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173. ルシカの恋(ルシカ視点)


俺は数日後の週末、またあの店に来ていた。


「あら、この前のお兄さん、今日は1人なのね。」

「あぁ、まぁな。ダメか?」


「ダメなわけないよー、また来てくれて嬉しい。」

「そうか。」


客みんなに同じ態度だとしても笑顔を向けてくれるのは嬉しいな。


「どうぞー」

「焼きソーセージのセットで。」

「すぐ用意するねー」

「うん。」



「メルちゃーん」

「はーい!」


彼女の名前はメルちゃんっていうのか。


「お待たせしましたー!」

「ありがとう。君の名前はメルっていうの?いや、さっきそう呼ばれていた気がして。」


「私の名前はメルクーアだから、略してメル。みんなにメルって呼ばれてるよ。あなたは?」

「俺はルシカ・フ、いやルシカだ。」


家名があるということは貴族か大きな商会くらいだ。

俺は名ばかりの貴族だしな。

本当に俺は貴族なのか?今でも疑わしい気持ちがある。

それに、彼女に貴族だと距離を置かれるのも悲しい。



「ルシカさんまた来てね〜」

「あぁ。また来るよ。」


中隊長は12月に入って少しすると、休みに入ったようだ。

子供か。あの2人の子供ならどっちに似ても可愛いんだろうな。




その後も、俺は彼女の笑顔を見たくなって、週末は店に通った。

いや、この店のヴルストが美味いせいだ。

そうに違いない。


「ルシカさん、いらっしゃい。」

「今日もヴルストのセットで。」


「ルシカさんは冒険者なの?」

「うん、まぁ。そうだけど、何で?」


「ルシカさんはいつも週末しか来ないでしょ?冬は魔獣が出ないと聞くから、何でかなって思って。」


俺に興味を持ってくれたのか?

いや、気まぐれかもな。


「平日は仕事があるからな。」

「そうなんだー、冒険者以外にも仕事があるから週末だけなのね。」


「まぁそうだな。俺に会えなくて寂しかった?」

「・・・。」


軽い冗談で言ったのに、彼女は無言になってしまった。



「ごめん。冗談だ。君を困らせるつもりはなかったんだ。申し訳ない。」

「あ、えっと・・・いいの。」


たまに人を揶揄いたくなるこの癖、どうにかしたいな。

お詫びとか、した方がいいのかな。

前は普通に女の子とよく遊んでいたのに、いつの間にかどう接していいのか分からなくなってた。


「ごめんね。また来るよ。」

「あ・・・はい。お待ちしてます。」



ダメだ・・・苦しい。

彼女に笑顔で見送ってほしかった。

俺は、きっと彼女のことが好きなんだな。


変なことを言ってくる奴だと思われたんだろう。失敗したな。

ふぅ・・・


もう来ないでと言われるのが怖くて、翌週、今年最後の週末は店に行けなかった。



年始は城で大きな夜会が開かれることもあって、騎士団のほとんどが警備として各所に配備された。

俺は初めて騎士団らしい仕事をした気がする。



やっぱり彼女に会いたい。

年が明けて初めの週末、俺は店の前まで行ったけど、勇気が出なくて引き返そうと店に背を向け歩き出した。


「ルシカさん!」

「え?」


振り向くと彼女がいて、こちらに走ってくる。

エプロンとスカートの裾がヒラヒラと靡いて、彼女は今日も可愛かった。


「先週は来てくれなかったから。」

「あ、いや、仕事で・・・。」


「そっか。それなら仕方ないよね。そっか。私がこの前変な態度とったから、嫌われたのかと・・・。」

「そんなわけない。俺が、君を嫌うわけないよ。」


君が好きだと、喉から出かけたが、これ以上困らせて、本当に嫌がられたら辛すぎる。

グッと言葉を飲み込んで俺は彼女に笑顔を向けた。


「今日も、お仕事なんですか?」

「いや、休みだが。」


「お店に来ませんか?」

「いいのか?」


「もちろん!」


あぁ、やっと笑ってくれた。

俺はこの笑顔が見たかった。



「今日もヴルストセットあるかな?」

「ありますよ。」


「じゃあそれで。」

「はい。すぐ用意しますね。」


「お待たせしましたー!」

「ありがとう。」


「あの、ルシカさんのお仕事って・・・。

あ、ごめんなさい。言いたくなかったら言わなくていいんです。」

「騎士団に所属している。」


「そう、なんですか・・・。」


なぜだ?なぜか彼女はガッカリした様子で肩を落として去っていった。

冒険者な上、騎士団で、野蛮だと思われたんだろうか?それなら、冒険者だと明かした時点でガッカリされているはずだが。


騎士団にいい印象が無いんだろうか。

それはあり得る。

しかし・・・それだともう俺にはどうしようもない。


こんなことで嫌われるのか・・・。

どうせ嫌われるなら、好きだと言えばよかった。


もう、本当にこの店は今日が最後なんだな。

一口一口噛み締めながら食べたが、あんなに美味しかったヴルストは、全然味がしなかった。



そのまま彼女に会えないまま1ヶ月が経った。

年末に中隊長の子供が産まれたとシュペアから聞いた。

産まれて1ヶ月、健やかに育っていることから、数年前から恒例の中隊の荒野への遠征には中隊長も参加するんだとか。

中隊長がいるなら俺は行かなくてもいいだろう。


閲覧ありがとうございます。

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