89 リアルおまわりさん初登場w
かくてウェディングドレス姿のエリスと燕尾服着用の僕は老谷のじいちゃんに導かれるまま下総屋を出た。
うわっ、父さんの痛車仕様のトラクターの周りは凄い人だかり。近づけるのかなーと思っていたのは杞憂だった。
「うわー」
「反対側からも凄いのが来た」
「ウェディングドレスの女の子かよ」
「えー? あの娘、まだ全然若いよ。中学生? 高校生?」
「おいそこのパッとしない高校生。その場所代われ」
最後にいつものパターンのツッコミがあったものの、ウェディングドレス姿の女の子が痛車仕様のトラクターに向かっているとなりゃあ自然に道は開けられる。
「魔法少女ラブラブ愛凜」仕様の外国産トラクターにゆっくりと歩み寄るウェディングドレス姿の女の子。これ以上にシュールな光景はそうあるもんじゃないしね。
◇◇◇
「おおうっ! 絵栗鼠ちゃん。一段と別嬪さんになっちゃって。さすがはウチの嫁。オキムネ、てめえ生意気なんだよ。十五歳で披露宴やりやがって。俺が母さんと付き合いだしたのも十六歳だぞ。このヤロ。てやんでえ。バーロー。ちきしょう」
父さん、まるでお酒を召しているようですが、こう見えてそういうところは凄いしっかりしているから絶対そういうことはしない人ではあるんです。はい。あのハイはナチュラルです。地です。
「一刻も早くウチの嫁と一緒に記念写真を撮りたいところだが、こう渋滞していちゃあなあ。路上駐車は絶対出来んし」
父さんが「魔法少女ラブラブ愛凜」仕様の外国産トラクター乗ってくるからでしょう。
「何を言うか。オキムネ。祝い事にはお宝出すもんだろう」
ええもうお宝もお宝。「○でも鑑定団」もビックリですよ。
◇◇◇
「何この渋滞と思ってきてみれば、新田先輩の仕業ですか?」
あ、おまわりさんが来た。
途端にウェディングドレスを身にまとったまま僕にしがみつくエリス。わあわあ、だからない胸擦り付けるなっ!
「オッオッオッ、オキムネッ! おまわりさんだっ! おまわりさんが来たぞっ!」
ざわっ
たちまち起こるざわめき。
「キャーッ!」
「あの女の子だいたーん」
「やるなあ。近頃の中学生。いや、高校生」
「痛車仕様の外国産トラクターも凄いが、これも凄い」
「うらやましいぞ。ちきしょう。そこの男子高校生」
しかし、そんなことはまるで意に介さないエリス。僕にしがみついたままだ。
「オキムネーッ、おまわりさんだー。撃つのかっ? 撃つのかっ? 発砲するのかっ?」
おおお、おちつけーエリスー。取りあえずない胸擦りつけるのをやめろー。あのおまわりさんはだな。父さんのところに来たのだ。エリスのところに来たんじゃないっ! だから撃たれるとしたら父さんなのだっ! エリスではないっ!
「なーんだ。そうか」
それを聞くや否や僕から離れるエリス。いささか拍子抜け。
「撃たれるのはオキムネのお父上なのだな。あたしでないならそれは安心」
エリス。父さんが「ウチの嫁」まで言っているのに結構薄情ね。




