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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強姫様が騎士団長を守る話

作者: 焼失図書館

「ケヒヒヒヒ!王国最強の騎士といえどその程度か!」


「ぐっ……!不覚!」


宮殿にまで攻め入られ何人もの敵兵と戦い消耗していた私は、敵の四天王の一角"蛇男"に攻撃を受けた。

普段の私なら負けるような相手ではないが、消耗しているのに加えて負ける理由がもう一つある。


「さあ、姫の居場所を吐けぇ!奴の心臓を手に入れ、俺が魔王様に最も近い存在となるゥ!」


そう、その姫様が私の負ける理由だ。姫様の家系は神の祝福を受けた心臓を持つ奇跡の一族。その心臓を手に入れ食らった者は強大な力を手に入れる。魔王軍は過去何度も王族の心臓を狙って侵攻を仕掛けてきているのだ。

姫様から悪党どもを遠ざけるのが我ら王立騎士団第一軍の使命である。


「私の命に代えてでも…一歩たりと、貴様をこの先には行かせん!」


「ケヒッ!なら死ね!!」


おそらく私はここで負けるだろう。

最後に…こいつだけは倒しておかねば。最後の敵が"蛇男"とは、戦士としてこれ以上の名誉はないだろう。

私は力を振り絞り剣を構える。

きっと蛇男は私に倒され、戦いを終え私はその場で崩れ落ちるのだ。それこそが私の望み。


「行くぞッ!私の騎士として最後の晴れ舞台だッ!」


「騎士団長!待って!」


後ろから聞こえてきたのは聞き覚えのある声。お仕えしてから何度も聞いた美しい声だ。


「ひ、姫様!?なぜここに……」


「他の団員から聞き出しましたわ!ここで貴方が単身"蛇男"と戦っていると!わたくしに無断でボロボロになるなんて、許しませんわ!」


まずい。蛇男は姫様相手に手加減するような奴ではない。無惨に殺され、心臓を抉り取られるだろう。

私の騎士としての人生の終わりを失敗させるわけにはいかない。


「姫様……お下がり、ください。私はこの戦いで騎士としての人生を終わらせたいのです」


「なりません!貴方は、貴方はいつまでもわたくしのそばにいるのです!わたくしを一生支えていただくのですから!」


「ですが……」


姫様には下がっていただかなくては。このままでは私の退職後のプランがめちゃくちゃになる。


「先日私にも見合いの話がありまして…この戦いで武勲を挙げて退職し、田舎で母の手伝いでもしようかと思っております。そのためにこうして倒せば懸賞金も出る四天王と単身戦っているわけでして……」


「は、はぁ!?見合い!?何言ってますのこの下僕は!貴方に見合いなんて……はっ!貴方みたいな脳筋野郎に女性が靡くわけないじゃないですの!冗談も大概にしなさい!」


私もいつまでも騎士を続けられるわけではない。何度か退職を願い出ているのだが姫様はなぜかお認めにならない。私の後任はもうたくさん育っているのだが……

見合いの話を出せば諦めてくれると思ったのだがむしろ姫様は頑なになってしまった。なぜ?


「ウゥ…いつまでゴチャゴチャ言ってるゥ!!心臓を…寄越せぇ!!」


言い合っていると"蛇男"が姫様に飛びかかってきた。まずい、避けろ!


「わたくしはこの国の王女です!国民を、大事な人を傷つける者は許しませんわ!」


私の前に姫様が立ち塞がる。"蛇男"が姫様に拳を打ち込んだ。


「姫様ーッ!」


ゴトン。

姫様のドレスが破れ、鉛がドスンと地面に落ちた。その下から道着が姿を現す。


「ケ、ヒ……?」


次の瞬間には"蛇男"は吹き飛ばされ、廊下の壁にめり込んでいる。だから、避けろと言ったのに……


「わたくしの、ドレスを破りましたわね?乙女の服を破るなど言語道断。王国一子相伝の姫神拳で、貴方をあの世に送ってさしあげます」


あーあ。こうなったらもうダメだ。いい感じに怪我して退職金をもらって悠々自適に過ごすプランはパァだ。負けたっぽい空気にしてその責任を取る感じにすれば辞められると思ったのに。


