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14話:王宮への召喚


僕は学院長とともに王宮に足を運んでいた。


王命で召喚されたのだが、僕は行ってもいいのかずっと不安だ。

学院長から聞いた話によると、僕がアーマット王立学院に襲来した第五層の魔人を討ったらしく、それの褒賞ということで呼ばれているようだけれど、身に覚えがない。


魔人と戦うというのがまったく想像つかない。しかも圧倒的な力量差だったという。


「ライト・ストラーグよ、おぬしの精霊は微精霊なぞではない。最上級精霊の類じゃ」


なんて言われたが、なんのことかさっぱりわからなかった。僕の精霊はフェイだ。フェイは最上級精霊ではない。

あるいはフェイが昇華して最上級にまで格が上がったのだろうか。そんなことが有り得るのかは不明だ。

でも学院長がそんな嘘をつくとは思えないし、そうなのだろう。腹落ちはしないけど。


王宮の長い廊下を歩き、身長の五倍はある荘厳な扉に行き着いた。


「暫し待たれよ」


扉の両横に立つ守衛が僕らを静止する。

扉の向こうから何かを読み上げる声が聞こえ、守衛が形式ばった動作で開扉する。

学院長は特に気負う様子もなく杖をつきながら赤く長い絨毯の上を進んでいく。学院長を追うように歩き始める。


赤い絨毯の先、段差を上がったところに雄々しい玉座とそこに座す国王陛下。横には宰相が書状を携えて立っている。

陛下の前までたどり着き、膝をつく。


「久しいなバルサート。息災か」

「老骨にはここまでの移動は堪えますわい」

「まだまだ現役だろうに、相変わらず喧しい爺だ」


学院長は陛下と軽口を叩きあっている。学院長ほどの契約者ともなれば、この場も珍しくはないのだろうか。


「陛下の御前であるぞ。程々にしろバルバロッサ公」

「相変わらず固いのうドイセン。それに、家督はとっくに譲っとるわい」


宰相閣下から注意が飛ばされるが、学院長は特に気にしていないようだ。陛下の小さな笑い声が聞こえる。


「さて、そろそろ聞かせてもらおうか」

「恐れながら陛下、全ての兵を下げていただきたい」

「そんなこと聞き届けられるわけがなかろう!」

「よかろう。下がれ。ああ、ネスだけはよい。こいつは直接見ていたからな。既に知っている」


陛下の脇に控えている騎士、近衛隊の誰かだろう。


陛下の号令で控えていた他の兵士たちは瞬時にどこかに消えた。


「面を上げよ、魔人を討ちし英雄よ。…………おぬしのことだ小僧」


僕?


言われた通り顔を上げたが、きっと間抜けな顔をしていただろう。


真正面から直視した陛下は偉丈夫だ。豊かな金髪の中に二房ほど赤が混じっている。金色の髭が威厳を増している。


「ほっほっほっ、陛下、意地悪しなさるな。こやつはその時の記憶がないのでな、代わりに儂が説明しますわい」

「そうか。ならば頼む」


学院長は髭を撫でながら話し始める。


「二日前の昼下がり、学院上空に突如魔人が現れましてな。結界も呆気なく割られ、恥ずかしながら内部に侵入されましたわ。その後は儂が応戦したものの手も足も出んかったわい」

「あのバルサートが手も足も出なかった、と。ネスから聞いた時は我が耳を疑ったが、そうか、それほどだったか」

「少なくとも第五層の魔人でした」

「五層だと!?」


宰相は元々の出目をさらにギョロギョロとさせ、学院長に疑義の目を向ける。


「はじめは三層程度の魔人かと思っとったが、やつめ、手を抜いておった。刹那だけ本気を出されたが、あれほどの強敵はまみえたことがない」

「ほう、それはそれは」

「陛下、控えてください」


宰相が陛下を諌める。陛下は好戦的というので有名だ。かの惨劇、ワルプルギスの夜を片付けたのは陛下と近衛隊だが、ほぼ陛下の力だったらしい。


「儂は流石に死んだと思いましたわい。こやつは明らかにその時死にかけとりましたしのう。何せ魔人の攻撃をモロに受けましたから」

「二日前にそれでこの状態だと?それがつまり、小僧の精霊の力ということか?」

「仰る通りでございます。あのオーラは忘れますまい。最上級精霊の存在感。まさかこの歳でもう一度見られるとは。とはいえこやつはその自覚がない上に肝心の精霊はさっぱり音沙汰ないので、いま見せろと言われても無理じゃろう」

