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前編



「…ねぇ、勇者強すぎない?」

「…左様ですね」

「残りダンジョンは…」

「3つです」


おかしい。50個ほどある城のダンジョンが、こうも短時間に破られてしまっていいのか。落とし穴から始まり、自分が魔法で生成した凶暴なモンスターを配置しているはずなのに…。


現・魔王セーレは、冷や汗が止まらない。漆黒の長い髪に、豊かな胸。初の女性魔王として謳われ、彼女の持つ美貌…赤い瞳に惑わされない男なんていないとさえ言われていた。


そんなセーレは今、自分と同じく青ざめた顔をしている腹心の部下に助けを乞う瞳を向けた。


「私…用事がある気がしてきた!ちょっと城の外へ…」

「ダメです!僕が死んじゃうじゃないですか!」

「このぉ!正直者め!」


メガネをかけた部下に慌てて止められる。城の下の階層…ダンジョンがある場所からは、今朝からずっと爆撃音が多数聞こえる。もちろん部下を見捨てて、逃げるなんてことは許されない。


魔王は勇者が現れたら、必ずその戦闘に乗らなければならない。たとえ、先代の父親からずっと平和主義な魔王として知られていても、だ。


ドゴーン、カキーン。


楽しくない音がどんどん、自分が座っている玉座の間まで迫ってきている。


なんで、どうして。


一回も国を滅ぼしたこともなければ、人を襲ったこともない。そんなセーレを倒そうとする勇者が現れてしまうなんて。


しかも、隣の大国の第一王子と言われている人がなぜ。


「どうしてこうなった…」

「僕もわかりません…セーレ様何か、心当たりないんですか?」

「えー…ない…はず…あっ!」

「何かあったんですね…」

「いやでもあれは、可愛いイタズラというか…親睦の証っていうか」


部下の見る目が、とても冷たい。幼い頃のヤンチャガールな一面を知っている部下だからこそ、余計に嗜めるような視線がくる。


セーレは玉座に座りながら、両手を組み、幼い頃の思い出へ思考を巡らせたーーー。


◆◇◆


魔族という、人間よりも魔法に長けてるだけの種族。それが、セーレの国に住まう者たちだ。人間とは共存する道を選び、交流が活発に行われている。


先代の父親は、人間との交流を好ましく思っていたため、セーレが人間の国へ行くのを自由にさせていた。


お城で父親の顔に落書きをしたり、他国で集めた虫コレクションを虫嫌いな母に自慢したり…。セーレの1日はとても刺激的だった。


魔王に課せられる勉学がないので、次期魔王のセーレはとてもヒマを持て余していたのだ。


そんなセーレはある日、「人間たちが住む大国の…自分と同じ王になるものがどんな存在なのか」気になり、潜入を試みた。


「うへぇ、書類がたくさん…」


浮遊魔法をちょいと使って、王子様と噂されているやつの部屋の窓を覗き見たら。本、本、本の大群。それに向き合って、王子様はペンを滑らせていた。


潜入はあっさり、うまくいった。


平和ボケした国と国の移動だからなのか。もちろん、城に入るとなると警備が厳しかったが、身なりがよかったセーレはどこかの貴族なのだと周囲が勘違いしてくれたのだ。


さすがに浮いていると悪目立ちするので、近くの大木に隠れながら覗き見た。


王子ザクス・リートリッヒ


同じ8歳とは思えぬほど、大人びた少年に思えた。金髪のサラサラとした短い髪に、透き通った空色の瞳。芸術品のように綺麗な顔だと、セーレは見ていた。


でもそんな芸術品鑑賞は3日で飽きた。ザクスはずーっとむすっとしていて、無愛想。「毎日がつまらない」と訴えているような、クールな彼の顔がどうにも耐えきれなくなった。


