131. 絡まれたフロイと王城の部屋(ウィル視点)
ヒィーン<ウィル変な人が絡んでくる。助けて。>
「私の馬に誰かがちょっかいをかけているようだ。心配だから見に行きたい。」
「なんだと!?」
「その黒馬にちょっかいをかけるのはやめろ。どうなっても知らんぞ。」
私はフロイの辺りにいる人たちに向けて声を届けた。
「フォルチ隊長、どういうことだ?」
「申し訳ない。侯爵様、すぐにご案内します。」
私たちが走って向かうと、騎士団の者と思われる人物が、嫌がるフロイを厩舎から引っ張り出そうとしており、周りをオロオロした騎士が囲んでいた。
ブブブブ<お前なんか乗せない>
「トント隊長!何をしている!」
「新しく入った馬だろ?良さそうな馬だから俺が乗ってやる。」
「やめろ!それはこちらの侯爵様の馬だ!騎士団のものではない!」
とフォルチ隊長が叫んだ瞬間、フロイの鬣が一瞬光り、トント隊長と呼ばれた男が倒れた。
あ〜だから言ったのにな。
「すまん。フロイがこの人に何かしたようだ。軽い雷だろう。すぐ起きると思うが・・・。」
「侯爵様、申し訳ございません。
お前ら、なぜトント隊長を止めなかった!」
「「「申し訳ございません。」」」
「トント隊長だったか?そいつを叩き起こしてくれるか?」
そう国王陛下が言うと、騎士たちによってトント隊長は文字通り叩き起こされた。
陛下も付いてきていたのか・・・。
「トント隊長、その馬はこちらにいるエトワーレ王国の侯爵殿の馬だ。
周りの騎士の話を聞かずその馬にちょっかいを出したということは、エトワーレ王国に喧嘩を売ってラジリエンを滅ぼしたいということか?」
「いえ・・・。」
「しばらく謹慎せよ。団長には報告しておく。普段からそのように横柄な態度を取っているようなら、隊長の役も考え直す必要があるか。
他国に喧嘩を売るような者を隊長にしておくわけにはいかないからな。」
「フロイ、人に攻撃をしてはダメだろう?」
ブブブブ<だってその人しつこいんだもん>
「そうか。まぁ、過ぎたことは仕方ない。今回は相手に怪我も無かったしな。
結界は張っておくが、変な人に絡まれたら攻撃はせず、すぐに呼ぶんだぞ。私がなんとかしてやるから。」
ブルルル<分かった>
「よし、いい子だ。」
私はフロイの首筋を撫でてやった。
「侯爵様、あなたの馬とは知らず、申し訳ございません。」
「あぁ、こちらこそ、私の馬が攻撃をして悪かったな。大丈夫か?」
「はい。」
「私の馬は特別な馬なんだ。私が結界を張っているしこの馬は強いから、馬に何かあることはないが、馬を怒らせると怪我をするかもしれないから気をつけてくれ。」
「はい・・・申し訳ございませんでした。」
「彼も反省しているし、フロイにも彼にも怪我はなかった。どうか穏便に済ませてやってほしい。」
「よろしいのですか?」
「えぇ。よろしくお願いします。」
「君らも彼を見習え。」
「「「はい!」」」
そんな見習うようなところは無かったと思うんだが・・・。
その後、先ほどの部屋に戻ると、イスパーダの執事が待っていて、部屋に案内された。
そう言えば、中隊長室には何度も泊まったことがあるが、王城に泊まったことはないな。
初めて泊まるのが他国とか、人生は何があるかわからないものだ。
きっとルシカとゲオーグも困っているだろう。見に行くか。
コンコン
「ウィルバートだ。」
「はい、どうぞ。」
中に入ると、シュペアをソファーに寝かせ、ルシカとゲオーグは部屋の隅に突っ立っていた。
「2人ともどうした?」
「いえ、あの・・・城に、本当に泊まるんですか?俺らはその辺の宿でいいんだが・・・」
「だな。こんな豪華な部屋は落ち着かない。」
「王都の私の邸にも泊まったことがあるだろう。イスパーダの邸にも泊まったんじゃないのか?」
