170. クンスト&タッシェ案内2/2
「お、ゲオーグじゃないか。元気そうだな。」
あ、あれはモスケルだ。
「モスケルさん、お久しぶりです。クシュの街長の件では心配してくれてありがとう。」
「モスケル、久しぶり。心配してくれてありがとう。」
「無事とは聞いていたが、3人とも元気そうで安心した。」
「モスケルは今日はどうしたの?」
「あぁ、新作の展示に来たんだ。」
「新作!」
「ゲオーグ、ゆっくり見てってくれ。」
ゲオーグが目を輝かせている。
好きなものがあるっていいな。
「この人がAランク冒険者しながら芸術作品作ってる人〜?」
「うん。紹介するね。この人は入り口の像を作ったモスケル。こっちの2人はAランク冒険者のルヴォンとグレル。」
「僕はルヴォン。」
「グレルだ。」
「モスケルだ。まぁ冒険者は副業だな。」
「副業でAランクまでいけるなんて凄いね〜」
「俺がAランクになったのは、ここの領主のせいだ。まだ俺は実力的にはAランクに届いていないと思っている。」
「ん?どういうこと〜?」
「俺がまだBランクの頃に、ソロでオークナイトと戦わされたり、トロールやベヒモスとも1人で戦わされた。しっかり結界や身体強化で支援してくれてはいたが。」
「ベヒモス・・・」
「あぁ。ベヒモスなんかは途中で俺1人置き去りにされたしな。」
「それでよく生きていたな。ベヒモスなんかは一人で相手するような魔獣じゃないだろう。
それを聞いただけで十分Aランクだと思うが。」
「それでSランクのウィルは〜、モスケルを置き去りにしてどこに行ったの〜?」
「まぁ、ベヒモスの時は攻撃魔術で援護もしてくれたしな。
あいつは俺を置いてブラックサーペントを倒しに行っていた。それほど経たずに戻ってきたがが。」
「それが1人でブラックサーペントを倒したという逸話か。」
「どうやって1人で倒したの〜?」
「俺も倒すところは見ていないから分からないが、胴体には傷一つ付いていなかったから、頭に強力な攻撃魔術でもぶっ放したんじゃねぇか?」
「胴体は無傷!?
ヤバい、ヤバい。Sランクのウィルヤバすぎ〜、温厚そうな好青年に見えたのに・・・。」
「ん?ウィルに会ったのか。
それは合っている。ウィルは強いが温厚だし、優しいし、高位貴族なのに平民とも普通に話すしな。
共闘する時は、毎回今日こそ死ぬんじゃないかと思うような相手を探してくるが・・・。」
「うん。領主様は優しい。すごく優しい。」
「俺なんかは芸術家という面でもサポートしてもらっているしな。ここにいる芸術家連中はみんなウィルの恩恵を受けている。
格安で食事も風呂も付いた寮に住めるし、販売も代わりにやってくれて、作品の材料も格安で提供してくれる。」
「何それ〜
それは何で〜?儲かるとも思えないけど〜」
「趣味らしい。芸術家の保護が。マイナスになっても他で私が頑張ればいいとか言ってたしな。」
領主様は凄い。芸術家の保護もしてたんだ。
ここはそのための場所だったんだ。
「なんか〜Sランクのウィルに僕たち何も敵うところないんじゃない?」
「安心しろ、ウィルに敵うやつなんかそもそも存在しないからな。」
「え〜
酒が弱いとか〜。」
「ウィルは酒も強い。ウォッカを樽で頼んだと聞いたことがある。」
「マジか〜
じゃあ女癖が悪いとか、女の趣味が悪いとか〜」
「ウィルの嫁はウィルが天使か妖精だと言うほど可憐な人だ。俺らみたいな人間とも普通に話してくれる。
それにウィルは子供の頃から彼女一筋で、他の女には興味がない。」
「マジか〜
そんな男いる〜?本当に適うところないわ〜」
そうなんだ。領主様は子供の頃からリーゼ様と仲良しなんだ。
結婚、僕もいつかすることがあるんだろうか?
家族・・・
少し胸が痛んだ。
その後、僕たちは移動してパスタを食べに行った。
僕は見たよ。ゲオーグが嬉しそうに赤と黒のタイガー柄のウサギのペーパーウェイトを買ってるのを。
きっと部屋に飾るんだ。
僕も何か飾ろうかな。
何がいいだろう?好きな物か。
そういえばルシカは何が好きなんだろう?
「ここのパスタは美味しいね。」
僕はレモンの黄色いソースとお肉が乗ったパスタを頼んだ。
「これ、美味しいね〜
初めて食べたけど、紐みたいなのにソースが絡んで美味しい〜」
「美味いな。」
「これはフェルゼン領のセモリナってところで作ってるんだよ。そこでしか作ってない。工場もあって、領の特産品なんだよ。」
これはこの前タルツ先輩に教えてもらったことだ。
「へぇ〜そうなんだ〜」
「Sランクのウィルはそんなこともしているのか。」
お昼ご飯を食べると、僕たちはタッシェに向かった。
重力操作が付与されて、中身の重さを感じない鞄を、前に2人が欲しいって言ってたから。
「えぇー?
この店、全部そうなの〜?」
「うん。売ってるところだけじゃなくて加工してるところとか、作ってるところもあるから、全部のところで売ってるわけじゃないけど。」
「え〜グレルどれにする〜?多すぎて迷う〜決められない〜」
「好きな色とか形のものを作ってもらうこともできるよ。」
「それがいい!どうせ冬はエトワーレにいるんだし〜、いいよね?」
「あぁ、俺もそうしよう。」
ルヴォンとグレルは鞄を注文してた。
僕は初めて買った今の鞄が気に入ってるから、まだ変えないけど、背が伸びて小さくなったり、壊れたらここに買いに来よう。
「前にシュペアが買ってきてくれたチョコレートケーキの店に行きたい。」
「いいじゃん行こうよ〜」
ファルトのお店にも行って、みんなでケーキを食べた。
「美味しいね。」
「あぁ、美味しいな。」
ふふふ、ゲオーグ幸せそう。
ケーキを食べてお茶を飲んで一息つくと、僕たちはクンストに戻って、酒場で夕飯を食べて宿に泊まった。
久しぶりの宿だ。
3人一緒の部屋で寝るのも久しぶりだ。
「シュペア、領主様の補佐の仕事はどうなんだ?」
「楽しいよ。知らないこと覚えるのは大変だけど、みんな優しく教えてくれるの。」
「よかったな。」
「エトワーレにいる間はずっとやるのか?」
「うん。来月から3ヶ月くらい領主様はお休みするから。その間はお手伝いする。」
「え?中隊長は休むのか?」
「うん。もうすぐ赤ちゃんが産まれるから、家族と一緒に過ごして育児をするんだって。」
「へ〜そんな休みの取り方もあるのか。」
「中隊長は奥方様のことを本当に愛してるんだな。」
「愛・・・。」
「シュペア、どうした?」
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