「ケヒッ!?何言ってやがる!たかが小娘がぁ、俺に勝てると思うかぁ!」


"蛇男"が呪文を唱えると床から大蛇が何匹も飛び出し、姫様を拘束する。


「ぐっ……!」


「ケヒヒヒヒヒヒ!!こうなれば終わりだぁ!さぁお前たち、そいつを絞め殺せぇ!」


ギチギチと姫様の体が締め付けられていく。バキ、バキという音がした。……蛇の骨が折れた音だ。


「この程度ですの?」


「ケ………?」


「ふぅん!!!」


蛇の体が引きちぎられ力なく崩れ落ちる。"蛇男"は唖然として顔についた血を拭う姫様を見つめている。


「お、お前、なんなんだ!姫がこんなに強いなんて聞いてないぞ!」


「思い至りませんでしたの?わたくしの心臓に強大な力があるということは、本来の所有者であるわたくしが最強ということ!!

花嫁修行のためこの拘束具で力を封じ込めておりましたが、リミッター解除ですわ!」


ゴトンゴトンゴトンゴトン。ティアラやらネックレスやらが鈍い音を立てて転がっていく。この状態の姫様についていける者は国王陛下のみである。


「な、舐めるなァ!俺は四天王!蛇がいなくともお前に負けるはずがぁ!」


"蛇男"と殴り合いが始まる。姫様は攻撃をあえて受けている。おお、楽しそうだな……


「ふふっ、なかなかやりますわね。団長には敵いませんが、それなりに重いパンチですわ!ですが…わたくしには届かない」


"蛇男"の右腕をガッと掴んでひねる。そのまま片手で放り投げキックを打ち込む。


「ケヒィィィィィ!?」


さっきまでの余裕はどこへやら、完全に防戦一方になってしまった"蛇男"の表情からは焦りと恐怖が見てとれる。


「あら?もうやる気を失ってしまいましたの?でしたら…もう終わりですわ」


何度も"蛇男"に拳を打ち込む。彼は完全に戦意を喪失しサンドバックと化した。最後に強烈なアッパーを打ち込み、空中に"蛇男"の体が飛ぶ。


「姫神拳奥義ッ!"心通打"ァ!!!」


飛び上がった姫様は"蛇男"の胸めがけて全力の力をぶつける。打たれた肌が波打ったかと思えば血が噴き出し、そこから心臓が飛び出した。


「ぐぼわぁ!」


"蛇男"は床に倒れた。動かなくなった彼を見下しながらドクドクと脈動する心臓を姫様は天に掲げる。


「天、誅ッ!!」


グシャっとそれを握りつぶし、姫様は勝利を誇った。

これだから、姫様が暴走しないよう悪党どもを遠ざけておかねばならんのだ。





「大丈夫ですか?」


姫様が私に手をかざすと傷が輝き痛みが引いていく。

宮殿に侵入した敵は姫様1人が軒並み片付け、撤退に追い込んだ。


「あの……いつのまに回復魔法など……」


「言ってなかったかしら?これまで回復する必要がなかったから使わなかっただけで、気の流れを少し応用すれば楽勝で使えましてよ」


怪我を理由にした退職ももうダメだ。


「なぜ、姫様は私を辞めさせてくださらないのでしょうか」


ずっと気になっているのだが聞いていなかったことを聞いてみる。というか騎士団もういらないだろ。これほどまで強くなった姫様が暴走したら私達でも止められないよ。


「ははははは、はぁ!?ななな、何言ってるんですの!?一度わたくしに仕えた以上辞めることが許されると思って!?絶対辞めてはなりません!一生です!分かりましたか!?」


……本当になんで辞めさせてくれないんだろうなぁ。

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