92. その頃エトワーレでは(中隊長補佐イース視点)
「イース、私宛にギルドに伝言が届いているから今から行ってくる。シュペアたちかもしれない。」
「分かりました。」
前にシュペアたちがトルーキエの貴族に狙われて大事になってから、中隊長はずっとシュペアたちを心配している。
俺たちも知らなかったんだが、団長の勝手な判断で、シュペアの仲間2人もいつの間にか騎士団の隊員になっていたようだ。
シュペアも、中隊長やミラン部隊長のような規格外という域に片足を突っ込んでいるように見えるので、俺も少し心配している。
そしてシュペアは、かなり中隊長のことを尊敬していて、中隊長の考えをそのまま受け入れてしまうところがあるから、それも少し心配だ。
「イース・・・もしかしたらシュペアは、私に似ているのかもしれない。いや、私以上だな。
問題を引き寄せやすいというか・・・。」
中隊長はギルドから帰ってくると、困った顔をして額に手を当てながらそう呟くように言った。
「シュペアたちがまた貴族に狙われましたか?確かラジリエンに入ったと報告があったと思うのですが、ラジリエンの貴族ですか?」
「いや、それが・・・。」
言いかけて口を噤んだ中隊長に、かなりのことが起きたんだと、俺は覚悟を決めた。
「口に出せないほど大変なことに?」
「イース、今はここだけの話にしてくれよ。」
「分かりました。」
「シュペアたちが、偶然仲良くなった人がラジリエンの現王の弟だったらしい。」
「・・・そうですか。」
とんでもない爆弾だった。マジか。
「一緒に食事をしている時に襲撃されて、王弟を守ったらしい。しかも2度。」
「そ、それは凄いですね。というか、平民の冒険者が王族と食事をする機会なんてありますか?」
「普通はないよな・・・。
それで、王都まで護衛を依頼されたらしい。」
「はぁ?なぜ?王族なら護衛の騎士がいくらでもいるでしょう。」
「だよな。しかも受けてしまったらしい。」
「なるほど。それは悩みますね。とりあえず陛下と団長には報告された方がよろしいかと。」
「だよな。」
「陛下、割と重大な話があります。今から行きます。
団長、陛下の部屋まですぐに来てください。話があります。」
中隊長は声に魔力を纏わせて陛下と団長に届けた。
この技はとても便利そうなので俺も練習中だが意外に難しく、なかなかできない。
「イース、行ってくる。もし緊急事態が起きたら伝令魔獣を飛ばしてくれ。」
「分かりました。」
中隊長はゆっくりと入り口に向かって、部屋を出て行った。
シュペアたち、大丈夫かな?
頻繁に襲撃を受けるような人物の護衛となると、かなり大変だと思う。
そんなの俺だって経験がない。
もし失敗するようなことがあれば、国を揺るがすことになりかねない。
それを分かっていて受けたんだろうか?
それとも、相手が王族で断れなかったんだろうか?
後者であれば災難だな。
ふぅ。とにかくシュペアたちが無事戻ってくるよう神に祈るくらいしか、俺にできることはないな。
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コンコン
「ウィルです。」
「入っていいぞ。」
「失礼します。団長ももう来てたんですね。」
「あぁ。すぐ来てくれと言われたからな。」
「ウィル、何か起きたのか?災害級の魔獣でも出たか?」
「いえ・・・。」
「とりあえず皆、ソファーに座ろう。」
なかなか言い出さないウィルに、陛下はソファーに座るよう促した。
陛下、宰相、団長、そしてウィルが着席すると、やっとウィルは口を開いた。
「シュペアたちのことです。」
「あぁ、彼らか。トルーキエで貴族に狙われたと連絡があったかと思ったら、トルーキエの王まで動いて、我らに謝罪の手紙が届いた、あの時の子たちだな。」
「えぇ、彼らは今、ラジリエンにいるのですが・・・。」
「そうか。3人とも無事だとは聞いている。」
「現王の弟イスパーダ様と仲良くなったそうです。」
「はぁ?彼らは貴族ではないと聞いていた気がするが、実は高位貴族の子息たちだったのか?」
「いえ、彼らは平民です。
