おまけ・鱗形屋孫兵衛版「阿弥陀胸割」の戦闘場面
親の菩提を弔うために我が身を売ろうとさまよい歩く天寿姫とていれい。ふたりの姉弟はあららの庄の阿弥陀堂でお告げを受けて、大まん長者のもとへ向かいます……
三段目
その後、姉弟は阿弥陀仏の教えに従って急いでゆきました。
そのころ、おきの郷というところに源太兵衛という裕福な人がおりました。源太は大まん長者の子で松若どのと申します者を婿に取りたいと、度々申し入れをしておりましたが、とうとう了承されなかったので、たいへんに腹を立てておりました。そこで第一の臣下である花月の二郎を側に呼びよせて、事のあらましを聞かせて、どうしたものかと仰いました。
花月はこれを聞いて曰く、
「まことに腹の立つことです。わたくしに大将の役をお与えください。敵どもの首を取って本望をはたしましょう」
源太は大変喜んで、
「よく言ったぞ花月。それではお前が行きなさい」
といって、三百余騎を与えると、花月はかしこまってそれを引き連れ、早くも大まん長者のもとへと押し寄せました。
館の三方を包囲すると、鬨の声をあげました。鬨の声が静まると、長者の館の中から、せいがんの左馬之助、とうぼくの右馬之允の兄弟が表の矢倉に駆け上がり、
「何者の狼藉であるか。名を名乗れ、聞いてやろう」
と仰います。
その時、花月は大声を上げ、
「ただいまここに押し寄せた軍勢の大将はこの私、源太兵衛の家臣、花月の二郎である。例の件での本望を遂げるために、ただいまこちらに参ったのだ。速やかに腹を切るべし」
と、高らかに呼ばわりました。
兄弟はこれを聞き、
「妙なことを言うものだ。どれ、手並みを見てやろう」
といって、大勢の中に割って入り、ここが肝心とばかりに闘いました。二人が手に掛けて、優秀な兵士五十騎ばかりを切り伏せ、残った者どもを四方に蹴散らしました。
花月はこれを見るなり、
「なんとも残念なことだ。だが必ず本望を遂げるぞ」
といって、国元に逃げ帰ろうとしましたが、二人の武者はそれを追いかけて、後ろ手に縛り上げ、長者の御前に引き出しました。
その時花月がひとりごとに、
「ああ悔しい。今はこのような有様だが、死んだ後には鳴る雷となり、最後には本望を遂げるぞ」
といって、目を見開いて、きっと睨みつけました。
これを御覧になった大まんが、
「余計なことを言わせるな」
というので、すぐに首を打ち落とせば、その首は天へと飛び上がっていったので、みなひどく驚きました。
とにもかくにも、かの花月の二郎の有様は、恐ろしいという言葉では言い表せないほどのものでありました。
そののち大まん長者は、戦には勝ったものの、ただ一人の子、松若どのは不思議にも病に罹り、床に臥すこととなったのです。
……大まん長者は松若の病を治すため、あらゆる手を尽くしました。そしてある博士の占いにより、松若と同じ辰の年辰の月辰の日生まれの姫の生き肝が薬になることを知ったのです。