「あの王子様…笑ったことあるのかな?」


父親が放任主義のおかげで、色んなところを旅したり、話を聞く機会があったセーレは、喜怒哀楽を積極的に表現する。


自分とは異なる存在の王子様。ニヤリと口角が上がるのを止められない。セーレの悪い癖が発動した瞬間だった。


まず手始めに、王子に接触することに決めた。王子のスケジュールは、勉学勉学稽古勉学勉学…と書類にかまっている時間が多い。


その中でも身体を動かし、外に出てくる貴重な稽古の時間。実践で驚きを与えようと思ったのだ。


「さすが、ザクス様。王位継承権第一位に恥じない腕だよなぁ」

「俺、次…ザクス様と練習試合なんだが…」

「あー…ご愁傷様…」


ザクスよりも、年上の騎士見習いたちが話していた。どうやら、話している青年はこれから、騎士団長に直接稽古を受けているザクスと、練習試合があるらしい。


「負けたら、団長から接待じゃないなら、お前の剣はなまくらかって怒られるし…」

「そうだよなぁ、本気で挑んでも…魔法で応戦しても…勝てたためしがないもんなぁ…」

「俺やだよぉ…団長に怒られて…しかも家にもバレるから父様からも…」


平和ボケをしながらも、いついかなる時に戦争が起きるかわからないため、戦闘訓練のような稽古は重要な役割を担っているらしい。


「よければ、私が代わりましょうか?」

「えっ…!」


セーレは、まだ発育がなかった胸とショートカットな髪型のため、よく少年と間違われていた。セーレが声をかけた青年は、救世主にすがるかのように明るい声だ。


「本当に…いいのか?」

「ええ、もちろんです。本日の練習試合が絶対決まった取り決めでなければ…」

「大丈夫さっ!もともと俺が決まったのも誰も手をあげないからだったから…団長に言ってくるよ!」


ガタイがそこそこいい青年は、悲しみなんて全て消えてしまったかのように、満遍の笑み。「ありがとう…!きっと子爵か男爵のご子息かな…?このご恩は忘れない!」と、セーレの正体を勘違いしたまま、騎士団長の所へ向かっていった。


ザクスとの稽古が終わったらしい団長は、青年から話しかけられ、セーレの方を見た。大声で「そうか…!ザクス様と手合わせしたい方がいらっしゃったのか…!」と言っている。


嬉しそうな団長とは反対に、ザクスはこちらに視線すら向けない。なかなかの無愛想を今日も発揮している。


青年が団長との話を終え、セーレのところにやってきた。


「団長には話をつけておいたから、いつでも行っていいそうだよ」

「どうも、ありがとうございます」

「君は俺よりも、身体がかよわそうだけど…まあ交代してもらった今更聞くのもあれだが…」

「いえ、大丈夫ですよ」


青年はどこか申し訳なさそうにセーレを見てきたが、笑顔で応える。そして、まっすぐに騎士団長の元へ歩いて行った。


「君が、今回相手を申し出た…ええっと」

「セーレでございます」

「そうか!セーレ君と言うのだな!どうやら、わしの稽古場には見たことない顔だが…今日から参加されたようなのだな」

「まぁ…そんなところです」


人間の大国はとてもおおらかな勘違いが多い。セーレにとっては都合が良いが、少し心配にもなる。


「では、練習試合をはじめよう…セーレ君、いきなりだが、君の実力を見させてもらおう…ザクス様はお強いが、君が負けたらわしがちゃんと稽古をつけるからな!」

「ええ、ありがとうございます」


セーレが負ける前提で話す団長に、なんとも言えない感情が湧くが…セーレの身体つきから考えて客観的な判断なのだろう。団長に、練習試合と声をかけられたザクスも、セーレの正面へやってくる。


その瞳を見れば、セーレのことなど全く興味がない…虚な目だった。身長が同じくらいなためか、真正面にその瞳を受ける。


「ここに置いてある剣はどれを使ってもよい。魔法も自由だ。ただ相手の命を奪うことは禁止だ」

「はい」

「……ああ」


団長は、事前ルールを伝えると好きな剣を取ったら始めるぞと声をかけてきた。ぶっきらぼうに「ああ」といったザクスは、すぐに剣を選ぶ。セーレ自身、剣は我流になるため軽く扱いやすいものを選んだ。


騎士見習いたちが、セーレが選ぶ剣を見て、「あれは軽すぎじゃないか?」、「きっと瞬殺だろう…可哀想に」とこそこそ…だいぶ大きな噂話をしている。


(まぁ、魔法で鋭く固い素材に変化させよう)