「中隊長の邸に泊まった時は夜だったし寝るだけだったから。イスパーダ様の邸はもう少し木目で控えめだった。こんなに金色の部屋は落ち着かない。どこに居ればいいか分からない。」
「この床の絨毯もどこを歩いたらいいのか分からない。」
なるほど、それでそんな端に突っ立っていたのか。
「ふふふ、大丈夫だ。この絨毯はどこを踏んでもいい。せっかく貸してくれたんだから堂々とソファーに座って寛げばいいんだ。
シュペアもソファーでなくベッドに寝かせてやるといい。私が紅茶を淹れてやろう。」
2人はふぅーと息を吐いて、覚悟を決めたのかようやくソファーに座った。
ソファーの横を見ると、複数の棒が並べてあった。
「この大量の棒は何だ?」
「あぁ、それはシュペアが作ったトレントの棒だ。」
「シュペアは武器をいくつ作る気なんだ?こんなに作るのか?」
「1本、削るのを失敗して燃やしてしまったから、失敗した時のために確保しておきたいようだ。」
「あぁ。それと、丈夫だから模擬戦にも使ったり、短いのはショートソード代わりに護衛の時に使ったりもした。」
「これを持って旅をするのは大変だろう・・・。しかしトレントの棒を模擬戦に使うか。それはいいアイディアだな。
棒を作るのは風魔術の練習にもなる。私も帰りにトレントを1〜2体狩って帰ろう。」
「え?」
「持ち帰れるんですか?馬ですよね?」
「風で浮かせて引いていけば大丈夫だろう。」
「風で浮かせて引く?ゲオーグ、理解できたか?」
「いや、全く。想像もできない。」
「ミランの馬車と同じ原理だ。」
「なるほど・・・?」
3人でお茶を飲みながら、旅の道中の話を聞いた。
なかなか有意義な旅をしているようで良かった。何度か危ない目には遭ったようだが、彼らはそこにもしっかり対処して上手く乗り越えている。
この2人を勝手に騎士団に入れた団長の気持ちも分からなくはないな。
仲間と旅をするか・・・
少し羨ましいと思った。
夕方になると、イスパーダと執事が食事を持ってきて、部屋で一緒に食べたいと言ったので食べたが、ラジリエンの料理はなかなかスパイシーで美味しかった。
夜になってもシュペアは起きなかったので、本当に何日か眠るのかもしれない。
翌朝着替えてシュペアたちの部屋に向かうと、シュペアはまだ起きないようだった。
「あぁ、そうか。騎士団の制服と冒険者の服しか無いのか。式典用の制服は動きにくいからな。
しかし冒険者の格好で城の中を歩くのも良くない。街に服を買いに行くか。
私もシュペアが起きるまでは滞在しなければならないしな。」
ラジリエンは暑い国だからな。しかも今は夏だ。ジャケットなどは着る必要はなさそうだが、どれほどラフな格好まで許されるのか許容範囲が分からない。
イスパーダを連れて行くわけにはいかないから、アセロ隊長が暇なら付き合ってもらうか。
「アセロ隊長、街に服を買いに行きたいんだが、時間があれば付き合ってもらえないだろうか?
空いている他の騎士でも構わない。」
<分かりました。すぐに部屋に向かいますのでお待ちください。>
「シュペアはどうするかな?」
「この国を信用していないわけじゃないが、シュペアを1人にするわけにはいかない。俺が背負っていこう。」
「そうだな。ゲオーグ、頼んだ。」
シュペアの分も買わなければならないしな。
「あぁそうだ。服の金は私が出すから心配要らない。」
「いや、俺らも一応稼いでるから大丈夫だ。」
「私の方がもっと稼いでいるから、ここは上司に甘えておけ。稼いだ金は武器や防具、ポーションを買ったり珍しい料理を食べたり、旅で有効的に使うといい。」
「分かった。」
「ありがとうございます。」
「冒険者ギルドにも寄りたいな。昨日は行けなかったから、無事到着したことを伝えておきたい。」
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