第0話 いわゆるプロローグ
「――ごめん。私、カナタをそういう風には見れない」
俺がガキの頃から燻らせていた長い長い片思いは、それはもう見事なまでに呆気なく散った。
「……そっか」
「……私、そろそろ行くね」
彼女は申し訳なさそうな表情でそう言い残して、足早に俺の元から走り去って行った。
遠ざかっていく彼女の背中に手を伸ばそうとする。
しかし、俺の理性がその欲望を抑え込む。
今しがた、振られたばかりではないか。俺が彼女の跡を追うことを、神は決して許してくれないだろう。
「……帰ろ」
今日はもう、早く帰ろう。
前から観ようと思ってたアニメを観て、ジャンクフードでも頬張りながら、現実逃避に耽るとしよう。
今は少しでも、頬を伝う涙の訳を忘れるために。
道の真ん中で立ち尽くしていた俺は、道の端によって、久しぶりに一人で帰り道を辿った。
自分の隣に、物足りなさと喪失感を感じながら。
暫く歩いて、段々涙も枯れてきた頃。
明日からどうしようとか、隣に住む彼女に出くわさないよう家を出る時間をずらさないとなとか、失恋の事後処理について頭の中で考えていると、今一番会いたくない人影が自宅の前に立っていた。
……そこに居られると俺が家に入れないのだが。
というか、彼女は一体何をしているのだろう。
なんか、頭を抑えているような……。
すると、真っ直ぐと立っていた人影がよろめく。
直にその影はアスファルトに力無く倒れ込んだ。
俺は、無意識のうちに走り出していた。
肩にかけていたスクールバッグを放って、彼女の元に駆け寄る。
急いで彼女の安否を確認しようと声を出そうとするも、突如として原因不明の頭痛が俺を襲い、足が固まってしまう。
痛い、痛い、痛い……急に何なんだ……今は、それどころじゃないのに……。
襲いかかる激しい痛みによって、やがて俺も地面に膝をついて頭を抑え込む。
……こんな所で止まっている暇はない。一刻も早く救急車を呼んで彼女を助けないと……。
震える手で制服のポケットを弄るも、そこにスマートフォンは無かった。
……畜生、ダメだ。痛い、痛い……もう、視界が……。
少しずつ意識が朦朧としてきて、呼吸も早くなり、段々と視界が暗くなっていく。
……ごめん、ミツキ。情けない男で。
最期に感じたのは、止まない頭痛と冷たいアスファルトの温度だった。