91 そ・う・い・う・こ・と・は・w
えー、大変ディスカッションが盛り上がっているところ恐縮なんですが、そろそろ痛車仕様のトラクター移動させないと渋滞がますます酷くなるかと。
「老谷さん。『ラブラブ愛蓮』の明るさは認めますが、それは『ラブラブ愛崙』の萌えに及ぶものではないでしょう」
「何を言いますか。新田先輩、『ラブラブ愛蘭』ちゃんこそが至高の存在です」
「何ともお二人とも残念な方たちだ。『ラブラブ愛蓮』ちゃんの素晴らしさが感じられないとは」
聞いちゃいねえ。
◇◇◇
そんな僕の嘆きをよそに転機は訪れた。
「何をやってるんですかあ。足利巡査部長~」
おまわりさんの右肩をチカチカ赤く光る誘導棒で軽く叩く女性。あ、婦警さんだ。
「わあ、高巡査っ!」
「『わあ』じゃありません。渋滞の解消のために痛車仕様のトラクター移動させに来たのに一緒になってアニメ談義で盛り上がってどうするんですかあ。これじゃ『ミイラ取りがミイラ』です」
「そうは言ってもだな。高巡査。こちらのお二人に『ラブラブ愛蘭』ちゃんの至高さを理解させるという重要な問題があってだな」
ぽんぽんぽんぽん
婦警さんのおまわりさんの右肩を叩く誘導棒に力が入る。
「そ・う・い・う・こ・と・は・トラクターを移動させてからやってください」
「はい。そうします」
青菜に塩のおまわりさん。
「あはははは。怒られてやんの」
「婦警さん。よくぞ足利後輩に言ってくれましたぞ。わあっはっはっは」
と高笑いする老谷のじいちゃんと父さん。しかしっ!
「人のことを笑える立場ですか? おじいさん」
「お父さんもです。おまわりさんが誘導してくれることになったんだから、痛車仕様のトラクター移動させなきゃダメでしょ」
自分たちもそれぞれ老谷のばあちゃんと母さんに怒られているお二人。
まあそりゃそうだよね。
◇◇◇
婦警さんの誘導で父さんの痛車仕様のトラクターは交番の駐車場に収まった。
それを待っていたかのような黒山の人だかり。
父さんも気軽に痛車仕様のトラクターをバックに写真撮影に応じているけど、何と言っても大人気なのはウェディングドレス姿のエリス。
痛車仕様のトラクターとウェディングドレス姿の女子高生。まるで狙いすましたようだよ。
そうこうしているうちにみなさんエリスとの写真撮影を希望する人ばっかりになっちゃった。
でも父さん全然気にしていない。老谷のじいちゃんや交番の巡査部長足利さんばかりでなく、わらわら集まった「ラブラブ愛凜」マニアとの間で大盛り上がり。いつの間にやら悪役令嬢コスのままの琴理さんも合流してるし。
「げほんげほん」
張り切って話しすぎたか咳き込む父さん。
「まあまあ、新田さん、これでも一杯」
って、老谷のじいちゃん、それってワンカップの日本酒じゃん。
「ああ、ありがとう。老谷さん。うん、こりゃうまいっ!」
「あーあ飲んじゃいましたか。こりゃ交番の駐車場一晩貸すことになっちゃったなあ」
すみません。おまわりさん。




