21. 領主様へ村を出たことを報告
今日は2話あります。
「どうぞ。心配ならシュペアを真ん中にして2人で左右に座ってもらってもいいし。
まぁ適当に座ってくれ。」
「分かった。」
領主様は、ポットにお花を入れて、水と火の魔術を混ぜ合わせてお湯を出して入れていた。
「凄い!水と火の魔術を一緒に使えるの?2つの魔術を混ぜられるの?」
「お?シュペア、見ただけでよく分かったな。シュペアも練習したらできるようになるかもしれないよ。」
「うん。僕、練習してみる。」
「どうぞ。これは領地の特産品として売り出している、花のお茶だ。
カモミールといって、リンゴのような甘い香りがするんだ。」
「ありがとう。」
「ところで、あんたはシュペアの何なんだ?どういう知り合いだ?」
「あぁ、すまん。変装の魔術を解除するのを忘れていたよ。」
領主様は変装を解除して、僕が知ってる領主様になった。前よりもっと格好良くなってた。
「私は、ここフェルゼン侯爵領の領主。ウィルバート・フェルゼンだ。」
「領主様・・・。すいません。」
「すいませんでした。」
ルシカとゲオーグが頭を下げた。
そっか、領主様の名前はウィルバート・フェルゼンって言うんだ。知らなかった。
「いや、謝る必要はない。
畏まる必要もない。楽にしてくれていいから。言葉もいつも通りで。」
「いや、そういうわけには・・・。」
「私は領主でもあるが、冒険者でもある。畏まられるのは苦手なんだ。」
「そうですか。」
「それよりシュペア、何があった?
1人で来たわけじゃないと分かって安心はしたけど、まだ10歳かそれくらいだろ?
パーティーと言っていたから冒険者なんだろうと想像はできるが。
私に話すことはできるか?」
「うん・・・。」
「シュペア、辛くなったら俺の手を握れ。俺は仲間だからな。」
「あぁそうだ。俺の手も握れ。俺らがついてる。大丈夫だからな。」
ルシカとゲオーグは、僕の手を握ってくれた。3人でベッドをくっつけて、手を繋いで寝た時みたいだと思った。
僕は2人の大きな手を握って、話した。
山で助けてもらった日、村に帰って領主様と会ったこと、魔術を使えたことを話したら、信じてくれなくて、村のみんなと仲良くなれなくなったこと。
槍を投げて鹿を狩った日、それも信じてもらえなくて、怒鳴られて父ちゃんに殴られて村を出たこと。
それから、街で冒険者ギルドに登録して依頼を受けて、2人と出会ってパーティーを組んだこと。
領主様の結婚とお披露目会を知って、会いに来たこと。
2人が手を握っててくれたから、心強かった。泣きそうにはなったけど、泣かなかった。
要らないって言われたことは、怖くて、また話せなかった。
「そうか。そんなことがあったのか・・・。」
「うん・・・。」
「うーん・・・確かに初めて会った時も、自分が食べたいものを言っただけなのに、随分みんなに責められたみたいで、フォローした記憶がある。
もしかして、戻った時に腕に怪我をしていたのは、誰かに何かされたのか?」
「何で知ってるの?でもあれは暴力を振るわれたわけじゃなくて、村のおじさんに押されて、僕が転んじゃっただけだから・・・。」
「シュペア、それは押されたんじゃなくて突き飛ばされたんじゃないのか?
それに、子供がいなくなったのに、あの村から報告も捜索依頼も来ていない。
うーん、ちょっと探りを入れてみるか。」
そっか。僕がいなくなっても、誰も気づいていないのかな。
それは僕が要らないから?でも、それなら僕もあんな村、要らない。
「それがシュペアを悲しませることになるとしたら俺は反対したい。」
「そうだね。シュペアはどうしたい?
いつか村に戻りたいとか、お父さんやお母さんに会いたいとか、どうしてるか気になるとか考えることはある?」
「僕は・・・
僕は、村を捨てたんだ。
僕が冒険者になったことも、魔獣を倒したことも、きっと誰も信じてくれない。嘘なんてついてないのに、嘘つきって言われて殴られるのは嫌だ。」
「そうだね。」
「だから僕は、村には戻らない。戻りたくない。ルシカとゲオーグと一緒に旅をして強くなるって決めてるから。
いつか、領主様との約束も守るよ。」
「シュペアは心が強いな。仲間がいるからかな?」
「うん。僕には仲間がいる。」
「そうか。いい仲間を見つけたんだな。」
「うん。2人とも、いつもすごく優しくて、色々教えてくれるし、強くて、僕のこと信じてくれる。こんなにいい仲間はいないよ。
僕は、2人みたいな大人になりたい。」
「シュペア・・・。」
「ゥ・・・」
「ふふふ、ゲオーグだったかな?これ使って。」
領主様が黒いハンカチをゲオーグに差し出した。
不思議に思ってゲオーグを見てみると、なぜか泣いてた。
「ゲオーグ、どうしたの?どこか痛い?」
「シュペアがうでじぃごというがら(嬉しいこと言うから)・・・」
ゲオーグはしばらく泣いてた。
なんか大きな子供みたいで可愛い。
髭生えてるけど。
「あの村のことは、私が個人的に気になるからちょっと探ってみるけど、君たちに報告はしない。
もし聞きたいと思った時には、冒険者ギルドに伝言を残してくれれば教えよう。」
「冒険者ギルドに伝言?」
「私も冒険者だからね。冒険者ギルドに登録している者同士しか使えないが、ギルドが伝言を預かってくれるんだ。
手紙より早いし便利だよ。」
「冒険者ギルドってそんなこともしてくれるんだね。凄い。」
「そうだ、私は登録名がウィルだから、クンストのウィルで通じると思う。」
「分かった。」
「そういえばシュペア、あの絵が気に入ってたよね。あの絵は、クンストの東の森を描いたものなんだ。とても綺麗な場所だから行ってみるといいよ。」
「僕、行ってみたい。」
「トレントや木の魔獣がいたりはしないですよね?ゴーストとか・・・。」
「いないよ。クンスト周辺は魔物がほとんどいないからね。
安全だけど、冒険者にとっては少し退屈かもしれないね。」
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