17. 初めての護衛と村2/2
「ゲオーグ、シュペア、ちょっといいか?」
「うん?」
「シュペア、何かあったか?」
「・・・何でもない。」
「言いたくないってことか。言いたくなったら言えよ。俺たちは仲間なんだから。」
「分かった。」
もうあとは街に入って宿に泊まるだけだから、大丈夫だと思う。
それに、昔のことだ。
もう、過去は忘れよう。
ホーンラビットは、あのあと捌いて、毛皮と角と肉に分けて、それ以外は穴に埋めた。
そして、肉も角も毛皮も、商人のおじさんが買ってくれた。
宿は3人部屋で、3人で同じ部屋に泊まるのは初めてでワクワクした。
夕飯は、商人のおじさんがご馳走してくれた。
また初めて食べる物だった。
ツルツルした長い紐みたいなのを、フォークにぐるぐるして、トマトのソースをつけて食べた。
「美味しい。これ、美味しいね。
商人のおじさん、美味しいご飯ありがとう。」
「いやぁ、そうやって感謝されると嬉しいものだね。」
商人のおじさんはニコニコしながらそう言った。護衛するのが怖い人じゃなくて良かった。
明日も朝から護衛だから、早めに寝ることにした。
「シュペア、シュペア、」
「シュペア、大丈夫か?」
誰かが呼ぶ声がする。
僕はルシカとゲオーグに起こされた。
「まだ夜?」
「シュペア、大丈夫か?この氷、お前だよな?」
辺りを見ると、僕が寝ているベットの周りとか、窓枠とか、床に氷がたくさん張り付いてとても寒い。
魔力霧散。
慌てて僕は魔力霧散を使った。
僕が出した魔術なら、すぐに霧散するはず。
すぐに氷は消えた。やっぱり僕の魔術だったみたい。
「シュペア、大丈夫か?」
「うん。ごめんなさい。」
「謝る必要はないが、俺たちはシュペアが心配なんだ。」
「寝入ってから少しして、ずっと魘されてた。それで部屋が寒くなってきて凍りつき始めて、起こしてしまったんだけど・・・。」
「うん。話す。仲間、だもんね。」
「あぁ。もちろん。」
「あぁ。そうだ仲間だ。」
「うん。御者さんの隣に座ってた時、見たことある景色が見えて、僕が魔術とか槍の練習をしてた山が見えて、僕が生まれた村が見えた。
チラッと横目で見たら、知ってるおじさんやおばさんが見えて、僕が住んでた家が見えた。
それで、嫌なこと思い出して、苦しくなった。」
「そうか。」
「そうだったのか。嫌なことって何があったんだ?」
僕は仲間だって言ってくれたルシカとゲオーグの言葉を信じて、話すことにした。
最初に領主様と会った時に、お肉が食べたいって言って村のみんなに責められたこと。
でも領主様はロック鳥を狩って帰ってきて、私は強いから大丈夫、謝らなくていいって抱っこして頭を撫でてくれたこと、いつか強くなって領主様を守るって約束したこと。
次は早く走りたいって念じたら身体強化がかかって、山奥まで行ってしまって、レッドボアに襲われそうになったところを領主様が助けてくれたこと、そこで魔術を教えてもらって水が出たこと。
でも村の人に言っても誰も信じてくれなかったこと。
それ以来、村の人と仲良くなれなくなって村にいたくなくて、山で1人で訓練を続けたこと。
腕に魔力を溜めて槍を放ったら鹿を倒したこと。
1人で運べないから村に戻って大人に運ぶのを手伝って欲しいって言ったら、誰も信じてくれなくて、最後には迷惑をかけるなって父ちゃんに殴られたこと。
それで槍だけ持って街に向かったこと。
少しずつ、整理しながら、一生懸命話した。
途中から、また苦しくなってきて、涙がたくさん流れたけど、ちゃんと最後まで話せたと思う。
「そんなことがあったのか・・・。
安心しろ。俺たちは何があってもシュペアを信じる。」
「あぁそうだ。俺たちは仲間だからな。シュペアを信じるよ。」
「うん。ありがとう。」
ルシカとゲオーグは、交互に僕を抱きしめて頭を撫でてくれた。
ルシカの手もゲオーグの手も、領主様とは違う手だったけど、その手は大きくて、優しくて、温かかった。
そして僕たちは、ベッドをピッタリとくっつけて、僕が真ん中で、左右にルシカとゲオーグがいて、3人で手を繋いで寝た。
ルシカとゲオーグは優しい。いつも2人は優しい。何でこんなに優しいのか不思議に思うくらい優しい。
いっぱい話して、少しスッキリしたら、僕はすぐに寝てしまった。
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