鼻が高く、まさにイケメンって感じの男だったが、みるみるうちに顔が真っ青に染まり、そのまま急いで何処かへ走って行った。
……大丈夫だろうか。
「私はテネリスです、えっと……本当にお身体の方は大丈夫でしたか? 大分損傷が激しかったので……」
走り去っていく男には目もくれず、何事もなかったかのように自己紹介を続けるテネリス。
「あぁ、うん。身体は全然大丈夫。えっと、君が治してくれたんだよね、本当に助かった。ありがとう」
「! いえ、当たり前のことをしただけです!」
ドヤ顔でそう言うテネリスに、カートルは照れくさそうに笑っていた。
「私はランティ、よろしくね」
そして、隣に座る少女が思い出したかのように言った。
俺以外の自己紹介が終わり、俺の番が回って来る。
自己紹介なんて、高校入学初日以来だな。
いざとなると、やはり緊張する。
なんて言えばいいのか……自分の名前以外に言えることが無さすぎて少し困る。
異世界から来た……なんて隠す必要こそ無いけれど、信じてもらえはしないだろうし。
ダンジョンで倒れてた経緯を説明することもできない。俺だって理由はよくわからないから。
とりあえず、俺が今一番伝えたいことを言おう。
「俺はカナタ、くどいようで申し訳無いんだけど……みんなが居てくれたお陰で俺は助かった。だからその改めて、本当にありがとう。よろしく」
「あぁ、よろしくな、カナタ」
カートルに差し出された大きな手を、俺は力強く握った。