100. 伝令魔獣と結界
魔術演習場に戻ると、領主様からの伝言の紙の束を取り出して、伝令魔獣についてしっかり読んだ。
あの鳥はやっぱり魔獣って名前がついてるけど魔力でできてて、魔力を多く込めて飛ばすと遠くまで飛ばすことができるみたい。
声に魔力を纏わせる方法だと、そんなに遠いところには届けられないけど、伝令魔獣なら、例えば王都の騎士団本部から、クンストの領主邸にいる人にも届けることができるんだって。
凄い。
僕は何度も伝令魔獣の説明を読むと、いつも勉強に使う紙の束を何枚か取り出して、簡単な手紙を書いた。
ルシカには、いつも僕を守ってくれてありがとうって書いた。
ゲオーグには、またケーキ食べに行きたいねって書いた。
あと、イスパーダにも届けてみよう。
お仕事があるから部屋に戻ってるって言ってたから、お仕事頑張ってねって書いた。
伝令魔獣を魔力で作り上げると、真っ白な手のひらサイズの鳥で尻尾が長くてそこだけ水色の鳥ができた。可愛い。
その鳥の足に、畳んだ手紙を結びつけると、窓からルシカに向かって飛ばした。
もう一羽出して、手紙を結びつけて、今度はゲオーグに。
最後にもう一羽出して、イスパーダに飛ばした。
ちゃんと届いたかな?
どれくらいで届くんだろう?
速く飛べる鳥とかも作れるのかな?
あ、届けたみんなは伝令魔獣が出せないから、僕が確認しに行かなきゃいけないんだ。
そっか。一方通行か・・・。
でも、初めて手紙を書いたからドキドキした。
そろそろ届いてるか見に行ってみようかな?
ルシカとゲオーグは隣だからすぐ確認できるし。
そう思って入り口に向かっていたら、ドアが勢いよく開いてイスパーダが入ってきた。
「シュペアー!」
僕の名前を呼びながらイスパーダは走ってきて、僕を抱き上げた。
「え?」
「なんか綺麗な鳥が俺のところに手紙を届けにきたんだけど。
足に結んであった手紙を解いて読んだら鳥は消えた。あの鳥は手紙を運んでくれるの?凄いね〜
シュペアから手紙もらって嬉しかったよ〜」
「うん。ちゃんと届いてよかった。練習してたの。」
「そっか。シュペアは偉いな〜。何か困ってることはないか?」
「うーん、試しておきたい魔術がいくつかあるんだけど、試せないからちょっと不安。
練習なしでいきなりやって失敗するのは怖いし。」
「どんな魔術なんだ?」
「結界の応用で、範囲結界と、攻撃付きの結界。あと、異物排除と状態異常回復かな。」
「結界は試せるんじゃないか?」
「範囲結界を張っても、ちゃんと張れてるのか確認ができない。
攻撃付きのは、誰かに攻撃してもらって跳ね返せるかとか、結界に触れた時に吹っ飛ばすとかなんだけど、危ないから誰にも頼めないし。」
「大丈夫だ。とりあえず範囲結界をやろう。」
「じゃあ下ろしてくれる?」
「仕方ないな〜」
イスパーダは僕を床に下ろしてくれた。
トレントの棒で、結界を張る範囲を宿の一部屋くらいの大きさに四角く描いた。
僕がその中に入ると、イスパーダも入ってきた。
僕はそのまま結界を張ってみた。縦横の幅だけじゃなくて大体の高さも設定しなきゃいけないんだ・・・。
屋根とかあれば高さの目安にしやすいけど、ここは天井が高いから難しいな。
「できたと思う。」
「俺には見えないから分からないな。
おーい誰か俺に向かってウォーターボールでも放ってみてくれ。」
マージアさんが慌てて走ってくる。
「イスパーダ様!」
ドーン、バターン
「あ・・・。」
マージアさんが見えない透明の壁にぶつかって倒れた。結界だけど。
僕は慌てて結界を解除した。
「マージアさん大丈夫?」
「え、えぇ、何が起きたのか・・・。見えない壁があったように感じました。」
「範囲結界成功だね。」
「うん。でもどれくらいの攻撃に耐えられるか強度を確認したい。」
「範囲結界?」
「そこにシュペアが描いた線があるだろ?その形の範囲に結界を張ったんだ。」
「そんなことができるんですか!?」
「君が体験したから1番よく分かっていると思うんだけどね。」
「はい。確かに壁のような何かに阻まれた感じはありました。」
ん?僕が中に居なくてもできるのかな?
そういえば、ルヴォンたちとハーピーの討伐に行った時、自分を含まずに他に結界がかけられるか確認しようと思ってたんだ。
紙にも書いてたのに、あの後色々あって忘れてた。
やってみよう。イスパーダにターゲット設定して防御結界をかけてみた。
あ、できる。
そうだよね。これ前にもやってた。
その時は自分にも結界をかけてたけど、対象だけに結界をかけることもできるんだ。
これなら結界の練習できそう。
何か結界をかけるのに丁度いいものないかな?
あ、的。壊しちゃったらいけないからな・・・。
どうしようかな。
「イスパーダ、捨てるような壊れてもいい的か、捨てるような椅子か何かある?」
「的ならそこにあるじゃないか。」
「あれはみんなが練習に使うやつで壊したらダメだから、もう壊れてるやつとかがいいんだけど。」
「シュペアさん、それなら、軸が折れて捨てようと思っていた的がありますよ。」
「それ借りていい?」
「構いませんが、軸が折れているので強度はありませんよ。」
「うん。大丈夫。」
マージアさんは走って取りに行ってくれた。
「マージアさん、ありがとう。」
僕は的の折れた軸の部分を氷の魔術で固めると、的に結界をかけた。
身体強化をかけて、トレントの棒で思いっきり叩いてみる。
カン、カン
物理攻撃はこれなら大丈夫かな。
少し離れて氷の矢を5つ放ってみた。
キン、キン、カン、カン、カン
魔力を少し増やして氷の槍を放ってみた。
パリン
うーん、ちょっと強めの魔術で攻撃されると無理なのか。
僕はさっきより魔力を増やして結界をかけて、もう一度さっきと同じ槍を放ってみた。
ガキンッ
なるほど。これくらい魔力を込めれば、ほとんどの魔術も防げそうだ。