剣の良し悪しがわからないのだから、これくらいは許されよう。団長もセーレが選んだ剣をみて、残念そうな顔を向けてきたが無視だ。


「さて両者、準備はよろしいかな?」

「……ああ」

「ええ、大丈夫ですよ」


「では…はじめっ」


ガキンーーーーーーー


セーレはすぐさま、剣を強くする魔法を詠唱した。その瞬間、目の前のザクスがあっという間に距離をつめる。


応戦の形で剣を構えれば、鋭く重い衝撃。


「……」

「…いやぁ、なかなか重いね!」


ザクスは相変わらず暗い瞳だが、その両目がすこし揺れた気がした。


(きっと魔法をかけなければ、この剣は砕け散っていたな)


それほどまでに、ザクスの剣の腕は確かだった。今までは、この一撃を受けて他の相手は吹っ飛んでいたのかもしれない。


団長…ひいては騎士見習いたちが「嘘だろ!?あの剣を受け止めるなんて」と騒然としていた。


鋭い切れ味の剣を、瞬時に交互にぶつけ合う。ザクスはこれまでの訓練成果で、セーレは虫取りなどの野生的な勘で。


(そろそろ、魔法でもしかけるか)


「氷よ、凍てつくせ」

「…っ!」


セーレとザクスの周りに冷気が漂った瞬間、地面が凍った。ザクスの足を凍らせようと放ったが、どうやらジャンプをして回避できたようだ。


「……炎、焼き払え」


着地する凍った地面を溶かす。炎の魔法をザクスは打った。一歩引いたザクスを見て、これ幸いとばかりにセーレは距離をつめる。


今度はこちらからしかける番だと、意気込むように。


(もっと驚かせないとね)


「風よ、炎と共に吹き荒れ、焼き焦がせ」


セーレは突風を吹かせ、ザクスの炎を風に乗せて追撃する。そのまま剣を向け、切り結ぶ。


「く…お前っ…」

「お前、だなんて名前じゃないなぁ!セーレですよ、ザクスさ、まっ」


ギロリと、怒りの色がザクスの瞳に走っていた。そこにつまんないと、冷めた目はなかった。ただ、こうも怒りの感情を向けられるとは思わなかったが。


(でも、感情があるほうが魅力的だな!この王子様は)


「水…溢れんばかりの水、すべてを押し流せ」


ザクスは追い詰められようとも、剣を切り結びながら魔法での応戦を決めてくる。お互い、年端も行かない幼い身だが、剣と魔法の実力は周りを凌駕していた。


炎の突風も大洪水と言わんばかりの水によって、かき消される。だが、水を発生させたザクスは知らないだろう、セーレが水を待っていたことに。


「風よ!水を押し返すほどの暴風よ!」


セーレが詠唱すれば、全てを薙ぎ倒さんばかりの風がその場に吹き荒れる。


「風と共に氷の調べを吹き荒そう。水は凍てつき、相手を閉じ込めよ!」


大洪水は、セーレからザクスの方へ押し流され、氷の壁となってザクスを閉じ込めようとする。


「くそっ…炎よ…!」


ザクスは火の魔法を使おうとするが、この大量の氷を溶かすほどの火は難しい。一気にザクスの方へ、剣を向けながら走る。


魔法と剣を交互にぶつけ合うのは至難のワザ。焦ればどちらかが疎かになってしまう。ザクスと剣を再び切り結んだ瞬間。


「ねぇ、王子様…カエルって知ってる?」

「なっ、は!?」


脈絡のないセーレの言葉に動揺が走るザクス。氷の壁の対処をやめ、ザクスが剣でセーレを仕留めようとしたその時だ。セーレの身体は瞬時に消えた。場所を入れ替える転移魔法だ。


「あー、見たことないんですね。それは残念。どうです?本物は」


ザクスは両目を溢れんばかりに開ききって、自身の剣先をみている。そこには、空を切った剣先にカエルがピョコンと乗っていた。


「ゲコ」

「なかなか、可愛い顔でしょう?」


セーレの剣先は、ザクスの後ろから伸ばされ、首前で止められていた。


氷の壁は、もう動いてなかった。ザクスを閉じ込めるまでもなく、その前に勝負がついたからだ。


「やめっ!勝者、セーレ君」


途中から話し声がなくなり、真剣に見守っていた周囲。団長の掛け声によって、その空間に音が戻ってきた。


「すっげぇ…!」

「あんな魔法の打ち合い見たことねえよ。どうなっているんだ…!」

「ザクス様が負けるなんて、はじめて見たよ俺」


セーレは剣をおさめ、前を向いているザクスの方へ足を向ける。この現状に頭が追いついていない…驚きの表情を浮かべるザクスがそこにいた。


ザクスも震えながら剣をおさめれば、カエルはどこかへピョコピョコと行ってしまった。


(この驚きの表情!これだよ、これ!)


