86 ウェディングドレスはいろんな意味で大騒ぎw
「「じゃあああああん」」
犬咲店長と琴理さんの掛け声一下現れたのは白いウェディングドレスを身にまとったエリス。うおっ。
どこで調達したのかブーケを持っている。ここで左眼をつぶってみると、下ろしていた前髪を上げ、ちょっとはにかんでいるような様子が可愛くも見える。
だがそれはその瞬間だけだった。エリスはブーケを片手に持ったままツカツカと僕に歩み寄ると一言。
「わっ、悪いかっ? オキムネッ?」
いえ誰も悪いとは言っていませんが……
「あっ、あたしだってな、姉上たちの結婚する時、こんな服着るのを何度も見てきたんだっ! 自分も着てみたいと思ったんだっ! 悪いかっ?」
だから悪いなんて一言も言ってないって。
「「ぷっぷっぷっ、ああっはっはっは。絵栗鼠ちゃん、かーわいーい」
後ろでは犬咲店長と琴理さんが大爆笑。
全くもう。
◇◇◇
「まあとにかくこれをあたしたちだけで独占するのはいかんわんね。さあみなさんにお披露目しましょうわん」
「そうですね。またあたしが先導します」
犬咲店長の呼びかけに琴理さん、扉を開けに走る。
張り切っているよなあと思って見ていると……
「ほらほら、新田くん、何ボーッとしてんの。花嫁さんと腕くんで」
犬咲店長にけしかけられたけど。うっ、うーん。さすがにちょっと緊張するなあ。
「ほれっ!」
わあっ、エリスが腕突っ込んできたっ!
「ふふふ。かかあ天下ね」
あ、また犬咲店長に笑われた。
◇◇◇
「「「「「うっ、うおおおおおおおーっ」」」」」
さすがにウェディングドレスはインパクト抜群。下総屋店内は大盛り上がり。
「絵栗鼠ちゃーん、綺麗だよ-」
「ちょっと見ない間にこんなに立派になって」
「下総屋に咲く一輪の花―っ」
「なんつー目の保養―っ」
「おい、そこの冴えない男子高校生。その場所代われ」
はいはい。最後のツッコミはあると思ってました。
◇◇◇
「そ、そうなんだよ。絵栗鼠ちゃんが真っ白いウェディングドレス着ちゃってさ。すっげえ綺麗。スマホの写真送るけどさあ、近所の下総屋だし、直に見に来た方がいいよ。ばあちゃん」
老谷のじいちゃん大興奮でばあちゃんに電話しているよ。こりゃばあちゃんも来そうだね。
エリスはと見れば、口をへの字に曲げて、凄い緊張した顔。まあ、緊張しているのは僕もそうなんだけど。後。エリスのウェディングドレスの裾踏まないか怖い。
などと思いつつゆっくりと歩いていたら後ろから聞き覚えのある声がした。
「キャー見て見てっ! 絵栗鼠ちゃん、ウェディングドレス着てる。流石ねえ。やるわねえ」
「剣汰瓜さんと犬咲会わせたら、絶対凄い相乗効果が出ると思ってはいたけど、こんなに早く出るとはねー」
振り返るまでもない。ねこや先生と鵜鷺先生だ。学校もう終わったのかな? 時計見たら午後六時回ってる。
ドサッ
今度はカバンを落とす音がした。これも振り返るまでもない。奴だ。




