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異世界のカナタ  作者: さいとう
2/4

第1話 添い寝で始まる我が異世界

 長いこと、眠っていた気がする。

 何か、忘れてはいけない夢を見ていたような……。

 

 目が覚めると、俺の顔を至近距離でまじまじと見つめてくる美少女がそこに居た。


「あ、起きた。おはよう」

「……おはようございます?」


 寝ぼけているのだろうか?

 中途半端に開いた瞼を擦ってみる。

 そこには変わらず青いローブに身を包んだ少女が座っており、目線を変えずにじっとこちらを見ている。

 

「身体の調子はどう? うちの僧侶が回復魔法を施したから、それほど傷は残っていないはずだけど」


 やはり寝ぼけているのだろうか。

 僧侶とか回復魔法とか、ファンタジー小説にしか出て来ない単語を平然と口にする少女。

 俺はとりあえず、少し強めに自分の頬を叩いてみた。


「え……何やってるの?」


 俺の奇怪な行動に驚いたのか、若干引き気味な少女は目を丸くして困惑している。


「痛い……」

「……何がしたいの?」


 俺が呟くと、呆れ顔で少女はそう言った。

 痛覚はあるし、どうやら夢ではないみたいだ。


「とりあえず、もう一度聞くけど……身体の調子はどう? 何かおかしなところはない?」

「あ、はい……特には」

「なら良かった」

 

 俺の言葉を聞いて、少女はほっと胸を撫で下ろし、腰掛けていた椅子の背もたれに体重を預ける。


「ほんと、驚いたよ。まさかダンジョンの奥底で人間を拾うとは思わなかったから」

「だ、ダンジョン?」


 聞き返す俺に、冗談めかして話す少女。


「運が良かったね。あと少し遅ければ、今ごろ君は冷たい地面に転がる骸になっていただろうから。君を齧っていたモンスターを追い払うの、結構大変だったんだよ?」

「か、齧って……?」

「理由はよく分からないけど、モンスターは執拗に君を狙ってきたんだ。私たちには目もくれず、あいつらはひたすら君に牙を向けていた。お陰で動きも単調で倒しやすかったんだけどね」


 少女はその長い髪を指先でいじりながら、軽い調子で思わず身震いするような体験談を語る。

 ……俺はこの子に助けられたんだ。

 

「……ありがとう、お陰で助かった」

「礼なら傷を治した僧侶と君をおぶった戦士に言って。私は何にもしてないから」

「……でも、介抱してくれてるし、礼は言うべきだ」

「部屋を貸せるのが私だけなの。戦士と剣士は一緒に一部屋を使ってるから寝る場所が無いし、僧侶は恥ずかしがって無理だって言うからさ。仕方なくだよ」

 

 少女はため息混じりで椅子から立ち上がって、徐にローブを脱ぎ始めた。

 袖が裏返ったままのローブを机に放って、その上に取り外した指輪やネックレスなどの装飾品を雑に置く。

 机の横に置かれている大きなカゴのようなものの前に立ち、少女は裾に手を置いて、その手を天高く……。


 俺は思わず顔を背けた。

 その勢いで脳が揺れて、また意識を失うんじゃないかと思うほどのスピードで。


 え……あの子何してんの?

 俺、まだここに居るけど……


 艶かしい衣擦れの音が、頭の中に響く。

 

 え、本当に何をしているんだ?

 あれか、痴女か? 痴女なのか?

 普通、男が居る前で服を脱ぐ女が居るのか?

 性の多様性ってやつか? 

 ……一概に否定はできない。


「ねぇ、もう少し寄ってくれる? これシングルベッドだから狭いんだ」

 

 妙に肌色の多い寝巻き姿でベッドに入ってくる痴女。

 俺は無言で壁に張り付いた。


「ありがと。あ、枕一つしかないのか……」

「どうぞ使ってください俺は大丈夫なので!」

「そう? なら遠慮なく」


 早口で捲し立てる俺に若干困惑しつつも、痴女はそのまま枕に頭を乗せて目を瞑る。

 

 経験の浅い男子高校生にとって、このシチュエーションは中々に厳しいものがある。

 

「とりあえず、今日はもう寝よう。私も久々のダンジョンで疲れたから、眠気が限界なんだ」

「え……あ、はい」

「明日からのことは、みんなで明日考えよう……」


 少しずつか細くなっていく声色。

 やがて、少女は眠りについた。


 おかしい。この子はどこかおかしい。

 初対面の男の隣で熟睡できるとか、危機管理能力が欠如しているのか? 貞操観念が緩すぎるだろう。

 それともこの世界はこれが普通なのか?

 いや、さっき僧侶が断ったとか言っていたし、きっとおかしいのは世界ではなくこの子なのだろう。

 認めざるを得ない、ここは異世界だ。

 ……もう寝よう。これ以上考えたところで何にもならない。早く夜を明かして、この煩悶から逃れるのだ。

 

 激しく脈打つ心臓に苛まれながらも、俺は何とか意識を暗闇に落とすことができた。



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