やりきった感に包まれたセーレは、ザクスの表情ににんまり…ニヤリと笑顔を向けてしまった。それをザクスはしっかりと見て…。


「…セーレ君、練習試合をどうも」

「いえいえ」


彼の額にはしっかりと、8歳ながらも青筋が。不敵な笑顔を浮かべてはいるが、とても恐ろしい表情になったザクスがいた。


握手を求められ、手を差し伸ばせばなかなかの握りしめ…。ゴリっと握力が込められた。


「ほぁっ」

「これからもぜひ、私と剣を交えて欲しい…セーレ君」

「…なる…ほど?」


団長は、ザクスに友人ができたと喜んでいるようだ。「ザクス様っ!ようございましたね」とか言っているが、セーレは違うものが見えた。ザクスの後ろに、蛇のような動物がじっと逃がさんばかりの暗いオーラが見えたのだ。


(でも、どうせ魔王になるまでヒマだし…いっかぁ)


「ええ、これからもザクス様と手合わせできたら楽しそうですね」

「…楽しい…よほど余裕があるようだ、セーレ君は」


余計に瞳が鋭くなった気がするが、まあいいだろう。


(あっ!面白いこと思いついた!)


「不測の事態も考えて、ザクス様、私にイタズラをされませんか?」

「…は?」

「んん!?セーレ君!なんだね、それは」


団長が慌てたように、止めに入ってくる。たしかに唐突で意味不明だ。しかし、ずっと剣の試合だけするのなんて、セーレは飽きてしまう。


両親にそろそろ、セーレのイタズラに対してのギブアップ要請を受けたから、ザクスに標的を変えるだなんて…ソンナハズハナイ。


「もちろん勉学の時にはしません…ただ、日常生活の中で急に訪れるイタズラに対処できれば、ザクス様の更なる成長につながると思ったのです」

「そう…なるのかね…?」


もっともらしい、しかしとんでも論を真顔でセーレは言った。まあ、無理なら無理で違うことをするだけなのだが。そっとザクスを挑発するように、笑ってみれば。むっとしたザクスが、「ああ、構わない。イタズラをしてくれ」と言った。


「ザッ、ザクス様よろしいので…?」

「…ああ、かまわない」

「わぁ!私の提案を受けてくださり、ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね。ザクス君」

「………」

「セーレ君っ!?」

「…団長、かま、わ、ない…」


わざとらしく、ザクス様から「ザクス君」と呼んだ。そのおかげで、不敵な笑顔を向けながら、未だに握手をしていた手に大きな力を込められたのは…言うまでもない。


◆◇◆


この日から、セーレとザクスの「イタズラする側とされる側」の日常が始まる。


夜には魔王城に帰宅するが、日中はザクスのいる城に入り浸り、その日一日のイタズラをしかける。時間が合えば、稽古にも参加した。


ある日は、カエルをザクスの頭の上に乗せた。


どうやら休憩中で、中庭で休んでいるザクスを発見し、隙ありとばかりに転移魔法で頭の上にカエルを出現。


「………」

「いやぁ!カエルすらも身に纏って…とてもかっこいいですね!ザクス君」

「セーレ君…よくも…」


カエルがザクスの頭の上から飛び去った瞬間、ゴングが鳴った。走り出すセーレと追いかけるザクス。


「あはははは!いい面だね!ザクス君」

「よくも!よくも!許さん!」


城の中を走り回るセーレとザクスは、いろんな人に見かけられた。たまに、マナー講師から「走るものではありませんよ!」と注意を受けたりもしたが、そんな声に立ち止まる2人ではなかった。