「ネスの伝令と同じだな。よい、把握した。小僧、名は?」

「ライト・ストラーグでございます」

「ライト・ストラーグよ、此度の褒美に何を望む?第

五層の魔人を討ち滅ぼした英雄だ、爵位くらいならくれてやれるが?」


「でしたら一つ、望みがございます」

「言ってみろ」

「探し人がおります」


僕はミラの特徴をつぶさに伝えた。


「その探し人は小僧の何だ?」

「わかりません。ですが彼女にもう一度会いたいのです」

「そうか」


陛下は肘掛に肘を置き、瞑目して何かを考えているようだ。


「我はその人物を知っている」

「本当ですか!?」


陛下がミラを知っているということは、やはり彼女はかなり位の高い家の子だったのだろうか。


「うむ、そうさなあ、我が確認をするとしよう。追ってバルサートに伝令を送る」


僕は平伏し、謝意を伝える。

何もしていないのに陛下から褒美を貰うのは複雑な気持ちだが、それよりミラにまた会えるかもしれないと思うと期待で口が綻びそうだ。


「ああ、一つ、気がかりなことを魔人が言っておりました」

「なんだ?」

「陛下の命令、と。あの襲撃は魔人の意思だけではなく、魔人を従える何者かの指示の可能性が高い」

「第五層の魔人を従える?そもそも魔人を従えたのは伝説上の魔王くらいでは?」


宰相が学院長に突っかかる。もしかしてこの二人は仲がよろしくないのだろうか。


「いずれにせよ陛下、留意はしておいてください」

「戦乱の時代が近づいてきたか……」

「一国の主がそんな嬉々として言う言葉ではありますまい」


宰相は額を手で押さえながら項垂れた。


「バルサートよ、夜は空けておけ」

「御意に」

「バルサート、小僧、下がるがいい」

「両人の退場である」


宰相が通る声で言うと、扉が守衛によって開けられた。








ひたすらに長い廊下を歩きながら、学院長が緊張を解すように話しかけてくる。


「にしてもまさか、探し人とはのう。欲がない。そやつはコレかの?」


小指を立てて学院長が茶化してくる。


「まあ、そんなに遠くもないと思います」

「いいのう、若いというのは」


コツコツと杖の音が響く。


「爵位には興味がないのかね?」

「あんまりないです」

「そりゃあいい。爵位なんぞあっても肩が凝るだけじゃ」


学院長は学院長になる前は侯爵だったはずだが。


「いずれにせよ、まだおぬしはアーマット王立学院の生徒じゃ。儂や教員が守ってやるわい」


学院長は子供をあやすように僕の頭に手を置いた。学院長からすれば僕はまだまだ子供なんだろうけど。


「おぬしはこれからバルト・セントループから魔法の手ほどきを受けろ。キュリエラ・ソートからも一度言われたことがあるじゃろう」


たしかその人物は近衛隊の一員だったはずだ。


「通常のカリキュラムについては無視で構わん。おぬしに学院の授業では足りぬじゃろうて」


いや、でも僕は学院の授業について行くのでやっとですよ?とは言える雰囲気ではなかった。


「まずはその無自覚で強大な力を自覚するところから始めねばな」



▼▼▼▼▼



王宮に呼ばれた日から半月ほど経ったある日、僕は学院長室に呼ばれていた。


「おぬしが陛下に褒賞として願った探し人についての手紙が届いた」


学院長は机の上に置かれた一通の手紙を指さす。

既に封は切られており、学院長は中身を改めて取り出した。


「内容は簡潔じゃ。会わせられない、と」

「会わせられない?どういうことなんでしょうか」


見つからなかった、いない、ではなく会わせられない。


ひとまずミラが生きているという確認がとれてホッとする。


「はて。理由は書いておらぬな。ただ、時期がくれば会わせるとも書いてあるのう」

「いまは会えなくても、いずれは会えるということですか」

「おそらくそうじゃろう。あまりに情報が少なくて仔細はわからぬが」


手紙を封筒の中に戻し、僕に手渡してくれる。


「して、バルト・セントループの指導はどうじゃ?」

「順調だと思います」

「あやつはテキトーな男じゃから心配しとったが、存外向いてるのかもしれんの」


学院長はほっほと笑いながら髭を撫でている。

僕は師匠のことより、ミラに思いを馳せていた。


いつ会えるのだろうか。


会えるまでに、フェイの力を上手く使えるようになっていたらいいかもしれない。


闇の精霊の契約者だからという理由でいわれのない攻撃を受けることもあるかもしれないし、闇の精霊を排斥しようとする過激な集団も残念ながらおり、そういった輩からミラを守れるようになるかもしれない。


そう思うと、ますますフェイの力のコントロールに身が入る。


「して、話を聞いておるか?」

「すみません。何も聞いていませんでした」


隠しても仕方がないので正直に返した。幸い、雑談を振ってきていただけのようだったので怒られはしなかった。




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