116. その頃のウィル(ウィル視点)
ふぅ、もうそろそろ合流できそうな気がするんだけどな。
この街ではないようだ。
「今日は次の街までだな。フロイ、行けるか?」
ブルルル<行けるよ。じゃあスピード上げていくね。>
「あぁ、フロイは頼もしいな。」
フフン
そうだ今日は先にギルドに寄って伝言を確認して、今いる場所も確認しよう。タイミングが合えば明日の朝には場所が分かるかもしれない。
次の街に着くと、ギルドの前にフロイを繋いで、中に入った。
「頼む!!」
ギルドの受付では男性2人が何やら受付と揉めているようで、大声で何か懇願してるように見えた。
私は受付の列に並ぶと、先ほど受付で騒いでいた男性が受付を離れて深呼吸をしているのを見た。
ん?見たことある顔?私はその者たちに近づいて声をかけた。
「おい、ルシカ、ゲオーグ、2人だけか?」
2人は驚いた顔をして、そして2人揃って泣き出した。
どうも様子がおかしい。
「シュペアが、シュペアが・・・・」
「シュペアがどうした?何かあったのか?」
「毒で、起きない。助けてくれ。」
「分かった。場所は?すぐ行こう。身体強化をかけて走るぞ。」
私はギルドを出ると、フロイにちょっとそこで待てと告げ、ルシカとゲオーグを連れて走った。
「どこだ?」
「あっち。」
「しっかりしろ。2人がしっかりしないでどうする。」
2人を鼓舞しながら走っていく。
「あれか?」
物々しい雰囲気の護衛騎士がずらっと並んでいる建物があった。
そこで間違いないとは思いつつ、念のため聞くと、泣きながら2人は首を縦に何度も振った。
「エトワーレ王国騎士団のウィルバート・フェルゼンだ。部下であるシュペアの緊急事態で通してもらう。」
そう騎士に告げると返答も待たずに駆け抜け、ルシカとゲオーグを連れて部屋へ向かった。
「緊急事態のため失礼する!」
私は告げると部屋に入り、ソファーに寝かされたシュペアを見つけた。
私は駆け寄りすぐに異物排除と状態異常回復をかけると、シュペアを抱き起こし、シュペアの魔力に干渉し、私の魔力を流しながら細かく異常な部分を正常へ戻していく。
口の周辺に異常が集まっている。何か毒の入ったものを食べたんだな。
口の中に手を突っ込むと黄色い何かの欠片が出てきた。水で口の中を洗い、少し水を飲ませて、指を突っ込み吐かせる。
「苦しいな。もう少しの我慢だ。」
抱き上げたまま回復と癒しの魔術をかけて様子を見ていると、真っ青な顔にだんだん血の気が戻っていく。
ふぅ・・・間に合ったようだ。
治癒魔術が使えない私でも使える、相手の魔力に干渉して治癒に似た効果を引き出す方法。ミランに教えてもらっていて良かった。
先ほどまで、今にも止まりそうだった弱々しい呼吸も鼓動もだんだん正常に戻ってきた。
「よしよし、よく頑張ったな。もう大丈夫だからな。」
私はシュペアを抱き抱えながら背中をさすり続けた。
もう大丈夫だと思うが、念のため朝まで様子を見ておこう。
「シュペアを抱えたままですまない。
私は彼の上司、エトワーレ王国騎士団のウィルバート・フェルゼンと申します。突然押しかけてすまない。」
「あ、あぁ、俺はイスパーダ・ラジリエンだ。もしかして、あなたはSランクのウィルか?」
「お初にお目にかかります。イスパーダ様。冒険者としてはSランクのウィルですが、よくご存知で。」
「そうか・・・。家名があるということは貴族、なのか?」
「えぇ、一応。エトワーレ王国では侯爵位を賜わっております。」
「それでシュペアは・・・。」
「大丈夫ですよ。朝まで私が様子を見ておきますが、呼吸も安定していますし顔色も戻っています。
私は詳細を存じ上げておりませんので何があったのか伺ってもよろしいですか?」
「あぁ。何から話せばいい?」
「彼らがイスパーダ様の護衛を受けることになった経緯も教えていただけると助かります。」
「そうだな。すまない。全て俺のわがままだ。
私はペッケーノという小さな街で冒険者ギルドマスターをしていたんだが、タイガーをとても綺麗な状態で彼らが討伐してきたから興味が湧いて話を聞いた。
それで俺がシュペアを気に入って彼らを食事に誘った。
そこで襲撃を受けて助けてもらって、店を出る時にまた襲撃を受けた。
その時にも守ってくれて、邸まで守ってもらいながら一緒に走った。
この国で近頃よく使われる暗殺方法があって、毒針を使ったものなんだが、それは護衛が囲んでいてもそこをすり抜けてくるんだ。
それをシュペアは防いでくれた。それで、護衛を依頼した。
俺は彼らが断れないことを知っていて、依頼した。
今回は街長から差し入れとしてフルーツをもらって、シュペアはフルーツが好きだと言っていたから一緒に食べようと誘ったんだ。それを食べて倒れた。」
「申し訳ございません。私が皮を剥いて切り分けたのですが、私が先に毒味をしてから渡せばこんなことには・・・。」
「反省することは必要だと思うが、過ぎたことだ。シュペアが無事ならいいんだ。
ルシカ、ゲオーグ、お前らももう大丈夫だから。混乱しているんだな。癒しの魔術をかけてやるからこっちに来い。」
ルシカとゲオーグがこちらに寄ってきたので、私は癒しの魔術をかけた。
「お前らもよくやった。ギルドに来てくれたから私はシュペアを助けることができた。お前らの判断は正しかった。よくやったな。」
癒しの魔術をかけて一度は止まったのに、再び涙を流し始めた2人を私はシュペアごと抱きしめた。
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