またある日は、ザクスの口の中にクッキーを放り込んだ。


ザクスが勉学を終えた後、おそらく気を抜いて欠伸をした瞬間。セーレは勝手に忍び込んで入り、その欠伸が終わる前にクッキーを入れた。


「…んっ!?」

「やっぱり、糖分を補給しないとね」


もぐもぐと咀嚼するザクス。セーレの国で1番美味しいとされるクッキーはザクスの口にあったらしい。


「糖分補給」と不意打ちをかましながら、親切心を言葉で演出するが…。


「セーレェ…!」

「おっと、クッキーじゃなくてチョコの方が良かった?ごめんね」


そうして始まる追いかけっこ。普通は毒見などが必要なのかもしれないが、入れる前に自分で毒見してるから大丈夫だとセーレは勝手に納得している。


何年もイタズラを続けていると、呼び方が変わりいつのまにか、ザクスから「セーレ」と呼び捨てにされていた。普段はザクスと同じく呼び捨てで応酬を、繰り返し続けた。


しかしセーレ自身、誰か見ている時…人目がある時は敬称をつけ、その場をやり過ごしていた。


ザクスの予定は、勉学イタズラ勉学勉学イタズラ勉学稽古…のような新しいスケジュールに変わっていた。


もちろんザクスにとってイタズラは受ける側なのだが。


この2人のやりとりは、この国の成人になる18歳まで続けられていた。魔王城では、セーレの両親がイタズラがなくなったおかげで、穏やかな日々を過ごしていたのはまた別の話だ。


ただ、約10年間もイタズラを続ければ、ザクスもセーレの行動が読み解けるようになっていた。気づいたらイタズラの成功率は年々下がり、はじめ100%だったのが、いまでは20%になった。


「くぅ…悔しい…」

「ふっ…」


カエルを頭の上に乗せようとしても、見切っているのかすんなりと避けられてしまう時が多かったのだ。


また練習試合でも、ザクスは戦闘のセンスが元来から良かったらしく、研ぎ澄まされて強くなっていた。今では、お互い負けることはなく、ずっと引き分けで勝負を持ち越している。


また、セーレの身体にも変化があった。成人に近づくにつれて、胸の発育が良くなり…さらしでどうにかごまかさなければならなくなったのだ。これがなかなか慣れず、練習試合でうまく動けないことにもつながりそうで、冷や汗をかいていた。


セーレの心配をよそに月日はすぎ、どうにか無事、成人になった2人。大国では、本日、ザクスへ正式に王位を譲渡する式典が開かれた。セーレはその前の月に、正式に「魔王」を譲渡され、現・魔王になっている。


セーレの父親は、「そろそろ隠居して母と睦まじく暮らしたい」とのことでフランクに…式典もサクッと身内だけで執り行い終わらせた。


それに比べたら、ザクスに王位が渡るこの式典は豪華絢爛という言葉が似合うほど盛大だ。現・魔王のセーレの元にも、ザクスの式典の招待状が届いていたため、最後のイタズラをしかけにセーレは出向いた。


未だにザクスの城の中では、どこかの貴族の子息として勘違いされているセーレ。身分を明かしたらどうなるのか、今からわくわくが止まらない。


漆黒のドレスを身に纏いながら、外面は軍服姿へ。そして長い黒髪は帽子に仕舞い込み、あくまで貴族の子息…騎士になる貴族として出向いていった。


もうセーレの顔を覚えてしまった警備兵は、招待状など確認せず、顔パスで通してくれた。この国では、長年王子と稽古を共にした騎士見習いから王専属の騎士が生まれている。


おそらくこの警備兵たちも、セーレがザクスに騎士になる宣誓をしに来たのだと勘違いしていることもあり、すんなりと通すのだろう。それがいいのか悪いのか…まあセーレにとって都合がいいので気にしない。


現在の王と王妃が集まった招待客に声をかけ、第一王子のザクスを讃えた。それだけでも、会場のボルテージは高まりつつあった。


熱気に染まった会場で、軍服姿のセーレをみたザクスは、幼い頃よりも柔らかい笑みを向けてくる。


(うわぁ、この笑顔は犯罪だ…)


セーレの近くにいた女性たちは黄色い悲鳴をあげて、喜んでいる。それほどまでに、魅力的な笑顔なのだ。幼い頃の身体はメキメキと成長し、けして低くはないセーレよりも随分身長が高くなった。


可愛らしい王子様から精悍で華やかな王子様へと変貌していたのだ。



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