0話:契約日
序盤は丁寧にストーリーが進んでいきます。
サブタイトル『覚醒』までは世界観や登場人物同士の掛け合い等を楽しんでいただければと思います。
幼い頃の記憶にもない記憶。
僕は領内を散歩していたはずが、気がつけば見たこともない場所にきていた。 もう日も落ちかけている。
早く帰らないと叱られると思い走り出そうとするが、どこをどう行けば帰れるのか検討がつかなかった。
逡巡していると、薮の奥から獣の唸り声が聞こえた。
反射的に背筋が震える。
唸り声は一つではない。二つ、三つ……いくつもあった。
がむしゃらに走り出す。けれど獣の足は人よりもうんと速い。
あっという間に追いつかれ、嬲られ、食われた。抵抗なんてできたものではない。
血まみれで、肉体の半分以上を食い破られながらも、虫の息でありつつ生きていた。
生きてはいたが、確実に絶命する。そうならないはずがないほどの惨状だった。
そんな状況なのに、僕は何も悲しんだりしていなかった。
自分でも恐ろしくなるほど、幸福を感じていた。
自分が不幸だなんて思ったことはない。
それでも死んでしまうのは両親に申し訳ないと思う。
『なんという魂の煌めきか。斯様な幼子がこれほどとは』
もう目も見えないし耳も聞こえないのに、頭に直接語りかけてくるような感じだった。
『この輝きが失われるのは忍びない』
その声が聞こえると、体が芯から温まる感覚があった。
気づけば目も見えるし耳も聞こえる、指も五本あって脚も二本ある。欠けているところがどこもなかった。
『そなたに託そう』
目の前には絵画で見る天使のような姿の何かがいた。顔はよくわからないが、大きな翼が生え、全身から白い光を放っている。
それの手が僕の頭に置かれ、白い光の塊が僕の中に流れ込んでくる。
『いずれまた相見えるだろう、煌めく幼子よ』
意識がぼんやりとしてきた。天使はまだ語りかけているが、もう何も理解できていない。
意識が段々と遠のき、記憶は奥底へと仕舞われた。
▼▼▼▼▼
朝起きると、肩のあたりによくわからない光があった。
僕が歩くとそれはついてきた。
「にい、これ何?」
「それは精霊だ。いつの間に契約したんだ?」
物知りな兄に聞くと、この白い光は精霊なのだという。
精霊との契約は通常であれば王宮の儀礼の間で交わすのだが、稀に僕のように外で精霊と契約する者もいるのだとか。
「そっか。きみは精霊なんだね」
尋ねると、僕の言葉に反応するようにボワッと明滅した。
「うーん、よし!きみの名前はフェイ!フェイにしよう!よろしくね、フェイ。僕はライト!」
フェイは応答するように、微かに光度を変えて光った。




