88 痛車トラクター人に囲まれるw
「そして、母さんもこれからすぐ江戸褄持って、軽自動車で追いかけます。覚悟しなさい。オキムネ」
覚悟って何ですか? 覚悟って? 母さん。つーか江戸褄って、新郎新婦の母親が着るもんでしょう? 僕はまだ高校生で、兄ちゃんだって大学生なのに何でそんなもの持っているの?
「うむっ、よく聞いたオキムネ。お父さんの妻たる者、いつでも笑いが取れ…… いやもとい、いつでもどこでもどんと来いやあ。準備万端。備えあれば嬉しいな」
母さん、絶対一番大事なのは「いつでも笑いが取れ」のところですね。でも、何で父さんのトラクターで一緒に来なかったの?
「やあねえ。あんな恥ずかしい車に一緒に乗れるもんですか。トラクターだというのはいいけど、痛車よお。痛車。しかも『魔法少女ラブラブ愛凜』よお。十歳の女の子が『ラブパワーッ、ビッグバンッ! 魔法少女っ! ラブラブラブリーンッ!』って言って変身するやつよ。ああ恥ずかしい」
こっちは「恥ずかしい」んですか? 母さんの基準がよく分かりません。息子だけど。
◇◇◇
ざわざわざわ ぱぱー ざわざわざわ
そうこうしているうちに建物の外が騒がしくなってきたぞ。
「ああ、もうお父さん、駅前に着くんじゃないかな。国産トラクターは時速35km以上出ない設計になっているけど、今回のお父さんのは外国産だからね。普通車と同等のスピードが出るから」
全く普段は普通の国産トラクターを痛車にもしないで農作業しているのに。趣味のためにだけ外国産で痛車仕様のトラクター持っているって何よ。
「ほんじゃ母さんもこれから行くからねー。絵栗鼠ちゃんがそっちでブレザーからウェディングドレスに着替えたんでしょ。母さんも江戸褄に着替えちゃうと運転しづらいからそっちで着替えるわ。ああ、言っとくけど母さんはいつもの軽自動車で行くからね。痛車じゃ行かないから。んじゃね」
母さん、さんざん言いたいことだけ言って、電話を切りました。はあ、これからどうしよう。
◇◇◇
「オキムネちゃーん」
息せき切ってやってきたのは老谷のじいちゃん。隣にはニヤニヤしながらサダヨシがついてくる。くっそー、今回の元凶めえ。
「お父さんのトラクター。もう人に囲まれちゃって大変だよ。車も凄い渋滞になっているし。いやあまさか『ラブラブ愛凜』仕様のトラクターを隠し持っているとは。さすがはお父さん。半端ないねえ」
父さんはこのまま帰っていただいてもいいんですけどね。
「老谷さん。ここはオキムネと絵栗鼠ちゃんが痛車トラクターの方に行くのはどうでしょう」
ニヤニヤしながら提案するサダヨシ。くっそー。
「おおっ、それはいいかもね。おーい絵栗鼠ちゃーん」
エリスに声をかける老谷のじいちゃん。この事態収拾つくのか?




