172. 王都案内(ルシカ視点)
次の日は朝食を取ると王都へ向けて移動を開始した。
朝起きるとシュペアはケロッとしていて、俺らに話したことで何かスッキリしたようにも見える。
しかし、ゲオーグはなんだか恥ずかしそうにモジモジしている。
いや、筋肉質の大男がモジモジしてんの見るのは笑いを堪えるだけでキツいんだが・・・。
王都まで走ると、俺とゲオーグが週末に目の前まで来たけど入る勇気が無くて引き返したアプフェルというケーキ屋の前にきた。
シュペアがいれば何となく入れる気がする。
「これはまた、可愛い店だね〜」
「こんにちは。」
「あら、ゲオーグさん、お久しぶりね。今日はお友達をたくさん連れてきてくたのね。」
「あ、はい。席は空いているだろうか?」
「空いてるわよ。案内するわね。」
少し緊張した様子だったが、彼女が名前を覚えていてくれたのが嬉しかったのか、ゲオーグはモジモジが消えて嬉しそうな表情を浮かべた。
「どうぞ。今日のお勧めはリンゴのパイと、オレンジのケーキよ。」
「俺は両方食べたい。」
「僕も両方食べたい。」
「僕も〜ルシカとグレルもそれでいいよね〜?」
「あぁ。」
「ではその2種類のケーキを人数分と紅茶も人数分、お願いします。」
「すぐに用意するわね。」
ゲオーグ、もしかしてまだ自分でも気づいてないのか?こんなに明らかだと、凄く揶揄いたい気持ちが湧き上がってくるが、今は黙って見守ろう。
間も無くケーキと紅茶が運ばれてきた。
「今日のケーキも可愛い。凄い。」
「あぁ、凄いな。ここのケーキは素晴らしい。味ももちろん素晴らしいが、見た目も素晴らしい。」
「あら、ありがとう。」
「プククク
ゴツいゲオーグとグレルが可愛いケーキを目の前にして目を輝かせてるとか〜、絵にした〜い。
それがあればどんなに辛いことがあっても爆笑できそう。」
「ルヴォン・・・やめろ。プククク」
想像してしまったじゃないか、その絵を。
ヤバいヤバい、笑いが堪えきれず苦しい・・・。
「おい、ルシカとルヴォンの2人は要らんことを考えず早く食え。」
グレル、不機嫌な顔でそんなことを言っても、可愛いケーキを食べながらだと面白いだけだ。
「今日も美味しかったです。また来ます。」
「ありがとう。待ってるわね。」
意外といい感じか?
その後、武器屋を覗いたり、魔術が付与された道具を売っている店を見て回った。
買うには至らなかったが、温かい風が出るという箱は少し気になった。
昼か。昼飯は王都であまり食べたことがないんだよな。
初めて入る店に行くことになった。
「いらっしゃいませー!」
ドアを開けると、元気な女の子が明るい声と笑顔で迎えてくれた。
「5人ですか?あっちの席どうぞー」
店内の席は半分くらいが埋まっており、指さされた席に向かった。
「今日のお勧めは、ヴルスト、焼きソーセージのセットです。スープとパンと、じゃがいものサラダが付いてます。」
「みんなそれでいいか?」
「あぁ。」
「うん。」
「そのセット5つ頼む。」
「はーい!すぐご用意しますねー」
可愛い子だな。
ふわっとした明るいブラウンの髪を一つにまとめていて、目はクリッと大きく濃いブラウンで、思わず目で追っていると、彼女は客と客の間をクルクルと舞うように回りながら注文を取ったり料理を運んだりしていた。
クルクル回る度にエプロンとスカートの裾がヒラヒラと靡いて綺麗だと思った。
「へぇ〜」
「ん?何だ?」
「何でもないよ〜」
ルヴォンが意味深な目線を俺に送ってきたが、全く心当たりがない。何だ?
「お待たせしましたー!」
ソーセージにソースがかかったものと、横にはパンとサラダが盛られたプレートが届き、スープは野菜がたくさん入って温かいものだった。
「このお肉のやつ美味しいね。」
「あぁ、美味いな。」
美味いな。スープは冷えた体の芯から温まるし、ヴルストは肉汁が溢れて、夜ならエールと共に食べたいと思った。
俺は店を出る時に聞いてみた。
「この店は夜もやっているのか?」
「やってますよ。夜は酒場になりますが、夜だけのメニューもあります。」
「そうか。」
「突然押しかけたのにありがとね〜、また春になったらレーマンで共闘しようよ〜」
「それいいな。」
「そうだな。」
「うん。楽しみだね。」
「あぁ。」
「じゃあまたね〜」
「またねー」
そう言うとルヴォンとグレルは手を振りながら去っていった。
そうか。春になる頃には武器も出来上がって、俺らはまた旅に出るんだったな。
旅の前にレーマンへ行くのはいい。
シュペアの村は通らないように行こう。
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