85 その者白き衣を身にまとわんとすw
何と! そこにあったのはウェディングドレス!
すげえぜ下総屋、こんなものまで扱っているの?
「ふっ、ふーん」
悪役令嬢コスのままドヤ顔の琴理さん。
「下総屋は何でも扱うからねえ。劇団のみなさんにも重宝されているのよん」
それは知らなかった。そう言えば中古の電気製品のコーナーの隣にダイヤル式の電話とか電気を使わない魔法瓶とかが置いてありましたね。
「それも劇団のみなさんに重宝されているのよん。まあ、コレクションしている人もいるのだけどね」
ほうほうと感心していると……
「オキムネッ!」
わあ、エリスに一喝された。
◇◇◇
「オキムネッ! あたしはこれを着たいぞっ!」
真っ白なウェディングドレスを指差すエリス。
いやでもこれ売り物だよねえ。
「ふーん」
ニヤニヤしながらこっちを見ている琴理さん。
「これは彼氏の新田くんが買ってあげてプレゼントかな?」
そんな琴理さん。でも一応値札見たら一万円。おおう。本物のウェディングドレスではなくて、演劇とか使うものみたいだけど、それでも高校生には高い。
「あーっはっはっは」
琴理さん大笑い。全く人が悪い。
「お金がなくて、アルバイトに応募してきた高校生が買えるわけないよね。今のはシモウサンジョーク」
何なんですか、その「シモウサンジョーク」というのは。
「店長―」
犬咲店長を振り向く琴理さん。
「絵栗鼠ちゃん。白のウェディングドレス着たいそうですよー」
「うむっ!」
目を閉じて、腕組みをし、大きく頷く犬咲店長。
「セーラー服に学ランもいいけど、白のウェディングドレスを身にまとったJKってのもウチのウリになりそうだわんねえ」
「ウチのウリ」って、ここは中古用品の店でしょう。どうしてそうコスプレに走るんですか?
「店長―。新田くんはこれでどうでしょうー?」
何やら持ってきた琴理さんに犬咲店長、サムズアップ。
「グッジョブ! ピッピちゃん」
何を持ってきたのかと思って見れば燕尾服! そんなものまであるんですか。下総屋は?
◇◇◇
「んじゃじゃ、絵栗鼠ちゃんと新田くんはいったん事務室戻りましょ」
そんな琴理さんの言葉に周囲のお客さんから不満の声が。
「えーっ、ピッピちゃん。絵栗鼠ちゃん連れて行っちゃうの?」
「だーいじょうぶ、大丈夫。『お色直し』するだけだから」
「お色直し」ってもう。
◇◇◇
「新田くんは自分で着替えてね。あたしたちは絵栗鼠ちゃんの着付けをやるから」
もう嬉しくてたまらないという表情で更衣室に入っていく琴理さんに犬咲店長。
幸か不幸か燕尾服は僕に合うサイズだった。さっきまで着ていた学ランや普段着ているブレザーと比べても動きにくいけれど、どうにも動けないというほどでもない。
でもエリスの方は自分から望んだとはいえ結構大変なんじゃと思っていたら、更衣室から声がした。
「お待たせー。花婿さん。着替え終わったー? これからお嫁さんが行くよー」
琴理さんも犬咲店長ノリノリだなあ。




