146. その頃エトワーレでは(リーゼ視点)
今日は2話投稿
時は10日ほど遡る
<リーゼ、もうすぐ帰るからね。あと少し待っていてくれ。早く会いたい。>
え?ウィル様はどこから声を飛ばしてきたのでしょう?
邸に遊びに来てくれたゼルトザーム伯爵夫人であるマリー様と一緒にお茶を飲んでいると、ウィル様から声が届いた。
「あら、旦那様からのご帰宅の連絡。ふふふ、邪魔しちゃ悪いから私はそろそろ失礼致しますわ。」
「マリー様、またいつでもお越しくださいね。」
「ええ。」
マリー様はさっと支度をすると、従者と一緒に帰って行った。
ウィル様と婚約してからは、こんなに長い間離れていたことはなかった。
やはり他国に行かれるので、少し心配していたけれど、元気そうな声に安心した。
私はゆっくり立ち上がると、ウィル様を迎えるために玄関へ向かった。
ヒィーン
あら?フロイさんの声かしら?
もう近そうね。
外から蹄の音が聞こえる。
蹄の音が止まり、駆けてくる靴音が聞こえると、玄関のドアが勢いよく開いてキラキラ輝く笑顔のウィル様がいた。
「リーゼ、ただいま。会いたかった。」
ウィル様は私を優しく抱きしめて、そしていつまでも離してくれない。
「あの、ウィル様・・・。」
「もう少しこのままでいさせて。」
「はい。」
「旦那様、いったいあの木は何なんです?
あんなものを邸の庭に置かれて、どうなさるおつもりですか?」
木・・・?
ウィル様は木を持ち帰られたのかしら?
何か珍しい鉢植えなどでしょうか?
「セバ、今私はリーゼと再会の喜びを噛み締めていたんだ。少しは待てないのか?」
「旦那様があのような物を持ち込むからです。」
「はぁ、仕方ない。あれは騎士団で使うためにラジリエンから持ってきたんだ。別に邸の景観を損ねるつもりはない。
リーゼ、騎士団に置いてくるから少し待っていてくれるかい?」
「はい。」
騎士団へお出掛けになるウィル様をお見送りするために、玄関を出ると、庭には直径50センチ以上もあるような大木が2本、根っこは無かったけれど、枝や生い茂る葉はそのままの状態で横たえられていた。
え?これをラジリエンから運んできたの?
どうやって?
何に使うのかも分からないし、何のためにわざわざ遠い国から木を運んできたのかも分からない。
私は考え込んでしまって、門を出ていくウィル様に行ってらっしゃいも告げられなかった。