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少年シュペアの冒険譚 〜無自覚に最高峰を目指す〜  作者: 武天 しあん
初めての旅

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60. ミランとチョコレートケーキ


コンコン

「ミランだけど〜、シュペア来てるー?」

「入っていいぞ。」


ガチャッ



「シュペアくん久しぶり〜

元気だった?またちょっと背が伸びたんじゃない?相変わらず魔力循環上手いね〜」

「そう、かな?」


「どうした?ウィルに虐められた?」

「違うの。領主様はそんなことしない。」


「そう。ねぇねぇウィル、フロイ貸して。シュペアと一緒にチョコレートケーキ食べに行きたい。」

「タッシェにか?」


「うん。やっぱ元気出すにはチョコレートケーキでしょ〜」

「シュペアが良いならいいが。シュペアはどうする?」

「えっと、別にいいけど・・・。」


「じゃあ決まりね〜善は急げ。さぁ行くよ〜」


ミランに手を取られて、身体強化も結界もかけてくれたみたいで、凄い速さで廊下を駆け抜けて厩舎に辿り着いた。


人に身体強化をかけてもらうのって、こんな感じなんだ。凄い。



フロイというのは領主様の黒馬だった。何度か見たことはあるけど、近づいたことはない。


「フロイ、僕はシュペアです。何回か見かけたことがあるけど、覚えてる?」

ブルル<うん。見たことある。ウィルが大切にしてる子。>


そうなんだ。僕、領主様に大切だって思われてたんだ。嬉しい。


「フロイ〜、俺とシュペア乗せてタッシェまで行ってくれる?全速力で。」


ブルルル<いいけど、僕はクンストのユキの様子も見に行きたい。>



「ミラン、ユキって知ってる?」

「ん?ユキ?あーフロイのお嫁さんだね。

え?シュペアくん知ってるの?会ったことあったっけ?」


「ないよ。」

「ん?」


「フロイが、いいけどクンストのユキの様子を見に行きたいって言ってる。」

「えぇ?シュペアくん、フロイが言ってること分かるの?」


「うん。」

「マジか。今までフロイと会話できるのはウィルとウィルのおじいちゃんだけだったのに、シュペアくん凄いね〜」


ブルルル<ミラン行かないの?早く乗って。>


「ミラン、フロイが早く乗ってって。」

「あぁ、そうだね。シュペアくんは俺が抱えて乗ろう。」



ブルルル<シュペア、保護かけるから心配ないよ。リーゼも大丈夫だったし。>


「保護?」

「あぁ、フロイは特殊個体で魔術が使えるんだ。身体強化を使ってもの凄く速く走れる。」


「凄い。フロイそんなことできるの?凄いね。」


ムフー<そうでしょ?僕は凄いの。>


フロイは自慢げにそう言うと、鬣が銀色に光って、信じられない速さで走り出した。

でも、保護をかけてくれてるから、安定してた。馬に乗ったことがない僕でも、ちゃんと振り落とされずに乗っていることができた。


王都の門を出ると、景色が見えないくらいぐんぐん加速していって凄かった。

タッシェまであっという間について、ミランがフロイを木に繋いだ。


「フロイ、ありがとう。凄く速くてビックリしたけど、保護かけてくれたから大丈夫だった。フロイは格好いいね。」


ブルルル<でしょ?僕は格好いいの。>


「うん。凄く格好いい。」



「ここだよ〜

ここはね、ルスカート出身のシェフが料理を作ってるんだけど、チョコレートケーキが美味しいんだよ〜」

「そうなんだ。あ、ルシカとゲオーグ置いてきちゃった・・・。

美味しいケーキならゲオーグにも食べさせてあげたかったな。」


「シュペアくんは優しいね〜

帰りに買っていく?」

「うん。持って帰れるかな?買っていきたい。」


「いいよ〜

マスター、チョコレートケーキとカモミールのお茶2つ。」

「かしこまりました。」


チョコレートケーキとカモミールのお茶はすぐに出てきた。



「ミラン、こんな可愛い子どこから攫ってきたんだ?」

「攫ってないよ〜、こう見えてシュペアくんは俺の部下なの。」


「え?こんな子供に研究者させてるのか?」

「違うんだな〜、シュペアくんは魔術の腕も凄いし、俺としては研究者にしたいけど、ウィルの大切な子だから無理なの〜

騎士団の魔術部隊でウィルの直属だから、俺の部下でもあるってこと。」



「へぇ、君は凄いんだな。その歳で騎士団に入るとは、優秀なんだな。」

「そんなことないと思う。僕はまだ弱いし。」


「俺なんか魔術は食材を切るか水を出すくらいしかできないしな。」

「そんなことできるんだ?凄い。」


「凄くないよ。家からも国からも逃げたし。」

「そうなの?僕も・・・村を、親を、捨てたの。」


「そっか。今は楽しい?」

「うん。楽しい。みんな優しくていい人ばかり。」


「そっか。じゃあ捨ててよかったね。俺もね、家も国も捨てたけど、今は幸せだよ。

逃げずにそこにいたら、今の幸せは無かった。そう考えるとゾッとするよ。」

「そっか。うん。僕もそう思う。」


「逃げたとか、捨てたとか言うと、悪いことみたいに思うけど、新しい場所に旅立ったんだと思えば凄いことみたいじゃない?

誰にでもできることじゃないし。」

「そっか。そうだよね。マスターありがとう。僕は今、修行の旅をしてるんだけど、王都に戻ってきたらまたお店に来てもいい?」


「いいよ。俺も相棒と一緒に旅をしてたんだ。旅の話も色々聞かせてね。」

「うん。」


マスターはとってもいい人だった。

そっか。僕だけじゃないんだ。マスターは逃げたけど幸せになったって言ってた。

逃げたんじゃなくて、捨てたんじゃなくて、新しい場所に旅立ったんだ。凄い。そんな考え方もあるんだ。

僕も今は幸せだし、捨てたことは悪いことじゃなかったんだ。


ずっと放置してたミランを見たら、ニコニコしながらケーキを食べてた。

もしかして、ミランは僕が悩んでるのを知っててこのお店に連れてきてくれたのかもしれない。


「ミランもありがとう。」

「ん?ケーキ美味しいから食べてみなよ〜

食べないなら俺がもらっちゃうよ〜?」


違うかも。ミランはケーキが食べたかっただけなのかも。



ルシカとゲオーグにお土産のチョコレートケーキを買って、お店を出た。


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