48. ジムナーシアの領主
街の入り口には、豪華な服を着た人や、小さな荷車を引いた人が何人か待っていた。
「ルシカ、ゲオーグ、あの人たちはなんだろうね?」
「貴族か?まずいかもしれない。シュペア、念のため認識阻害の結界張っておけ。」
「分かった。」
僕は認識阻害の結界を張ったまま門の前まで歩いた。
「あれ?シュペア君がいない。ルシカさん、ゲオーグさん、シュペア君を知りませんか?」
「知っているが、貴族に取り込まれるようなことがあっては困るから明かせない。」
「そうですか。あの金髪の男性がジムナーシアの領主をしている伯爵で、シュペア君の話をしたら会ってみたいと言っているのですが。」
「シュペアはエトワーレの騎士団魔術部隊に所属していて、フェルゼン侯爵の部下に当たる人物だ。取り込もうと画策すればエトワーレを敵に回すことになる。
それでもいいか伯爵に聞いてくれ。」
「そ、そうでしたか。なるほどウィルさんの部下だったのですね。」
「あぁ、部隊長にも団長にも気に入られている。シュペアに手を出すようなことがあれば何が起きるか分からない。」
「聞いてみます。」
「ルシカ、大丈夫かな?」
「大丈夫だ。怪しければ、このまま身体強化を使ってラジリエンまで一気に走るぞ。」
「分かった。」
「フェルゼン侯爵は友人なので、その部下を取り込むことなどないそうです。会っていただけますか?」
「もし怪しい動きがあれば、すぐに戦闘体制に入ってもいいか?」
「構いません。私たちは伯爵の指示であっても、あなた方を取り込むことに協力する気はありません。私たちもウィルさんにはお世話になったんです。」
「そうか。だとよ。」
「分かった。お話しするだけなら・・・。」
僕は認識阻害の結界を解除して姿を現した。
「そのようなことまで・・・。
なるほど。さすがウィルさんの部下ですね。そうか、だから戦術の組み立てもできるのか。納得だ。」
「おぉ、あなたがフェルゼン侯爵様の部下の方と、そのお仲間の方ですか。
お初にお目にかかります。ウムト・ジムナーシアと申します。」
「僕はシュペアです。」
「ルシカです。」
「ゲオーグです。伯爵様、私たちは敬語に慣れていないのだが、大丈夫だろうか?」
「えぇ、問題ありませんよ。まぁ貴族の中にはうるさい人もいますが。私は気にしません。
邸にお招きしたいのですが、まだ不安ですか?
いや、本当にフェルゼン侯爵を敵に回すようなことはしませんし、そんな馬鹿は私の部下にもおりませんので安心してもらえれば。」
「僕はいいよ。お話しするだけなら。」
「シュペアがいいなら俺らは反対しない。」
「そうだな。」
「では馬車へどうぞ。」
僕たちは伯爵の豪華な馬車に乗ってお邸に向かった。
「どうぞ。気楽にしてくれて構わないよ。3人とも座って。」
「はい。」
僕たちは領主様の王都のお邸にあったみたいなソファーに座るよう言われた。
僕を挟んで左右にルシカとゲオーグが座っている。
伯爵はいい人だった。
ロック鳥を倒した話やオークの群を倒した話をして、領主様の結婚お披露目会の話もした。
「いや〜羨ましい。私もお披露目会に行きたかった。残念で仕方ない。
しかしいずれは奥様に挨拶に伺わなければ。」
伯爵は領主様のお友達だと隊長さんが言ってたけど本当に仲良しみたいだった。
クンストにも行ったことがあるし、セモリナのパスタ工場も見学したことがあるって言ってた。
それに、オークナイトが斬撃を飛ばすことも、斬撃が剣の延長線上に来ることも、領主様から教えてもらったんだって言ってた。
やっぱり領主様は凄いな。
僕も頑張らなければならないと思った。
執事のおじさんが伯爵に何か耳打ちをすると、伯爵は溜め息をついた。
「どうしたの?」
「冒険者ギルドのギルドマスターが、またしてもシュペア君たちを取り込もうとしているらしい。治安部隊は侯爵様に鍛えてもらったり、魔獣との戦い方を教えてもらったが、ここの冒険者は今はCランク以下しかいないからね・・・。
君たちをなんとか取り込みたいらしい。」
「またしてもと言うのは?」
「以前、あろうことか侯爵様を取り込もうとしたこともあったし、モスケルにも冷たくあしらわれて、4年前にも名前は忘れたが元騎士と思われる男を取り込もうとして会うことも拒否されて逃げられていたな。」
「モスケルって、クンストの領主様の像を作った人?」
「あぁそうだよ。知っているのかい?」
「クンストで会ったことがあるよ。」
「そうか。彼はクンストに行く前はこの街にいたんだ。しかし冒険者ギルドが侯爵様に失礼を働いてね、嫌になったんだと思うよ。その数ヶ月後に引っ越してしまった。
その当時はこの街にもBランク冒険者が何人かいたんだけどね、モスケルがいなくなってから他に移ってしまった。」
「そうなんだ・・・。」
「心配しなくても冒険者ギルドには私がきっちり抗議しておくよ。私の領地の者が侯爵様の身内に不敬を働くようなことは許さない。」
「身内・・・もしかして伯爵様は侯爵様とシュペアの関係を知っているのですか?」
「え?侯爵様の部下だろう?他にあるのかな?」
「僕は将来、フェルゼン侯爵様の側近になるんです。でもまだ弱いし勉強も足りないから、旅をして鍛えて、たくさんのことを学んでるの。」
「なるほど。だから騎士団に所属させて保護をした上で自由に行動させていているのか。さすが侯爵様だ。
シュペア君、君と話ができて良かったよ。将来また会うことになるだろう。その時はよろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「そうだ、ロック鳥を倒してみんなを守ってくれて、オーク討伐では戦術の組み立てもしてくれたと聞いている。報酬を出さないとな。」
伯爵は、冒険者ギルドの討伐報酬もギルドまで使いを出して取りに行ってくれて、それにプラスしてロック鳥討伐とオーク討伐の報酬も上乗せしてくれた。
その時に、僕が倒したオークの数も教えてくれた。
ハイオーク2体と、ノーマルのオーク14体で、そのうちの11体は最初の魔術で倒した分だった。
誰かが数えててくれたのかな?
僕は伯爵のお邸を出る前に、隊長さんに声に魔力を纏わせて遠くにいる相手に届ける方法を教えてあげた。
ちょっと遅いお昼ご飯を食べるために歩いていると、お肉の焼けるいい匂いがした。
「美味しそう。」
「あれにするか?」
「いいね。」
薄いパンに、焼いていたお肉と野菜をたくさん乗せてソースをかけてくれた。
「ちょっと辛くて美味しいね。」
「あぁ、これは美味いな。」
「美味いな。」
ベンチに3人で並んで座って食べると、風が吹いて落ち葉が舞った。
もう秋なんだね。
天気のいい空は綺麗な青色で、僕たちの旅を歓迎してくれているみたいだった。
そして僕たちは翌朝ジムナーシアを出発した。
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