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9話:別れと決意




 目を覚ますと目の前にミラの顔があった。

 目が合う。


「ライト君!大丈夫?どこか悪いところはない?」


 彼女の艶やかな髪が頬をくすぐる。

 後頭部には地面とは違う、肌のような弾力を感じる。


 何が何だかわからない。

 どうしてこうなっているのだろう。


「う、ん。特になんともないけど……」


 一旦そう答えながら、どうしてこんな状況になっているのか記憶を辿る。

 いつも通り街道を歩き、嫌な予感がして走り出し、そこで記憶が途切れていた。

 空は茜色になりつつある。

 僕は道の端に寝転がっている。


「よかった……本当によかった」


 ミラはそう言うと僕に抱きついてきた。

 まだ上手く頭が回らない。

 昔間違えてお酒を飲んだ時に襲われた酩酊感に似ている。


 ミラのおかげか、徐々に思考が鮮明になってきた。

 それでも記憶が途切れてから何があったのかはわからない。


「もうそろそろ帰らないとか」

「う、動けるの?」


 ミラの膝枕が若干名残惜しいが、僕は立ち上がる。


「全然大丈夫だよ。何かあった?」

「覚えていないの?」

「なんか途中から記憶がないんだ」

「……」


 ミラは少し考えると、


「うん、うん。そっか。それならいいの。ごめんね、変なとこ言って」

「いや、いいんだけど」

「本当に帰れそう?」

「どこも変なところないけど……ってあれ!?なんか服に穴が開いてる?」


 右腕と左足の布もなぜかなくなっている。


「…ライト君が寝てる間に小動物たちが遊んで齧ってたから……」

「それじゃあ仕方ないや」


 森の動物が布を使うのなら、きっと僕が着るより役に立つだろう。

 ミラは勢いよく立ち上がり、帰路につこうとしていた。


「ミラ!気をつけてね。今日は全然お話できなかったのが残念だけど。またね」

「うん。ライト君、さようなら」


 別れ際は気にかけていなかったが、歩きながらあることに気づく。

 ミラはいつも別れる時はまたね、と言うのだ。


 さようなら、と言われたことはなかった。


 けれど既にいつもより帰りが遅い。

 明日改めて聞こう。



▼▼▼▼▼



 ミラに膝枕をされていた、記憶が曖昧な日から奇妙なことがいくつかある。


 まず、体の調子がとてつもなくいい。

 毎朝同じ距離を走り込んでいるが、とういうわけかちっとも疲れない。

 体力が無限に湧き上がってくるようだ。


 あとはフェイが呼んでも出てこない。

 魔法も使えるのだが、呼びかけには応えてくれない。

 こんなことはいままでに一度もなかった。

 フェイは呼べばいつでも姿を現してくれていたのに。


 記憶が半日ほどないのと関係しているのだろうか。


 そして極めつけは、花の丘にミラが来ない。

 一日二日来ないくらいならそういう日もあるかもしれない。

 けれどもう一週間も来ていない。


 あと少しで僕は学院に戻らないといけない。

 そうしたらしばらく会えなくなってしまう。

 あんなよくわからないままお別れなんて寂しい。


 だから今日は花の丘ではなく、街道をそのまま先まで行ってみようかと思う。

 ミラを直接探すのだ。



▼▼▼▼▼



 道行く人に尋ねれば足取りが掴める。

 そう考えていた時期が僕にもあった。


 この道を使う人はほとんどいないのだから道行く人なんてそうそういるはずがないのだ。

 気づけば三時間ほど走って王族直轄領にまで来てしまった。

 道中どこか別の領地へ延びる道もなかったし、ミラは王族直轄領に居を構えているのだろうか。

 もしそうだとしたら、少なくとも公爵令嬢くらいではあることになる。

 そう思うと遠い存在すぎる。


 けれど他に行くあてもない。

 なるようになるさ、と誰かに会うまで闇雲に突き進むことにした。

 幸い、まったく疲れないので。






「長い黒髪の、これくらいの背丈の女の子を知らないですか?」


 僕の首元あたりを指し、門番の騎士に尋ねる。


「誰だこのガキンチョ」

「僕はライト・ストラーグ。ストラーグ男爵家の次男さ」

「こっ、これはこれは、男爵様のところのお子さんがどうしてここに?」

「さっき言ってた子を探してるんだ。たぶん直轄領のどこかに住んでると思うんだけど」

「そうでしたかい。しかし、そんな子は知らんですねえ」

「そっか。ありがとう。内側には入れてくれる?」

「お前さんが本当に貴族様ならな」


 僕は指先にトーチを灯す。

「疑って失礼しました。どうぞ、お通りください」

「たぶんすぐにここに戻ってくるけどね」





 直轄領の中に入れてもらい、何人かに尋ねたけれど、誰もそれらしい少女を知っているという人には出会えなかった。

 片道三時間かかるのでそろそろ切り上げないといけない。


 最後に、間近で見たことがなかったので、せっかくだから黄昏宮を見ておこうと思う。

 黄昏宮という名だが、全体的に乳白色だ。どこに黄昏の要素があるのかは不明だった。むしろこちらが白亜宮なんじゃないか?

 いまもここに王族の誰かが住んでいるという情報だけはあるけれど、誰が住んでいるのかは秘匿されている。

 宮殿の周りは壁に囲まれており、荘厳な門の前には屈曲な騎士たちが目を光らせている。


「うーん、帰るか」


 いつもなら多少時間がかかってもいつか見つかるだろうと思うところだが、生憎この近辺にいられるのはあと四日しかない。


 ミラとも会えなければ、フェイもどこにいるのかわからない。


 屋敷に戻れば父母も兄もいるのに、僕は孤独感を覚えていた。



▼▼▼▼▼



 外を何気なく眺めていると、見知った人物がいた。


 あの時の光景がフラッシュバックするが、あれが嘘だったかのように彼は生きて動いている。

 その事実に改めて胸を撫で下ろす。

 

 今すぐ彼に会いに行きたいが、それはできない。

 一緒にいれば彼をまた危険な目に遭わせてしまうかもしれない。

 ここから外に出なければ結局それが皆にとって安全なのだ。


「ライト君、ごめんなさい」


 彼の優しさに甘えすぎていた。

 この子の力を制御できるようになり、自分の身も、周りの人も守れるだけ強くなれれば、その時また彼に会いに行こう。

 いつまでも悲嘆してはいられない。


 前に進むと決めたのだ。

 闇の精霊の契約者が娘にいるというのが発覚するだけで醜聞となるはずだが、自分を娘として図らってくれている国王と王妃のためにも。

 自分たちのために、働き、税を納める民たちのためにも。


 そんな大義名分より、何よりライトに胸を張って再会するために。




 バンガード王国第三王女、ミライエ・ロ・バンガードは流麗な黒曜の瞳に決意の火を灯した。

 密かに応援するかのように、彼女の背後で影が揺らめいた。





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