知り合った経緯は分かりませんが、知らずに知り合い、共に食事をしたそうです。」
「そ、そうか。」
「そして、食事中に襲撃を受けた。」
「まさか、王族の命を狙った疑いで捕らえられたか?」
「いえ、彼らは王弟を守ったそうです。2度。」
「ラジリエンの王族はそんなに頻繁に襲撃を受けるのか・・・。」
「そして、王弟から王都までの護衛を依頼されたと。」
「ん?それはなぜだ?王族には護衛くらいついているだろう。そんなに襲撃を受けるなら、かなり護衛も多いのでは?」
「その辺りの詳しい事情は分かりませんが、もしかしたら襲撃でかなりの被害が出たのかもしれません。」
「あぁ、その可能性はあるか。」
「そして、彼らは王弟の護衛依頼を受けたそうです。」
「おっと、マジか・・・。」
「なんと・・・。」
「彼らの腕はどうなんだ?シュペアという子はウィルとミランしか使えない目の色を変える魔術を使えるほど魔術の腕があると聞いているが・・・。」
「そうですね。シュペアは魔力操作が上手く、かなり魔術の腕は高い。槍もかなりの腕です。
ルシカとゲオーグも、冒険者ランクはBですが、実力はAと言ってもいいくらいです。」
「そうか。
しかし、王族の護衛か。失敗して王弟が亡くなるようなことがあれば、我らでも、彼らを守り切れるか分からないぞ。」
「・・・そう、ですよね。」
「しかし、平民の彼らが王族からの頼みを断ることなどできなかったんだろうな・・・。
それを考えると申し訳ないが・・・、もし失敗して王弟が亡くなり、彼らが捕らえられた場合、ラジリエンと対立するような状況に陥れば、私は彼らを切り捨てる判断をする。」
「まぁ、それは仕方ないことかと。
恐らく彼ら3人だけで護衛することは無いでしょうし、王弟が亡くなるような場合は彼らも無事ではないでしょう。」
「そうだが・・・シュペアはまだ子供だ。可愛くて素直で、みんなに慕われている。俺は切り捨てるようなことはしたくない。」
団長が陛下の言葉に待ったをかけた。
「私も、そんな簡単に切り捨てると言っているわけではない。国と国が衝突するようなことになればの話だ。」
「そうですよ。団長、国を危険に晒してまで彼らを守る判断は、陛下の立場ではできないんです。そこは理解して下さい。」
「あぁ、すまん。」
「私かミランが行ってもいいんですが、間に合う保証はありません・・・。
私かミランが行くなら、出発の引き延ばしを提案するようギルドに伝言を残しますが、引き延ばせるかも分からないし、伝言をすぐに確認できる環境かも分からない。」
「そうだな。ラジリエンは遠いからな。さすがにウィルやミランでも間に合わないだろう。
索敵や結界など、護衛に役立つような内容をギルドの伝言で教えるというのはどうだ?
腕が立つなら、役立てられるかもしれん。」
「そうですね。Sランクからの緊急依頼として依頼してみます。
では今からギルドへ行くので失礼します。」
ウィルは一礼すると、陛下の部屋を後にした。
「はぁ、マジか・・・。これは思った以上に重大な話だったな。」
「そうですね。」
「シュペアのいう子はウィルが幼い頃から可愛がっているんだろ?しかも将来は側近にするとか。
ウィルも心配だろうな。」
「2人も強いが、シュペアはな・・・。
俺でも近ければ駆けつけてやりたいと思う。あのミランも気にかけていたしな。あの子は、失いたくないな。」
「最悪の事態を考えることも必要ですが、護衛が成功した場合は、我が国にとって有益なことなのでは?
トルーキエとは彼らのおかげで現王の考えを知ることができ、友好な関係をより強固なものにできたと思います。
そのトルーキエを挟んでラジリエンとも友好な関係を築くことができれば、砂糖や金属類の輸入も増やすことができ、こちらからも小麦や魔術付与された道具などを輸出できるかもしれません。」
「そうだな。もしそうなれば、国への貢献度はかなり高い。その場合は彼らを叙爵しなければならないほどにな。」
「彼らはそれを望みますかね?」
「それは分からん。しかし、爵位があれば、他国でもより安全にはなるだろうな。」
「今は彼らを信じて続報を待つしかありませんね。」
「そうだな。」




