96 男にゃあ「意地」とか「沽券」というもんがあるんですぜw
だけどツッコミおじさんは頑張った。
老谷のじいちゃんが「第四問」「第五問」「第六問」と波状攻撃をかける中、「人間は『気合』で空を飛べるは『×』と言って、頑張った。
しかし! ついに「第七問」で。
「人間は『気合』で空を飛べる。○か×か?」
「うっ、うーん。飛べるんじゃねえか。俺も何だか体が浮いてきたような気がするし……」
ウオオオオオーッ
沸き起こる大歓声。本当に何なのこれ? それにあれだけ日本酒飲めば、そりゃあ体が浮いてくる気もしてくるよね。
「よーし。飲みに行くぞー」
礼服の父さんの号令一下、シルクハットにステッキの老谷のじいちゃん、悪役令嬢コスの琴理さん、自分の何倍も体重であるであろうR-2号をグイグイ引っ張るねこや先生、すっかりぐでんぐでんのツッコミおじさんたちがぞろぞろと駅前の居酒屋に。
「「あんたたちは行かなくていいんだからねっ」」
僕とエリスには、母さんと鵜鷺先生が思い切り釘刺し。
分かっていますって、僕にはとてもあの中に混ざる度胸はありません。
「なあオキムネ。あれは本当にあたしの皇帝就任祝いじゃないのか?」
いやエリス。そんなわけだろ。どう見たって、意気投合して盛り上がったコスプレーヤーたちがそのまま飲みに行っているだけだわ。エリスが行っても酒の肴にされるだけだぞ。
「そうなのか。つまらんな」
分かった分かった。そのうちにやるから。しかし、今はお金を稼いで生活を安定させるのが優先だよ。
「分かった」
しかし、アルバイトして、まずは生活を安定させる「皇帝」って何なんだろうなあ。
◇◇◇
「まあまあ、剣汰瓜さん、そうがっかりしないで。せっかく犬咲がウェディングドレス貸してくれたんだし、ここはみんなで記念写真撮ろうよ」
鵜鷺先生、ナイスフォロー。
「そうだね。今はまだ二人とも十五歳だろうから『結婚』じゃなくて『婚約』だろうけど、せっかくだから写真撮ろう」
母さんはどうしても僕とエリスを結婚させたいのね。
「そうそう、ほら、犬咲も入って、あ、老谷さんでしたっけ? あなたも」
「ううっ、生きているうちに花嫁さんと写真撮れるなんて嬉しい」
涙ぐむ老谷のばあちゃん。
「でほら、本堂くん、君も入って」
「先生、そいつあいけねえぜ」
鵜鷺先生のお誘いをニヒルに断るサダヨシ。
「男にゃあ『意地』とか『沽券』というもんがあるんですぜ。オキムネの野郎の婚約写真にへらへら笑って写るのは……」
「男がつまんない意地張っていると、モテなくなるよっ!」
鵜鷺先生、サダヨシの腕を引っ張る。思わぬ行動に赤面するサダヨシ。うん。分かる。こんなことになっちゃてるけど、俺たちゃ本来は普通の高校一年生だもんなあ。
シャッターは駅前交番の婦警さん、高巡査が好意で押してくれた。
これで長かった高校入学三日目も終わるのかなあ。
 




