98 Rー1号も忘れるなw
サダヨシは真っ赤な顔のまま、鵜鷺先生に引っ張られていった。これで少しはあのツッコミが収まってくれればいいんだけど、やっぱ無理かな。
「おいっ、オキムネっ!」
ん? 何だ? エリス。
「鵜鷺先生ばっか見てるなっ! 一緒に来いっ! 着替えて帰るぞっ!」
いや別に鵜鷺先生の方は見てなくて、サダヨシ見てたんだけど。
「いいから来いっ!」
何故かプンスコ状態のエリス。ウェディングドレスのまま右腕を僕の左腕のところに突っ込んできてグイグイ引っ張る。
立ち位置的には合っているが、新婦が新郎をグイグイ引っ張るというのはあまりないと思う。
そして、母さん、こっち見て大爆笑しているし。
◇◇◇
先に犬咲店長が戻っていてくれたから、エリスの着替えの手伝いはお願いして、僕は一人で礼服から学生服に戻った。
と言っても、礼服の手入れの仕方なんか知らないから、なるたけシワが寄らないようにハンガーにかけるくらいしか出来ないけどね。
「はーい。新田くーん。大事な彼女をお返しするわんよー」
あ、犬咲店長が来た。隣にはエリス。おっ?
何だかブレザー姿のエリスが新鮮だ。思えば今日は夕方からセーラー服だったり、ウェディングドレス姿だったりしたから、逆にごく普通のブレザー姿にインパクトを感じる。
「オキムネ……」
な、何だ? エリス。
「あまりジロジロ見るな。恥ずかしいではないか」
何なんだよもう。鵜鷺先生ばかり見ていると言っちゃあ怒り、自分をジロジロ見るなと言っちゃあ怒り。
◇◇◇
「じゃあ明日も待っているからねわん」
笑顔で犬咲店長お見送り。これはもうこのバイト決まりかな。でも結局今日は仕事の内容とか何にも聞かないでコスプレだけしていたけどいいのかなあ。
まあ鵜鷺先生も犬咲店長は信用できる人と言っていたし、あんまり焦っても仕方ないしね。
◇◇◇
下総屋を出ると、母さん、満面の笑みで迎えてくれた。大人たちはみんな上機嫌だなあ。
「さあさ、二人ともリアシートに乗って、オキムネ。ちゃんと絵栗鼠ちゃんをエスコートしてやるんだよ」
母さんの軽自動車のリアシートに誘導するだけだから、エスコートと言うほどのもんでもないけど。僕は車のドアを開け、エリスに乗るよう促した。
するとエリス首を振り、
「オキムネ。反対側から入って、あたしの腕を引いて引っ張り上げてくれ」
言われたとおりにしてみると、
「うむ大儀である」
時代劇か。まあ、引っ張り上げるくらいいいけど。
さて、母さんの軽自動車のリアシートに二人とも座ったのはわけがあって、リアシートではテレビが見られるのだ。運転席と助手席は危険回避のためにナビゲーションシステムになっているんだけどね。
車が発進すると自動的に映像が流れる。
「TMR。テレビジョンミステリー調査班。おれは隊長のタヌキバヤシ」
出たー。この番組怪しいんだよなー。
「今日、おれたちは大浦船川競馬場で不思議な人物と邂逅した」
ふーん。
「その人物は大穴を含め、12レース全部を三連単で的中させたのだっ!」
ふむふむ。
「その人物はこれだっ!」
ぶっ、R-1号じゃないかっ!




